「アンネの日記」を巡る裁判でEUの最高裁判所が「ジオブロッキング技術がVPNで回避されても責任を問われない」と判決を下す

第二次世界大戦のさなかにユダヤ系ドイツ人の少女アンネ・フランクが書いた日記「アンネの日記」は、1945年にアンネが強制収容所で15歳で亡くなってから70年が経過した2016年に著作権切れとなり、インターネット上で公開されました。そんな「アンネの日記」を巡る裁判で、EUの最高裁判所が「最先端のジオブロッキング技術を用いて地域制限を設けていた場合、ユーザーがVPNを使って制限を回避したとしても、公開した人は責任を負う必要がない」という判決を下しました。
EU's Top Court: Geo-Blocking Protects Publishers in Copyright Disputes, VPNs Not Liable * TorrentFreak
https://torrentfreak.com/eus-top-court-geo-blocking-protects-publishers-in-copyright-disputes-vpns-not-liable/
ドイツでは基本的な著作権は最後に没した著者の死後70年間保護されると法律で規定されているため、「アンネの日記」は2016年にパブリックドメインとなりインターネット上で公開されましたが、これに対しスイスに拠点を置くアンネ・フランク基金は「法的措置を取る」と強い反発を示しました。1963年にアンネ・フランクの父であるオットー・フランクによって設立されたアンネ・フランク基金は、オットーが「アンネの日記」を出版し世界に広めるため尽力したことで作品の著作権を取得しており、オットーが亡くなった1980年の70年後となる2050年まで著作権は失効しないと主張しました。また別の主張では、日記はアンネの死後に出版されたものであるため、死後出版作品の保護期間は「公表時から50年」に延長されると考えており、例えばオランダ戦争資料研究所によって1986年に出版されたバージョンであれば2037年まで著作権が有効であるとしています。
「アンネの日記」が著作権切れで無料公開へ、アンネ・フランク基金は「法的措置を取る」と警告 - GIGAZINE

そこで、オランダ・アムステルダムにある「アンネ・フランクの家」の管理・運営を行っているアンネ・フランク財団は、最先端のジオブロッキング技術を用いてオランダ在住者からのアクセスを制限した学術版をオンラインで公開しました。以下のアクセスチェックページでは、「著作権の制限により、すべての国で入手できるわけではない」と記載があり、「この版は、以下のパブリックドメイン国からのみアクセスできます」というリストに入っている国からのみアクセスが可能です。なお、リストには日本も含まれていますが、「Yes」をクリックしても「このウェブサイトは、お住まいの国からはアクセスできません」と表示されました。

アンネ・フランク財団はジオブロッキング技術により地域ごとの著作権法の違いを反映しながら「アンネの日記」を公開しましたが、アンネ・フランク基金は「ブロックが100%回避不可能でない限り、コンテンツはオンライン上に存在すべきではない」と主張しました。その上で、アンネ・フランク基金は原稿の公開を中止する命令、または少なくともVPNやプロキシサービスを介してもオランダ国内からこれらの原稿にアクセスできないようにウェブサイトを設定する命令を求めました。
2023年3月にオランダのアムステルダム控訴裁判所は「意図的に不十分なジオブロッキングが行われたという問題は存在せず、また、当該基金の著作権侵害も行われていない」との判断を下し、「アンネの日記」をウェブサイトに掲載することは著作権を侵害しないとしました。アンネ・フランク基金は判決を不服として控訴した結果、オランダ最高裁判所は、VPNの中立性とジオブロッキングの妥当性について、いくつかの問題をEUの最高裁判所に付託しました。
EUの司法機関である欧州司法裁判所(CJEU)第二法廷は2026年7月に最終判決を下し、「一部のEU加盟国ではパブリックドメインとなっているものの、他の加盟国では著作権保護の対象となっている作品は、保護対象国において著作権侵害となる『公衆への伝達』とはみなされず、制限のあるウェブサイトに掲載することができる」との判決を下しました。裁判所はVPNを使用すればジオブロッキングを回避できることを認めた上で、特定の国からの訪問者をブロックするために最先端のジオブロッキング技術を選択した場合、VPNを使用するユーザーは明らかに想定される利用者ではないため、それらの人物が作品にアクセスできたとしても「ジオブロッキングが不十分」とはならないとしています。

裁判所はまた、出版社に購読やログイン要件といったより厳格なアクセス制御を義務付けるべきだという主張も却下しました。その理由としては、パブリックドメインの国からの自由なアクセスが不均衡に制限されることになるからと指摘されています。加えて、EUの最高裁判所はVPNプロバイダーを「中立的な仲介者」とみなしている過去の判決から、ジオブロッキング回避にVPNが使用されたとしても責任を負いません。判決文には「VPNや類似のサービスの提供者は、効果のないジオブロッキング措置を回避するために使用され、ユーザーが合法的に使用できる技術ツールであるため、作品を公衆に伝達したとはみなされない」と記されています。
欧州司法裁判所の判決はEU法の下で有効になりますが、判決は各国の裁判所によって解釈される必要があります。「アンネの日記」を巡る裁判はオランダ最高裁判所に差し戻され、アンネ・フランク財団が「アンネの日記」を公開する際に使用したジオブロッキング技術が実際に「最先端の技術」の基準を満たしているかどうかを判断する必要があります。
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