世界で最も高価なスパイス「サフラン」が数千年たっても安くならない理由


パエリアやブイヤベースを鮮やかに彩ったり独特の風味を加えたりするのに使われるサフランは、「赤い金」とも呼ばれる世界で最も高価なスパイスです。突然変異で生まれた「種子を作れない花」を人間が数千年にわたって増やしてきたというサフランクロッカスの特異な生態と、高価格が続く理由について、教育系YouTubeチャンネルのTED-Edがアニメーションで解説しています。

Is this spice worth the price? - Carolyn Beans - YouTube


スパイスは料理に使う量に比べて高価なものが多く、中でもサフランの価格は長年にわたって群を抜いています。


サフランの赤い糸状の部分は、1オンス(約28グラム)当たり600ドル(約9万6000円)を超える価格で取引されることもあります。


スパイスは植物のさまざまな部位から作られますが、花の雌しべの先端にある「柱頭」を使うスパイスはサフランだけ。その原料はサフランクロッカスの花に3本だけある赤く細長い柱頭です。


クロッカスの仲間はユーラシア大陸や北アフリカの各地に分布しており、人類はかなり古くから野生のクロッカスを利用してきたとみられています。現在のイラクに残る古代の洞窟壁画にもクロッカスの色素が使われていますが、これはサフランクロッカスとは別の種に由来すると考えられています。


サフランクロッカスは比較的新しく誕生した植物だとされています。1株の野生のクロッカスから染色体を通常より1組多く持つ種子が生まれ、その突然変異によって特に長い柱頭を持つ花が誕生しました。


長い柱頭には、鮮やかな色と染料としての性質を生む「クロシン」、特徴的な味のもととなる「ピクロクロシン」、干し草のような香りを生む「サフラナール」という3種の化合物が高濃度で含まれていました。


一方、余分な染色体によってサフランクロッカスは種子を作れなくなったため、そのままではすぐに地球上から姿を消していた可能性があります。しかし、古代の人々はサフランクロッカスの性質に価値を見いだし、地下にある茎のような器官「球茎」から新しい株が育つことを利用して、人の手で球茎を分けて栽培するようになったとみられています。


現在商業生産されているサフランクロッカスはすべて、この1つのクローン系統から増やされた事実上の双子とのこと。


最初のサフランクロッカスが現れたのはギリシャ南部と考えられていますが、正確な時期は分かっていません。3500年以上前に描かれたギリシャのフレスコ画には、女性たちがサフランクロッカスの花を摘む様子が残されています。


現在のイランにおけるサフランクロッカス栽培の歴史も、少なくとも3000年前までさかのぼるとみられています。


古代ペルシャの人々はサフランを料理に混ぜ、香水にして体に付け、サフラン色の布を身にまとっていました。古代ギリシャでも宮廷や劇場、浴場にサフランの香りを漂わせていたとのことです。


紀元前4世紀にペルシャへ遠征したアレクサンドロス大王はサフランを気に入り、戦傷を癒やすための入浴に使うよう勧めたと伝えられています。また、クレオパトラがサフランを入れた風呂で輝くような肌を手に入れたという伝説も残っています。


9世紀ごろにはイスラム圏の支配者たちが、捕虜交換や外交の贈り物としてサフランを贈り合っていたとのことです。また、ペルシャの医師であるイブン・スィーナーは1025年ごろ、媚薬や、うつ病・ぜんそく・炎症などの治療薬としてサフランを「医学典範」に記しました。


チベットの文献ではサフランが免疫力や美しさを高めるものとうたわれ、14世紀のヨーロッパではペストの解毒剤とみなされていました。歴史上主張されてきた健康効果の多くは裏付けられていないか誇張されていますが、サフランに抗炎症作用と抗酸化作用があることは実証されています。


サフランは中世でも非常に高価で、ニュルンベルクの行政当局はサフランの偽物を取り締まる検査官を置き、違反者に死刑を含む厳罰を科していました。


18世紀初頭には入植者がサフランクロッカスの球茎を北アメリカへ持ち込み、その柱頭から作られるサフランは、フィラデルフィアの取引所では金と同じ価格で取引されていたそうです。


サフランが当時も現代も高価な最大の理由はその生産方法にあります。まず、サフランの生産に必要な作業の大半はサフランクロッカスの約2週間の開花期に集中します。


作業員は花がしおれるのを防いでサフランの品質を保つため、夜明けごろから開花前の花を1輪ずつ手で摘み取ります。


収穫後に行われるのは、花から3本の柱頭を手作業で抜き取って乾燥させる作業です。


1kgのサフランを作るには約15万輪の花を処理する必要があり、作業時間は合計400時間を超えるとのこと。


サフランは少量でも料理全体に色と風味を付けられ、イランの米料理「ターチン」やスペインのパエリア、フランスのブイヤベースなどに使われています。しかし、必要な手作業の多さと、1輪から3本しか柱頭を得られない収量の低さが、価格を高止まりさせる要因です。


トウモロコシをはじめとする多くの作物では、人類が世代を重ねて収量や望ましい性質を高める品種改良を行ってきました。


ところが、サフランクロッカスはすべて種子を作れないクローンであるため品種改良が進まず、数千年が経過しても手作業に頼る生産方法と1輪当たりの柱頭が少ない性質がほとんど変わっていません。


一部の研究者は、人工的に突然変異を起こしてサフランクロッカスを改良する方法を研究しています。


その一方で、生育環境の不安定化によってサフランクロッカスの収穫は以前より予測しにくくなっています。TED-Edは、サフランクロッカスという作物だけでなく、数千年にわたってこの「奇跡的な突然変異体」を守り続けてきた人々の伝統的な暮らしも脅かされていると指摘しています。

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in 動画,   サイエンス,   , Posted by log1b_ok

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