新型コロナの未知の変異株やSARS-CoV-2以外のコロナウイルスにも有効な新型ワクチンが開発される
一般的なウイルスと同様に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は感染・増殖を繰り返す中で変異しており、アルファ株・ベータ株・デルタ株・オミクロン株などさまざまな変異株が報告されています。新たにカリフォルニア工科大学やオックスフォード大学などの研究チームは、「未知の新型コロナウイルス変異株や類似したコロナウイルスからの保護効果を持つ可能性があるワクチン」を開発したと報告しました。
Mosaic RBD nanoparticles protect against challenge by diverse sarbecoviruses in animal models
https://doi.org/10.1126/science.abq0839
New vaccine may protect against future variants of COVID-19 and other related coronaviruses | www.caltech.edu
https://www.caltech.edu/about/news/sars-coronavirus-variant-vaccine-bjorkman
一般的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の遺伝情報を注入して体内でタンパク質を作らせて、これに対する抗体を産生させることで免疫反応を誘導しています。ところがこの種のワクチンでは、ウイルスが変異した際にスパイクタンパク質も変化すると、既存の抗体や免疫応答が十分な効果を発揮できなくなる場合があります。
カリフォルニア工科大学の生物工学者であるパメラ・ビョークマン氏は、「SARS-CoV-2は世界的なCOVID-19パンデミックを長引かせる可能性がある新たな変異株を作ることができると知られています」「さらに、過去20年間で3つのベータコロナウイルス属のコロナウイルス(SARSコロナウイルス・MERSコロナウイルス・SARS-CoV-2)が動物宿主からヒトに波及したという事実は、広範囲の保護効果を持つワクチン製造の必要性を示しています」と述べています。
そこでビョークマン氏らの研究チームは、タンパク質で構成されたナノ粒子に複数種のウイルスの一部を付着させるタイプの新しいワクチンを開発しました。このナノ粒子は表面に粘着性のある付属物が存在し、そこに複数種のウイルスタンパク質を付着させることができます。今回の研究では、SARS-CoV-2を含む8種類のベータコロナウイルス属SARSコロナウイルスについて、ヒト細胞に侵入するのに必要なスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(Receptor Binding Domain/RBD)をナノ粒子に付着させたワクチンを製造し、その効果を確かめる実験を行いました。
まず研究チームは、8種類のウイルスのRBDを付着させたナノ粒子ワクチン(モザイク-8ワクチン)と、SARS-CoV-2のみのRBDを付着させたナノ粒子ワクチン(ホモタイプワクチン)、そしてウイルス片が付着していないナノ粒子ワクチンをマウスに接種しました。この実験に用いられたマウスは、SARS-CoV-2が細胞内に侵入するために使用されるACE2受容体が発現するように遺伝子操作されており、ワクチン未接種の状態でSARS-CoV-2に感染すると死亡するようになっていたとのこと。また、モザイク-8ワクチンには意図的にSARSコロナウイルスのRBDを付着させていませんでした。
ワクチン接種後、研究チームはマウスをSARS-CoV-2あるいはSARSコロナウイルスに感染させ、ワクチンが保護効果を発揮したかどうかを分析。その結果、ウイルス片を付着させなかったワクチンを接種したマウスは、SARS-CoV-2またはSARSコロナウイルスに感染すると死亡し、ホモタイプワクチンを接種したマウスはSARS-CoV-2に暴露されても生存したものの、SARSコロナウイルスに暴露すると死亡したとのこと。さらに、モザイク-8ワクチンを接種したすべてのマウスは、SARS-CoV-2およびSARSコロナウイルスの両方について、体重減少やその他の重大な症状を見せることなく生き延びることが確認されました。
続いて研究チームは霊長類でも実験を行い、モザイク-8ワクチンを接種した個体とワクチン未接種の個体において、SARS-CoV-2またはSARSコロナウイルスからの保護効果を比較しました。その結果、やはりモザイク-8ワクチンを接種した個体ではSARS-CoV-2とSARSコロナウイルスの症状がほとんど現れず、十分な保護効果が確認されたとのこと。モザイク-8ワクチンを接種した個体で産生された抗体は、SARSファミリーの多様なコロナウイルスにおいて一般的なRBDを標的としており、これがモザイク-8ワクチンに含まれていないSARSコロナウイルスからの保護効果をもたらしたと考えられています。
研究チームは次のステップとして、Coalition for Epidemic Preparedness Initiative(感染症流行対策イノベーション連合/CEPI)の支援する第Ⅰ相臨床試験において、ヒトにおけるモザイク-8ワクチンの効果を評価する予定です。CEPIのCEOを務めるリチャード・ハットチェット博士は、「私たちはパンデミックの当初から、ワクチン開発における多様性の必要について話し合ってきました」「ビョークマン氏のラボ研究で示されたブレイクスルーは、新しいワクチンプラットフォームを追求する戦略の大きな可能性を示しており、これが新しい変異株によるハードルを克服するかもしれません」と述べました。
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