サイエンス

山火事の煙が病原体となるバクテリアを運ぶとの指摘


オーストラリアでは2019年9月から2020年2月にかけて発生した森林火災の多発によってのべ2300万ヘクタール以上が燃やし尽されたほか、アメリカ・カリフォルニア州などの地域でも「メガファイア」と呼ばれる大規模火災が度々発生するなど、近年自然火災が激化しています。こうした火災により発生した煙について、直接的な害だけでなく感染症の原因となる微生物も潜んでいると、火災や公衆衛生の専門家が警鐘を鳴らしています。

Wildfire smoke, a potential infectious agent | Science
https://science.sciencemag.org/content/370/6523/1408

Wildfire smoke can carry microbes that cause infectious diseases
https://phys.org/news/2020-12-wildfire-microbes-infectious-diseases.html

Wildfire smoke changes dramatically as it ages, and that matters for downwind air quality – here's what we learned flying through smoke plumes
https://theconversation.com/wildfire-smoke-changes-dramatically-as-it-ages-and-that-matters-for-downwind-air-quality-heres-what-we-learned-flying-through-smoke-plumes-151671

アメリカ・アイダホ大学の火災生態学者であるLeda Kobziar氏と、カリフォルニア大学デービス校の医学博士であるGeorge Thompson氏によると、火災で発生する煙の中には病原性の真菌や細菌などが多数混入しており、その大半は生存しているとのこと。

もちろん、火災の高温により微生物の一部は死滅しますが、火が空間中に放出する熱エネルギーは不均一なので、微生物が生存したまま火災で発生するエアロゾルに混入することは十分起こりうると、Kobziar氏らは指摘しています。また、土中に生息する一部の微生物は高温に耐性があるほか、火災で発生した煙や水蒸気の粒子が紫外線を遮断しつつ微生物の生存スペースになるため、これが原因となって病原性の微生物がバイオエアロゾルの中で生存し続けるとされています。


具体的には、土壌に生息するCoccidioides immitisという真菌が火災により発生した煙により大気中に放出され、呼吸器感染症の一種であるコクシジオイデス症の原因となる可能性が示唆されているとのこと。「渓谷熱」とも呼ばれるコクシジオイデス症は、カリフォルニア州をはじめとするアメリカ西部の風土病とされていますが、こうした地域は森林火災が発生しやすい地域と一致していることが知られています。

Kobziar氏は、「山火事の煙を吸い込むことが健康に及ぼす直接的な影響は広く研究されていますが、煙に潜む微生物についての認識は不十分でこうしたリスクの監視もほとんど行われていません」と述べました。

Kobziar氏らは、こうしたバイオエアロゾルの影響についてまとめた論文の中で「煙や微生物と健康の間にある複雑な関係を追究するには、火災生態学・環境微生物学・疫学・大気科学・公衆衛生学・感染症学など幅広い分野の専門知識が必要です。近年は、山火事が発生する時期が長期化し火災も激化しつつあるため、多くの専門家が協力して取り組むことが急務となっています」と述べて、学際的なアプローチの必要性を訴えました。


一方、ワシントン大学の大気化学者であるブレット・パーム氏らの研究では、森林火災で発生した煙が風に流される中で、煙の化学的な毒性が弱まるどころか強くなる可能性があることが突き止められました。

山火事の煙の影響について調査しているパーム氏らは、煙を分析する機材を積んだ特殊な飛行機を使用して、アメリカ西部の火災で発生した煙を追跡しました。以下が、2018年の調査でパーム氏らが飛ばした飛行機の航路で、赤色の線は飛行機が火災の煙の中を直接横切ったことを示しています。

by Brett Palm/University of Washington

この調査により、火災で発生した煙の粒子が太陽光や大気中のガスと反応し、化学変化を起こしていることが突き止められました。パーム氏によると、これは「山火事の煙が劣化する過程で、毒性を増している可能性」を示しているとのことです。

パーム氏らは今後、火災により発生した煙の規模と、その煙が人体に与える影響についてさらなる調査を実施する予定としています。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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