フルカラーで見える暗視ゴーグルを可能にする技術が開発される、ただし実用化には課題あり

北京理工大学の研究チームが、赤外線の波長と強度を可視光の色と明るさに変換し、人間が赤外線を「フルカラー」で見られるようにする光電変換デバイスを開発しました。試作した半透明のメガネ型装置は重さ23gで、従来の単色表示よりも微細な赤外線の違いを識別しやすく、暗所での視認や拡張現実、視覚補助技術への応用が期待されています。
Multispectral infrared-to-full-color upconversion expanding human vision | Science Advances
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aed0245
Researchers devise a full-color night vision goggle - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2026/07/see-the-heat-an-infrared-imaging-system-that-outputs-in-color/
人間の目は、波長が約700nmを超える赤外線を直接見ることができません。赤外線の光子はエネルギーが低く、網膜の視物質が構造を変えるために必要な約1.6電子ボルトに届かないためです。
一般的な暗視装置は、赤外線センサーが受け取った信号を緑色などの単色画像に置き換え、赤外線の強さを明るさの違いとして表示します。しかし、人間の目はわずかな明るさの差よりも色の違いを見分ける能力に優れているため、単色表示では視覚の感度を十分に活用できません。
研究チームは赤外線の波長と強度を可視光の色と明るさに変換するため、赤外線を検出するテルル化水銀のコロイド量子ドットと、赤色とシアンの光を発する2層構造の有機ELを組み合わせました。量子ドットの大きさは約4nmで、赤外線の波長や強度に応じて発生する電荷の量が変化する仕組みになっています。

波長が長い赤外線や弱い赤外線を受けた場合は発生する電荷が少ないため、主に赤色の発光層が光ります。一方、波長が短い赤外線や強い赤外線では電荷が増え、赤色の層に加えてシアンの層にも電荷が届くため、出力される光の色と明るさが変化します。
2つの発光層の間には0.82電子ボルトのエネルギー障壁が設けられています。波長が長い赤外線や弱い赤外線では発生する電荷が少なく、電荷は障壁の手前にある赤色の層にとどまるため、暗い赤色の発光になります。一方、波長が短い赤外線や強い赤外線では電荷が増え、障壁を越えてシアンの層にも流れ込むため、赤とシアンが混ざった明るい発光に変わります。こうして赤外線の波長と強度が可視光の色と輝度に対応付けられます。

研究チームの開発した装置は980nm・1550nm・2000nmの赤外線を異なる色として変換でき、検出できる波長域は2μmを超える範囲まで広がっています。980nmの赤外線を当てたときの輝度は700cd/m2を超え、赤外線の光子を可視光の光子に変換する効率は3.85%でした。
研究チームの計算によると、明るさだけを使った表示で人間が違いを感じ取るには赤外線の強度に23.71mW/cm2の差が必要でした。これに対して、色と明るさを組み合わせた表示では0.11mW/cm2の差を識別でき、単色表示と比べて約200倍高い感度を実現したとしています。

研究チームは、この仕組みを組み込んだ半透明のメガネ型試作機も作成しました。試作機は封止材を含めて23gで、有効面積は3.57cm2となっており、赤外線で照らした文字や図形、移動・回転する物体を色付きの画像として表示できました。

装置が半透明であるため、通常の可視光による風景を見ながら、赤外線情報を重ねて表示することも可能です。可視光を遮断するフィルターを追加すれば、赤外線だけを表示する暗視モードに切り替えることもできます。
さらに研究チームは、変換装置から出る可視光が生物の視覚系を刺激できるかどうかも調べました。青色光に反応するタンパク質「チャネルロドプシン2」を発現させた神経細胞に装置を組み合わせたところ、赤外線の照射によって光電流が発生しました。
別の実験ではマウスの脳波、人間の被験者では網膜電図を測定し、装置を通して赤外線を当てたときの反応を確認しました。装置を使わずに赤外線だけを照射した場合には測定可能な反応が見られなかったのに対し、装置を通して当てた時は反応が見られたことから、変換された可視光が視覚系まで届いていることが示されています。
研究チームは将来的な用途として、暗所での移動支援や赤外線による物質識別、拡張現実のほか、損傷した視細胞の代わりに機能する人工的な網膜受容体を挙げています。ただし、今回の実験は単純な文字や図形、校正された黒体光源を使った制御環境で行われており、複雑な実環境で色分けがどこまで機能するかはまだ確認されていません。
また、有機EL部分には外部電源が必要で、受動的なレンズというよりも小型の電子ディスプレイに近い装置です。量子ドットには重金属である水銀を含むテルル化水銀が使われていますが、長期間の皮膚接触や眼内への埋め込みに関する安全性と生体適合性は検証されておらず、実用的な暗視メガネや網膜インプラントの実現にはさらなる研究が必要とのことです。
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in ハードウェア, サイエンス, Posted by log1i_yk
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