料理に欠かせないスパイスやハーブの「粗悪品」を科学者はどうやって見分けているのか?
シナモン・ミント・セージ・ナツメグ・ローリエなど、おいしい料理を作る際にはさまざまなスパイスやハーブが必要になることがあります。不純な「混ぜ物」でかさ増しした粗悪品のスパイス・ハーブを科学的に見分ける手法について、食品の安全に関する専門家であるクイーンズ大学のクリス・エリオット教授とサイモン・ハウジー博士が解説しています。
Are your Christmas spices fake? We developed a technique that can find out
https://theconversation.com/are-your-christmas-spices-fake-we-developed-a-technique-that-can-find-out-150990
スパイスやハーブが混ぜ物の入った粗悪品として販売されやすいのは、その「値段」が原因です。バニラやサフランなどの最も高価なスパイスは銀や金とほぼ等価で取引されており、混ぜ物で原価を浮かせて荒稼ぎすることが可能です。こうした混ぜ物の問題は味が落ちるというだけではありません。混ぜ物の多くは工業用染料などで着色されているため、工業用染料に含まれる毒物が健康に害を与える可能性もあり得ます。
クイーンズ大学の副学長であり、グローバル食品安全研究所の創設者でもあるエリオット教授と計量化学と分光法の専門家であるハウジー博士はこうした混ぜ物を見抜くため、物体が放射・吸収・散乱する光のスペクトルを測定して解析することで分子の形状・構造などの各種情報を取得する「分子分光法」によってスパイスを分析する研究を行っています。エリオット教授らは分析分光法によって得たオレガノの科学的指紋に統計手法を適用することで、オレガノをスキャンするだけで数秒以内に混ぜ物があるかどうかを調べるシステムを構築しました。
2016年に実際にイギリスの小売業者やオンライン販売業者から購入したオレガノを同システムで分析したところ、およそ25%にオリーブの葉やギンバイカ(マートル)の葉などの混ぜ物が混入していることが判明。この研究は大きな話題を呼び、エリオット教授らの元には世界各地から「オレガノを調べてくれ」として多数のサンプルが届きました。
このサンプルを分析したところ、南アフリカとオーストラリアでは混ぜ物の混入率が50%を超えていたこともわかったとのこと。このニュースの衝撃は大きく、世界各地で食品詐欺撲滅を求める声が上がりました。その後、ある時点ではイギリスのマーケットで販売されるスパイスのうち、混ぜ物があったのは20サンプル中たった1つになっていたそうで、エリオット教授は「私たちの研究の結果、はるかに優れた品質管理が行われるようになりました」と語っていました。
しかし、2020年には混ぜ物問題が再発生していることが判明しています。イギリスで2020年8月から9月にかけて「クリスマス向けスパイス」として販売されたセージのおよそ4分の1が粗悪品だと判明。粗悪品のセージには、オリーブの葉、マートルの葉、スマック、ヘーゼルナッツの葉、イチゴノキの葉などが混入していました。
エリオット教授らによると、粗悪品を販売していたのは小規模小売店や大手オンラインショップであり、大手小売店のセージは100%本物だったとのこと。一連の結果を受けてエリオット教授らはBIA Analyticalという食品認証試験所を設立。BIA Analyticalの最新製品として、スマートフォンに検査結果を送信できる小型食品スキャナーを新たに開発したとのことで、「詐欺師との戦いはまだ終わっていません」と語りました。
・関連記事
IBMと世界最大のスパイスメーカーがAIで「新しい味」を見つけようとしている - GIGAZINE
唐辛子の辛さをスマホで測定できる唐辛子型デバイス「Chilica-pod」が登場 - GIGAZINE
偽造ウイスキーをボトルに入れたまま判別する手法が開発される - GIGAZINE
99.7%の精度で偽造ウイスキーを見抜ける「人工舌」が開発される - GIGAZINE
・関連コンテンツ