サイエンス

オミクロン株が「人間の免疫機能」の実態を明らかにしつつある


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変異株であるオミクロン株が世界的に広まり、多くの国で感染のピークを迎えています。世界はまだ混乱状態にあるものの、COVID-19に伴うさまざまなワクチンが開発され、ブースター接種の効果、変異株へのワクチンの効果などに対する臨床試験が行われることで、人間の免疫機能についての興味深い事実が明らかになってきています。

What the Omicron wave is revealing about human immunity
https://www.nature.com/articles/d41586-022-00214-3

◆「中和抗体」とは何か、人間の免疫系とどう関係しているのか?
COVID-19に関する情報の中で「中和抗体」が重要であると耳にしたことがある人も多いはず。中和抗体は病原体が細胞に及ぼす影響を中和して、細胞を防御する抗体のことを言います。

体の中に細菌やウイルスが入ると、まずリンパ球の1種であるB細胞が反応し、分裂を始め、「抗体」というたんぱく質を大量生産する形質細胞に分化します。抗体にはさまざまな種類がありますが、病原体を攻撃するためのフラグをつけるものや、感染を防ぐために病原体と結合するものなどを中和抗体と呼びます。多くの科学研究において、この中和抗体が「免疫の防御力」の指標として使われています。

COVID-19に関しては、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した場合、感染後しばらくすると中和抗体レベルが下がってしまう」ことが研究で示されています。この情報を懸念する人もいますが、多くの免疫学者にとっては予想の範囲内とのこと。というのも、中和抗体を生み出すB細胞はそもそも短命であるためです。

◆「中和抗体レベルが下がる」が意味することとは?
病気から回復した後において重要なのは、病原体が再び体に侵入してきたときに、それをターゲットにして攻撃を行う「長寿命のB細胞」を体が作れるかどうかということ。このようなB細胞は通常「胚中心」と呼ばれる構造内で作られます。胚中心は人が病原体に感染するとリンパ節などの免疫組織内に作られる微小構造で、「B細胞のトレーニングキャンプ」のようなものとのこと。胚中心で増殖し変異を繰り返したB細胞のうち、「最高の抗体を産生するもの」が生き残ります。

上記プロセスは1か月ほどの期間をかけて行われ、最終的に生き残ったものが「メモリーB細胞」となり、血中を循環します。B細胞は抗体を作りませんが、ウイルスやウイルスたんぱく質に遭遇すると急速に分裂し、抗体を生み出す形質細胞へと変化します。そして残ったメモリーB細胞は長寿命の形質細胞になり、骨髄で少量かつ高品質の抗体を作り続けるとのこと。


体の中でB細胞がどのように働いているのかは、以下の記事を読むとよくわかります。

細菌やウイルスに対して免疫系はどのように戦っているのか? - GIGAZINE


研究からは「COVID-19感染後2~3カ月で急速に抗体レベルは落ちるものの、4カ月後には低下が緩やかになる」ということが示されており、これはメモリーB細胞の働きと一致します。免疫学者のRafi Ahmed氏は中和抗体レベルの低下を表すグラフについて、ある期間をすぎるとカーブの形が安定し、「とてもいい感じに見える」とコメントしました。

◆中和抗体レベルが下がるとワクチンの効果はなくなっているのか?
感染者だけでなく、2度のワクチン接種を終えた人についても、時間の経過とともに中和抗体レベルの低下が報告されています。また、オミクロン株についてはワクチンを2度接種していても感染する「ブレイクスルー感染」も多数報告されています。これらの情報から「ワクチンの効果がなくなっている」と言われますが、一方で感染後の重症化に対しては保護効果があることも判明しました。

ブレイクスルー感染のデータから見る「ワクチンの有効性」とは? - GIGAZINE


基本的にワクチンは感染を模したものですが、COVID-19ワクチンである「mRNAワクチン」については、「ウイルスそのものではなくスパイクタンパク質というウイルスの一部分に反応する」という違いを持ちます。

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このためワクチン接種者の抗体レベル低下が、COVID-19感染後の人のように「一定レベルまで低下するがその後安定する」かどうかはわかりません。免疫学者のShane Crotty氏は「おそらく免疫による防御は何年も続くだろう」と述べました。

