他のウイルスよりも新型コロナウイルスの突然変異率が高く見えてしまう理由
2020年に新型コロナウイルスが感染拡大し始めてから、デルタ株やオミクロン株など感染力の高い変異株が複数確認され、日本を含む世界中で猛威を振るっています。そんな新型コロナウイルスの変異株の出現頻度について、科学系メディアのLive Scienceが専門家の意見をまとめています。
Do other viruses have as many variants as SARS-CoV-2? | Live Science
https://www.livescience.com/does-covid-have-more-varients-than-other-viruses
新型コロナウイルスなどのウイルスは宿主の細胞内で自己複製して増殖します。複製の際には遺伝子配列に微妙な変化(突然変異)が生じることがあり、突然変異が蓄積した系統のウイルスが変異株と呼ばれています。そんな変異株の中でも「感染力が増す」「感染時の重篤度が増す」「ワクチンの効果を弱める」といった性質の変化が確認された変異株は世界保健機関(WHO)によって「懸念される変異株」として登録されており、新型コロナウイルスでは記事作成時点までに「アルファ株」「ベータ株」「ガンマ株」「デルタ株」「オミクロン株」といった変異株が登場しています。
感染拡大から約2年のうちに多数の変異株が登場したことから「新型コロナウイルスは他のウイルスよりも突然変異しやすいのでは?」と考える人も多いはず。しかし、フレッドハッチンソンがん研究センターでウイルスについて研究するケイティ・キスラー氏は「新型コロナウイルスの突然変異の頻度は、インフルエンザウイルスや風邪の原因となる一般的なコロナウイルスと同程度です」と述べています。
他のウイルスと突然変異の頻度が同程度にもかかわらず多くの変異株が登場している現状について、専門家たちは「ウイルスの感染力」「動物から人間への宿主の変更」「ワクチンの開発」といった要因を挙げています。例えば、ワシントン・スクール・オブ・メディスン大学でウイルスについて研究しているジェシー・イラスムス氏は「新型コロナウイルスの突然変異率は他の一般的なウイルスと同様ですが、新型コロナウイルスは人々の間を約2年間絶えず循環しているため、感染に有利な突然変異を生み出す機会が増えています」と解説しています。
また、キスラー氏によると2009年に流行した「新型インフルエンザA(H1N1)pdm09」では宿主がブタからヒトへ移行する際に多くの変異が発現し、感染拡大から1~2年後に有意な変異が減少したことが確認されているとのこと。同様にコウモリからヒトへ宿主を移行した新型コロナウイルスも徐々に有意な変異が少なくなる可能性があるとキスラー氏は推測しています。
ヴァンダービルト大学でウイルスについて研究しているスーマン・ダス氏によると、効果の高いワクチンが急速に開発されたことが多くの変異株の発生を引き起こした可能性があるとのこと。生物を取り巻く環境が変化した場合、その環境に適応できる個体群の生存が有利となりますが、これと同様にワクチンの効果を弱められる変異株に対して強力な選択圧がかかり、オミクロン株のようなワクチンの有効率が低い変異株が急速に広まった可能性があるとダス氏は指摘しています。
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