ハードウェア

iPhoneや世界一のスパコンに採用される「Armアーキテクチャ」はどのようにして誕生したのか


CPUアーキテクチャのArmは、多くのスマートフォン向けCPUに採用されているだけでなく、Appleが設計したM1チップに採用されたり、MicrosoftがArmを採用した独自チップを開発していることが報じられたり、ArmベースのCPUを搭載したスーパーコンピューター「富岳」が世界一の性能を記録したりと、大きな注目を集めています。そんなArmアーキテクチャがどのような経緯で開発され、世界中の機器に使用されるようになったのかを、IT関連のニュースサイトであるArs Technicaが解説しています。

How an obscure British PC maker invented ARM and changed the world | Ars Technica
https://arstechnica.com/features/2020/12/how-an-obscure-british-pc-maker-invented-arm-and-changed-the-world/

Armを開発するARMホールディングスの前進企業であるエイコーン・コンピューターは、1978年にケンブリッジを拠点として設立されました。設立当時、エイコーンはApple IIAtari 2600にも搭載されているMOS 6502をベースにした家庭用コンピュータ「Acorn Atom」を開発していました。

1980年代になると、「BBC Computer Literacy Project」と呼ばれる、国民にコンピューターに関する知識を付けさせるプロジェクトがイギリスで始まりました。そのプロジェクトの一環として、コンピューターの概念やBASICプログラミングの基礎を学ぶ番組「The Computer Programme」が1982年に放送開始しました。この番組には、BASICプログラミングを解説するために、グラフィックや音声に関する処理を行うマシンが必要とされていましたが、当時の市場にはBBCの要求するスペックを満たすコンピューターが存在していませんでした。そこで、BBCはエイコーンに対して、番組に必要なスペックを満たすコンピューターを開発するように依頼します。

BBCによる依頼を受けたエイコーンは、MOS 6502を用いた教育用コンピューターBBC Microを開発します。BBC Microは当時としてはかなり高性能なコンピューターで、イギリス国内で大きな成功を納め、1980年代のイギリス国内の教育用コンピューターのシェアを独占しました。


BBC Microが開発された1980年代は、1981年にIBMによるIBM PCがリリースされたり、1983年にはAppleがLisaをリリースしたりと、コンピューターの歴史における重要な転換点でした。エイコーンはこれらのマシンと競争するためには、MOS 6502よりも高性能なCPUが必要だ判断します。エイコーンは高性能なCPUを開発するために、IntelにIntel 80286をベースに開発する許可を求めました。しかし、Intelはこの要求を無視します。

Intelの協力を得られなかったエイコーンは、独自のCPUを設計する決断を下します。エイコーンは、RISCベースCPUに似た特性をもつMOS 6502の設計に長らく関わってきた経験を元に、RISCベースのCPUアーキテクチャ「Acorn Risc Machine(ARM)」を開発。このArmアーキテクチャを採用した、クロック周波数8MHz・トランジスタ数2万7000のARM2を搭載して1987年にリリースされたパーソナルコンピューター「Acorn Archimedes」はIntel 80286を搭載したコンピューターより高い性能を示しました。このことについてArs Technicaは「Intel 80286に関するエイコーンの連絡を無視したのは、Intelにとって大きな間違いだった」としています。


Armは他社のCPUと比べて低消費電力・低発熱で動作していたため、当時Apple Newtonを開発していたAppleの目に止まり、エイコーンはAppleと業務提携を結びます。その後、エイコーンはArm部門を分社化し、後のARMホールディングスとなる「Advanced RISC Machines」を設立しました。Apple Newtonは成功したプロダクトとは言えなかったものの、2001年にリリースされたiPodや、2004年にリリースされたニンテンドーDSといった低消費電力・低発熱なCPUを必要とするモバイル端末の多くがArmを採用しました。

その後Armは2007年にリリースされた初代iPhoneにも採用され、現在でも、ほとんどのスマートフォン向けプロセッサで採用されており、世界中の1300億を超えるデバイスで稼働しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
一般人には知られていないイギリス最大の成功企業「ARM」とは? - GIGAZINE

BBCが往年のコンピューター入門番組「BBC Computer Literacy Project」のアーカイブを公開 - GIGAZINE

Microsoftが独自設計のArmプロセッサをサーバー向けあるいはSurface向けに開発中か - GIGAZINE

Appleが開発した「M1」チップはなぜ高性能なのか - GIGAZINE

初のApple Siliconとなる「M1」チップが登場、5nmプロセスで製造された世界最速のCPU搭載 - GIGAZINE

in モバイル,   ハードウェア, Posted by log1o_hf

You can read the machine translated English article here.