◆なぜ中和抗体レベルが下がっても「免疫効果」は存在し続けるのか?
人間の免疫には上記の「中和抗体」「B細胞」だけでなく、「T細胞」も深く関わっています。T細胞は抗原と接触するとさまざまな役割を持った「エフェクターT細胞」を増殖させます。エフェクターT細胞から、病原体に感染した細胞を殺す「キラーT細胞」や、他の免疫機能を刺激する役割を持つ「ヘルパーT細胞」などが分裂していきます。そして病原体という脅威が去った後には、メモリーB細胞と同様の機能を持つ「メモリーT細胞」が残るとのこと。

COVID-19に関していえば、「普通の風邪にかかった時の記憶」が免疫効果を発揮しているとも言われています。これは長期間にわたって体内に保存されるメモリーT細胞が免疫効果を発揮している可能性があるとのこと。研究者は、メモリーT細胞のうち類似した抗原に反応する「交差反応性T細胞」が反応し、深刻な感染が起こる前に病原体をシャットダウンするという仮説を立てています。

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上記はまだ仮説ですが、確かなのはメモリー細胞が「中和抗体のようには機能しないものの、感染を阻止することができる」ということ。メモリー細胞は感染後、効果を発揮するまでに時間がかかるため、感染者にはある程度の症状が現れます。しかし、最終的には重症化や入院率を下げるほどの免疫効果が現れるわけです。

また、COVID-19感染者やワクチン接種者のT細胞は、多数の変異があるにもかかわらず、オミクロン株に対してもデルタ株とほぼ同じ細胞応答を行ったことが研究で示されています。これは、「T細胞が抗体であれば反応しない部分にも反応すること」や、「T細胞は人によって異なるのでウイルスが回避策を見つけ出せないこと」などが理由だと考えられています。

◆ブースターショットはなぜ効果を発揮するのか?
ファイザーやモデルナが提供するmRNAワクチンは、スパイクタンパク質を標的としたものです。オミクロン株のスパイクタンパク質はデルタ株から変化していることを考えると、mRNAワクチンの防御効果が小さくなることは当然と言えます。一方で、mRNAワクチンのブースターショットによってなぜ免疫効果が復活するのかという理由は、実は完全にはわかっていないとのこと。

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これについての1つの仮説は、「メモリーB細胞は『変異体はどのような形になるのか』を推測するため、ブースターショットによってメモリーB細胞が活性化されることで、オミクロン株に対処する抗体が作られる」というもの。また、別の仮説には「ブースターショットが胚中心の中でB細胞をさらに変異させる」というものもあります。

ただしオミクロン株に対しては、ブースターショットの効果が限定的であることは確か。この事態に対処するため、ファイザーやモデルナは、オミクロン株特有のワクチンを開発しています。

◆効果の高いワクチンはどういうものなのか?
COVID-19が流行してから、さまざまな研究機関がこぞってワクチン開発に取り組みました。ファイザーやモデルナはmRNAワクチンを開発しましたが、アストラゼネカやジョンソン&ジョンソンは、無害なアデノウイルスにSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のRNAを組み込む形でワクチンを開発しました。

「ジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチンは他のワクチンとどう違うのか?」など4つの質問に専門家が回答 - GIGAZINE


「ジョンソン&ジョンソンのワクチンを接種した人の免疫反応はmRNAワクチンのそれよりも弱い」と言われていますが、実は時間の経過と共に免疫反応が強くなることが示されています。同じウイルスに対して異なるワクチンを開発して臨床試験を行うことで、通常時ではわからないワクチンごとの免疫応答の違いが明らかになってきているわけです。

研究者が注目しているのは、「異なるワクチンを打つ」ことの効果について。最新のデータでは、「1度目はアストラゼネカもしくはファイザーのワクチンを接種、2度目はモデルナのワクチンを接種」という形でワクチン接種すると、抗体反応がより高まることが示されています。これは「クロストレーニング」のようなもので、さまざまな種類のワクチンを組み合わせることで、より柔軟かつ多様な免疫記憶を生み出すことが可能なのだと考えられています。

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また、中和抗体・メモリーB細胞・メモリーT細胞で、「ウイルスのどこを見ているか」が異なるため、それぞれの特長に配慮したワクチンを設計することで、より効果を高められるという見方も存在します。

ここ数年で多くの科学者がSARS-CoV-2についての研究を行ったことで、人が持つ免疫応答自体への関心が高まりました。さまざまな洞察が集まり免疫学の研究が進んだことで、今後、これらの洞察が長期的かつ広範な保護をもたらすワクチンの解明に役立てられる見込みです。

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in サイエンス, Posted by logq_fa

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