サイエンス

「2020年における科学的進歩」10選、コロナ禍でも科学は着実に進歩している


2020年は世界的に新型コロナウイルス感染症の猛威に苦しめられた1年となりました。そんな中でも、科学は着実に進歩を遂げていたことを示す、「科学者が選ぶ2020年の特筆すべき研究結果」を、イギリスの大手紙・ガーディアンが発表しています。

The virus-free scientific breakthroughs of 2020, chosen by scientists | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2020/dec/20/the-virus-free-scientific-breakthroughs-of-2020-chosen-by-scientists

◆1:民間企業初の有人宇宙船が打ち上げ成功
日本時間の2020年5月31日、イーロン・マスク氏がCEOを務めるアメリカの宇宙開発企業SpaceXが民間企業としては初となる有人宇宙船「Crew Dragon」の打ち上げに成功しました。2人の宇宙飛行士をのせた「Crew Dragon」はISSとのドッキングに成功後、同年8月2日に大気圏に突入、アメリカ合衆国フロリダ州のペンサコラ沖に無事着水しています。


◆2:タンパク質構造予測の解決
全ての生命はタンパク質でできていますが、そのタンパク質の三次構造がどのような形をしているのかわかっておらず、この50年間生物学において重要な課題となっていました。しかし2020年11月、Google傘下の人工知能企業DeepMindが「タンパク質がいかにして三次構造をとるか」を予測する新たな手法を発表しました。同社のAI「AlphaFold」が深層学習システムを用いて17万個以上のタンパク質を対象にプログラムを訓練し、2020年11月に行われたタンパク質構造予測精密評価のコンテストでグローバル距離テストを行い、100点満点中92.4点の中央値をたたき出し、見事1位を獲得しました。


◆3:新たな遺伝子改変技術の発見
Emmanuelle Charpentier氏とJennifer A. Doudna氏がDNAを非常に高い精度で変化させることができる技術「CRISPR-Cas9」の開発により、ノーベル化学賞を受賞しました。CRISPR-Cas9はDNA二本鎖を切断し、自由に編集することができる技術で、この発見により農作物への高精度なゲノム編集や、新たながん治療の開発などが行えるようになっています。


◆4:貧困削減と環境保護への取り組み
貧困の削減と森林破壊の阻止は21世紀における重要な課題として世界中で認識されていますが、この2つは何ら相関性がないものとして扱われてきました。しかし研究者たちはインドネシアの7000以上の村に現金給付制度「ファミリーホーププログラム」が導入されたことに目をつけ、家計が豊かになることが森林破壊を30%削減したことを突き止めました。貧しい農村地帯では、森林伐採によって供給される安価な商品の消費が増加する傾向にありますが、「定期的に現金を得る」ことで家計のやりくりが円滑に進み、消費の対象が市場で生産された環境にやさしい製品に移行する可能性があることが理由の一つとしてあげられています。


◆5:各国が温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする「Net Zero」を制定
2019年、イギリスの元首相であるテリーザ・メイ氏が「2050年までにイギリスでの二酸化炭素排出量を実質ゼロにする」という公約を法的に制定したことに端を発し、中国などが続々と「Net Zero」目標を宣言しています。現在、全世界のGDPの内半分が「Net Zero」を掲げる国のものとなっていますが、制定した排出枠を超えた分を他国と取引する制度もあり、実質的な削減のための努力が停滞しているとの指摘もあります。各国の「Net Zero」の達成率を確認できるページもあります。


◆6:PTSD治療への新たな希望
小児期に受けた虐待は成人後のメンタルヘルスに悪影響を及ぼします。しかし、重要なのは「私たちが起こったことを覚えているのか」ということ。2020年に行われた「(PDFファイル)研究」では、小児期に虐待またはネグレクトを受けた人間は、大人になってからのトラウマを思い出したときにのみメンタルヘルスが悪化するという発見がなされています。また、小児期の虐待を思い出した大人は、虐待またはネグレクトが起こったという客観的な証拠があるかどうかにかかわらず、うつ病、不安、PTSDおよび薬物乱用のリスクが等しく上昇し、虐待を受けたが約20年後に尋ねられたときにそのことを思い出さなかった子どもたちは、虐待やネグレクトを受けたことがない子どもたちより精神医学的なリスクが高いといったことはないという結果も示されています。


◆7:金星の大気に生命活動の痕跡ありとの発表
2020年9月の調査で、金星の大気に嫌気性微生物などの活動によってみられるガス「ホスフィン」が検出されたと報告されました。この報告は2020年11月の再分析によって検出量が「10億分の1以下」に下方修正されたものの、本来あるはずのない物質がそこにあったという事実は多くの科学者を興奮させ、楽しませています。


◆8:黒人科学者の躍進
ジョージ・フロイドの死」後、ブラック・ライヴズ・マターが数多く呼びかけられました。統計学の巨人、カール・ピアソンロナルド・フィッシャーが残した統計データは偉大なものですが、彼らは優生学の思想を持っており、その見解に疑問を持つものや見解は重要ではないと主張するものもいます。ジョージ・フロイドの死をきっかけに、科学界を含む世界中がより人種差別について自分自身に問いかける年ともなりました。2020年、大きな出来事としてインペリアル・カレッジ・ロンドンの「クリストファー・ジャクソン教授」が、1825年から続くイギリスの王立研究所でのクリスマスレクチャーを行う最初の黒人科学者となることがあげられています。


◆9:培養肉の進歩
2050年には世界人口が90億人を超えるといわれている中で深刻なのが食糧問題です。昆虫食や人工肉の研究が進む中、すでにアメリカの企業インポッシブル・フーズから、主に小麦やココナツからできた、植物性の「ビーフ」ハンバーガーが販売されています。また2020年12月、米国の食品企業EatJustは、実験室内で細胞を培養して生産された「培養鶏肉」がシンガポール食品庁の審査を通過し、一般のレストランで提供開始されると発表しています。

実際にインポッシブル・フーズの人工肉を食べてみた感想などは以下の記事に掲載しています。

肉の風味・味・食感を分子レベルで再現した人工肉「Beyond Burger」と「Impossible Burger」を実際に焼いて食べたらすごかった - GIGAZINE


◆10:室温で機能する超伝導を実現するための新たな希望
特定の金属や化合物などを極低温に近づけると、その物質の電気抵抗がゼロになる「超伝導」という現象は、低損失の電力線やリニアモーターカーの進歩に新たな可能性を見いだすものです。最高でもマイナス13℃の環境下で発生させられなかったこの現象を、炭素、水素、硫黄の化合物を使って約15℃で発生させられるということが分かりました。しかし、これを実現するためには、海面での大気圧の260万倍に相当する270ギガパスカルという圧力が必要で、実用可能になるまでにはかなりの時間を要するとのことですが、依然として重要な科学的成果です。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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