サイエンス

「新型コロナウイルス変異株」とは何なのか?


イギリスやブラジルなどで猛威を振るっている新型コロナウイルスの変異株について、分子疫学を専門とするバース大学のエド・フェイル教授が、「そもそも変異株とは何なのか」を解説しています。

Coronavirus variants: how did they evolve and what do they mean?
https://theconversation.com/coronavirus-variants-how-did-they-evolve-and-what-do-they-mean-153405

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年を通して世界規模で流行し続けましたが、2020年12月からは「感染力の強い変異株」が猛威を振るっています。新たに変異株が見つかったブラジルのマナウスでは医療崩壊が深刻化しており、「命の選別」が行われ出しています。フェイル教授によると、マナウスでは全重症患者に行き渡るだけの人工呼吸器がもはやなく、「何をしても助からない」とみなされた患者にはモルヒネが渡されるのみという状況になっているとのこと。

《ブラジル》マナウス市「酸素不足で病院が窒息室に」=医療崩壊の現実に全国衝撃=230人以上を他州に緊急移送 – ブラジル知るならニッケイ新聞WEB
https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/210116-11brasil.html


新型コロナウイルスは多種多様な変異株が確認されていますが、2021年1月時点で広く拡散しているとみられるのが、「イギリス型」と「南アフリカ型」、そして前述のマナウスで流行している「ブラジル型」の3種類です。この3種類はそれぞれ異なる大陸で発見されているにもかかわらず、一部の変異が共通しているとのこと。

3種の中でも2種のみが共有している変異などもありますが、3種全てに共通するのは「N501Y」と呼ばれるスパイクタンパク質の変異です。N501Yは、感染時にウイルス本体とヒト細胞の結合を強化する能力があり、他の変異から影響を受けてその能力を大幅に増幅させるとみられていますが、「なぜ他の変異から影響を受けるか」については不明です。


イギリス型は23種の変異を有しており、これら変異は感染力などに対する影響度がそれぞれ異なりますが、「エピスタシス」と呼ばれる「変異同士の相互作用」が存在するため、各変異のリスクを別個に見積もるのは困難です。また、23種の変異を有するに至るまでには「変異が1つずつ増える」という過程が存在したと考えられますが、大本の新型コロナウイルスとイギリス型の中間となるような変異株は発見されておらず、その変異の過程はミッシングリンクといえる状況です。

こうした変異株が出現した原因について、フェイル教授は人体の免疫が影響を与えた可能性があると指摘。イギリス型の発生原因を説明する理論の中では、「すでに回復した患者の血漿を投与するという免疫療法を受けた慢性患者の体内で変異が生じた」というイギリスの研究チームの仮説が一番妥当に見えるとコメント。そのほかにも、ブラジル型が全人口の76%が感染した可能性すらあるといわれるマナウスで発生したことから、高レベルの集団免疫がスパイクタンパク質の変異に影響を与えた可能性があると語りました。

日本の厚生労働省は2021年1月18日付けで「渡航歴はなく、不特定多数との接触もない男女3人がイギリス型の変異株に感染した」と発表しており、新型コロナウイルス変異株の市中感染はすでに始まっています。

新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16152.html


フェイル教授は「変異株が懸念を引き起こしていますが、ワクチンこそが最終的にパンデミックを終わらせると確信しています。現段階では、変異株に対してワクチンが効きにくいという証拠は見つかっていません」とコメントしています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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