サイエンス

「普通の風邪にかかった時の記憶」が新型コロナウイルス感染症にも有効である可能性


一般的な風邪を引き起こす「風邪コロナウイルス」にかかった人の免疫システムが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を認識できる可能性があることが、新たな実験により判明しました。今回の発見により、COVID-19にかかっても軽症で済んだり、体調を崩さず無症状のまま終わったりする人がいる理由が分かると期待されています。

Selective and cross-reactive SARS-CoV-2 T cell epitopes in unexposed humans | Science
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/08/04/science.abd3871

Exposure to common cold coronaviruses can teach the immune system to recognize SARS-CoV-2: Researchers caution: It is too soon to say whether pre-existing immune cell memory affects COVID-19 clinical outcomes -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/08/200804100219.htm

COVID-19は重症化すると死に至る感染症ですが、COVID-19感染者の中には軽症のまま終わる人や、まったく体調不良を感じない無症状の人も多く存在します。これまでの研究により、高齢者や慢性疾患を抱えている人は重症化しやすいことが明らかになっていますが、それだけでは個人間の症状にこれほど大きな開きがある理由を説明することは困難です。

なぜ新型コロナウイルス感染症は一部の人だけで重症化するのか? - GIGAZINE


そこで、カリフォルニア州にあるラホヤ免疫研究所の免疫学者であるアレッサンドロ・セッテ氏らの研究チームは、免疫細胞の一種であるT細胞に注目しました。T細胞には複数の種類が存在しますが、そのひとつである「メモリーT細胞」は長時間体内で生存して病原体の記憶を保持し、次に同じ感染症にかかった際に迅速に対応します。この仕組みは、免疫記憶と呼ばれています。

セッテ氏らは、COVID-19から回復した患者のT細胞をSARS-CoV-2の断片にさらす実験により、「COVID-19にかかった人のT細胞がSARS-CoV-2に反応できる」ことを確認しました。これにより、COVID-19にかかった人はSARS-CoV-2への免疫を獲得できる可能性が高いことが分かりました。

新型コロナウイルスに免疫を獲得できる可能性、鍵となる「T細胞」とは一体どんな細胞なのか? - GIGAZINE


上記の実験では、「COVID-19から回復した人のT細胞」が使われましたが、セッテ氏らは今回発表された新たな研究で、「COVID-19が発見される前の2015年3月~2018年3月に採取された人のT細胞」を、SARS-CoV-2と普通の風邪を引き起こすヒトコロナウイルス(風邪コロナウイルス)の断片に暴露しました。

その結果、これまでCOVID-19にかかったことがない人でも、SARS-CoV-2と4種類の風邪コロナウイルスに対して同等な反応を示すメモリーT細胞を産生することが分かりました。

セッテ氏はこの結果について「免疫システムがSARS-CoV-2に反応できることは分かっていましたが、今回の実験によりメモリーT細胞が風邪コロナウイルスとSARS-CoV-2の間で類似した特徴を捉えることができるという、非常に強力かつ直接的な証拠を得ることができました」と話しました。


また、論文の共著者であるダニエラ・ワイコフ氏は「私たちの研究は、一般的な風邪のコロナウイルスに対するT細胞の記憶が、ウイルスの正確な分子構造を捕捉して、SARS-CoV-2に対する交差反応を起こすことができることを証明しました。これは、COVID-19にかかった一部の人が重症化する一方で、別の人々は穏やかな症状で済んでいる理由を説明するのに役立つかもしれません」と指摘しました。

さらに、SARS-CoV-2の断片にT細胞をさらした今回の研究により、T細胞はSARS-CoV-2が持っているさまざまな種類のタンパク質を認識できることも分かりました。目下開発が進められている多くのCOVID-19ワクチンは、SARS-CoV-2が持つスパイクタンパク質という物質を標的としたものですが、人間のT細胞が認識できるSARS-CoV-2のタンパク質はスパイクタンパク質だけではない可能性が示されたため、今後はより幅広い方法でSARS-CoV-2にアプローチするワクチンが開発できると期待されています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
新型コロナウイルス感染症が2019年12月にフランスですでに広まっていたという研究結果 - GIGAZINE

「新型コロナウイルスは2019年11月にヨーロッパに到達していた」という可能性が浮上 - GIGAZINE

なぜ新型コロナウイルス感染症は一部の人だけで重症化するのか? - GIGAZINE

新型コロナウイルスに免疫を獲得できる可能性、鍵となる「T細胞」とは一体どんな細胞なのか? - GIGAZINE

「新型コロナウイルスの免疫は数週間しか続かない」という新たな研究結果 - GIGAZINE

新型コロナウイルスの免疫は無症状の人ほど減少しやすく感染後2~3カ月で激減する可能性 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.