サイエンス

「あらゆる変異株に有効なコロナワクチン登場はすぐそこ」とアイルランドの若き天才実業家が提言、実現までの課題とは?


アメリカの決済システム・Stripeの最高経営責任者であり、「世界で最も若いビリオネア」とも評されるパトリック・コリソン氏が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の研究を加速させるための慈善団体・Fast Grantsの設立者の1人としての立場から、相次ぐ変異株にも効果的なワクチンの開発と普及についての現状と今後の課題について論じました。

We could have universal COVID vaccines very soon — if we urgently reform the process
https://www.slowboring.com/p/we-could-have-universal-covid-vaccines

コリソン氏は、COVID-19の研究を加速させる「オペレーション・ワープ・スピード」を高く評価しており、従来のワクチン開発プロセスからは考えられないほど短期間でワクチンを開発できたことについて「全体としては非常にいい結果であり、私たち全員が誇りに思えるものでした」と位置づけています。


しかし、その後のCOVID-19への対応は思わしいものではありません。パンデミック初期のような緊迫感は時間の経過と共に失われ、多くの変異株や亜種の発生を許し、その結果ワクチンの効果は大きく低下することになりました。日本では、2022年7月20日時点でのCOVID-19の新規感染者数が過去最多を更新していますが、アメリカでも7月に入ってから前年の同時期を上回る感染者数が報告されている状況が続いています。

このため、世界各国でワクチン追加接種などの取り組みが継続されていますが、接種されているワクチンの多くは置き換えが進んでいるオミクロン株ではなくオリジナルの武漢株などをターゲットにしたものであるため、コリソン氏はこの現状を「ずっと前に競争に敗れた変異株へのワクチンを人々に接種しているという、構造的に愚かな状況がまん延しています」と指摘しています。


既存のワクチンの効果が低い変異株に対応するため、各製薬会社は武漢株とオミクロン株のスパイクタンパク質を組み合わせた「二価ワクチン」の開発を進めています。しかし、最近の報告では二価ワクチンの候補が現行の亜種である「BA.4」や「BA.5」に対して持つ中和効果は、以前流行した「BA.1」に比べて3分の1しかないことが示されています。このことから、「個別の変異株や亜種に対応したワクチンは時間稼ぎにはなるものの万能薬にはならない」とコリソン氏は考えています。

こうした中でコリソン氏が期待を託しているのが、あらゆる変異株に対して優れた総合免疫を付与する「汎変異株(pan-variant)ワクチン」の登場です。まだ開発されていないため、それがどのようなワクチンなのかも決まっていませんが、コリソン氏によると鼻腔(びくう)や粘膜を対象としたワクチンになると考えられるとのこと。

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汎変異株ワクチンの基本的な戦略は、変異株が登場しても変化しない部分を免疫のターゲットにするべく、さまざまなスパイクタンパク質の一部分を埋め込んだナノ粒子を用いるというもの。現行のワクチンはスパイクタンパク質全体を使っているため、免疫システムが急速に変化しやすい部分をターゲットにしてしまうことがありますが、変化しない部分を狙うようにできれば効果は非常に高くなります。

既にイェール大学の岩崎明子研究室、ワシントン大学のDavid Veesler研究室、カリフォルニア工科大学のPamela Bjorkman研究室など、多くのグループがこの汎変異株ワクチンの開発に取り組んでおり、マウスや霊長類を用いた初期の試験でも有望な結果が得られています。そこで、コリソン氏らが率いるFast Grantsはこれらのワクチン開発グループとの連携を進めているものの、コリンズ氏らの力だけでは対処できない課題もあります。

ワクチン開発の典型的な課題は資金不足ですが、もっと初歩的な問題で開発が何カ月も遅れることもしばしばです。例えば、あるグループは試験に用いるサルが税関での手続きの遅れで到着せず、試験の開始が大きく後ろ倒しになりました。また、法的な問題により研究目的で現行のmRNAワクチンを入手することができないグループや、ワクチンではなく補助剤であるアジュバントが入手できないグループもあるとのこと。


こうした物流や規制上の課題により、このままでは汎変異株ワクチンの登場は早くても2024年ごろになると見積もられています。そのため、コリソン氏は「ヒト臨床試験を行うハードルを下げる」「ワクチン開発グループが速やかに製造規模を拡大できるよう支援する」「オペレーション・ワープ・スピードのように当局の承認プロセスに介入する」といった対策を提言しています。

コリソン氏によると、オペレーション・ワープ・スピードの第1弾には100億ドル(約1兆3800億円)がかかりましたが、第2弾は10分の1の予算でできるとのこと。また、アメリカ食品医薬品局による承認プロセスに適切な介入ができれば2022年末にも汎変異株ワクチンが展開できると、コリソン氏は考えています。

コリソン氏は末尾で「Fast Grantsの一員として、私たちはできる限りのことをしてきましたが、前述のような障害は私たちの手に余るものです。そこで、私たちはワクチン開発グループが取り組んでいる重要な仕事を目立たせ、より緊急に行動することでもたらされる影響を強調したいと思います。汎変異株ワクチンは、多くの命を救い、苦しみや経済的損失を回避するための重要かつ手頃なチャンスなのです」と訴えました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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