サイエンス

なぜ「風邪ワクチン」は存在しないのか?


新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、本格的なワクチンの開発が始まってから1年にも満たない異例の短期間でワクチンが作られました。未知の感染症に対するワクチンが1年足らずで作れるのに、有史以前から人類を悩ませてきた風邪のワクチンが登場しない理由を、サイエンス系ニュースサイトのINVERSEが専門家に尋ねました。

Why Isn’t There a Vaccine for the Common Cold? A Virologist Reveals the Hidden Reason
https://www.inverse.com/health/vaccine-common-cold-virologist-rhinoviruses

◆風邪ワクチンがないのはなぜ?
ワシントン大学メディカルセンターのアレックス・グレニンジャー准教授によると、風邪の大部分はヒトライノウイルスと呼ばれるグループのウイルスが原因だとのこと。風邪にはほかにも、ヒトメタニューモウイルスヒトコロナウイルス(新型コロナウイルスとは別のウイルス)、パラインフルエンザウイルスなどによっても引き起こされます。

こうしたウイルスが起こした風邪は、鼻づまりや鼻水、喉の痛み、せきといった症状として表れますが、ワクチンや抗ウイルス薬は作られていません。


風邪の原因となるウイルスのワクチンが作られないのは、ウイルスの進化のスピードがワクチンの開発速度よりも速いためです。例えば、一口にライノウイルスと言っても100種類以上あると言われており、それらすべてに対応するワクチンの開発は困難です。

コロンビア大学の小児科医であるローレンス・スタンベリー教授は「ウイルスは意図的に雑な自己複製をしています。あるウイルスに感染してから病気が治っても、数年もすればまた同じ病気にかかってしまうほど変化しているでしょう」と話しました。

◆風邪ワクチンを作ろうとしたことはある?
ライノウイルスワクチンの開発に挑戦した人々もいます。1975年の研究で、アメリカ・バージニア大学の研究者たちは2種類の10価ライノウイルスワクチンのヒト臨床試験を行い、そのワクチンの安全性や効果を調べました。その結果、副反応はなかったものの、ワクチンを1回接種しただけでは対象としたウイルスの30%でしか抗原反応を引き起こすことはできませんでした。

また、2016年に科学誌・Natureで発表された研究では、マウスとアカゲザルを用いて25価と50価のワクチンをテストし、流行しているライノウイルスの約3分の1に対して免疫原性が得られました。

この実験の結果から、著者らは「ライノウイルスの複数の変異型を標的とするワクチンは、何十ものウイルス遺伝子型に対して強固な免疫反応を引き起こす可能性がある」と結論づけています。しかし、仮に50価のワクチンができても、流行しているライノウイルス株の3分の1程度しかカバーできないため、せいぜい感染率を30~40%下げる程度しかないとのこと。


感染率をゼロにできなくとも、ある程度感染の可能性を低下させることで得られるメリットがあります。それは、流行する株が変化することや、どの株が流行しているのかを追跡しやすくなることです。

その例として、グレニンジャー氏は2種類の経口ワクチンがあるロタウイルスを挙げて、「感染が劇的に減少するので、それ自体が最も重要なことですが、もうひとつのメリットとして、ワクチンでカバーされていないロタウイルスの流行が続いていることが把握できます」と話しました。

◆将来風邪ワクチンが登場する可能性は?
ワクチンの開発、試験、接種、更新には費用がかかるため、ワクチンの開発はどうしても経済的な効果との綱引きになり、多くの死者を出しているインフルエンザといった他のウイルス感染症に比べると、優先順位が落ちます。

逆に言うと、命にかかわるケースでは風邪ワクチンの有効性が認められるということでもあります。スタンベリー氏によると、免疫不全の患者に一部のライノウイルスの遺伝子型を対象としたワクチンを接種することの有効性を認める動きがあるとのこと。また、風邪が症状を悪化させたり、風邪から肺炎などの重篤な感染症につながったりする危険性がある慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者や、ぜんそくや嚢胞(のうほう)性線維症といった呼吸器疾患を抱えている人でも同様です。


2人の専門家の話から、INVERSEは「風邪ワクチンが作られる日が来るかどうかの予測は難しいですが、当分の間、健康な人たちは自力で風邪に対処しなければならなそうです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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