サイエンス

ワクチン接種者と未接種者の体内で新型コロナウイルスの変異株がどのように多様性を持つのかを調べた研究


ウイルスと宿主の因子は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異を形作ることができます。しかし、体内で発生する系統特異的およびワクチン特異的な変異については、ほとんど知られていません。そこで、異なるウイルス系統を持つ2820のSARS-CoV-2呼吸器サンプルをディープシーケンスで分析するという実験を、香港大学李嘉誠医学院の公衆衛生検査科学部門で博士研究員を務めるHaogao Gu氏ら研究チームが行っています。

Within-host genetic diversity of SARS-CoV-2 lineages in unvaccinated and vaccinated individuals | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-023-37468-y


世界人口の69%以上が新型コロナウイルスワクチンを接種しているにもかかわらず、新しい変異株が登場することで、SARS-CoV-2の感染リスクおよび再感染リスクは高まっています。実際、SARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC)は、自然免疫や獲得免疫を回避する能力を有していることが実証されているそうです。そのため、SARS-CoV-2の変異および進化の過程におけるワクチン接種の影響を調べることは「極めて重要」であると、Gu氏ら研究チームは語っています。


SARS-CoV-2に関するこれまでの研究では、パンデミックを通じて局所的、地域的、世界的なスケールでSARS-CoV-2の変異株がどのように伝播・進化するのかについては調べられてきました。しかし、SARS-CoV-2の変異が宿主内でどのように発生・蓄積されるかについては、ほとんど調査されてこなかったそうです。

宿主内でのウイルスの突然変異はDNAの複製エラーや損傷・編集によって生じる可能性があり、遺伝的浮動や自然選択的なプロセスによって固定化される可能性もあります。先行研究から一部の領域における理解は深まっているものの、宿主がSARS-CoV-2の変異にどのような影響を与えるかは理解されていないため、宿主内のSARS-CoV-2の多様性を調べることは依然として重要なプロセスと考えられている模様。


そこで、研究チームは2020年6月から2022年9月にかけて香港で収集された2820個のSARS-CoV-2呼吸器サンプルを分析し、ワクチン接種者と未接種者の体内でSARS-CoV-2変異株がどのような変異パターンを見せるかを調査しました。

新型コロナウイルスのワクチン未接種者は、VOCであるアルファ株、デルタ株、オミクロン株の呼吸器サンプルが、非VOCと比べてホスト内での多様性が高く、全ゲノムレベルでの純化選択(変異を排除しようとする自然選択)に対して中立であることが明らかになりました。

これに対して、ファイザーの新型コロナウイルスワクチンである「Comirnaty」やシノバックの新型コロナウイルスワクチン「CoronaVac」を2回あるいは3回接種した場合、ブレイクスルー感染非同義置換のレベルは上昇せず、選択圧の方向性も変わらないことが明らかになっています。つまり、ワクチンによる抗体やT細胞応答は、宿主内でのSARS-CoV-2配列の多様化には大きな影響をおよぼさない模様。


この結果について、研究チームは「ワクチン接種がSARS-CoV-2タンパク質の配列空間の探索を増加させず、ウイルス変異体の出現を促進しない可能性があることを示唆するものです」と説明しています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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