原油の先物価格がマイナスになった裏で暗躍し大もうけした投資会社が存在する
近年の原油安を背景に、2020年4月に原油の先物価格が「史上初のマイナス」で取引を終えましたが、この出来事の裏である小さな投資会社が暗躍していたと、経済紙Bloombergが報じています。
Oil’s Plunge Below Zero Was $500 Million Jackpot for a Few London Traders - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-04/oil-s-plunge-below-zero-was-500-million-jackpot-for-a-few-london-traders
2020年4月20日に、ニューヨーク原油先物(WTI先物)が「1バレル当たりマイナス37.63ドル(約4050円)」でこの日の取引を終えました。原油価格がマイナスになったということは、原油の売り手が代金を受け取るどころか、原油1バレル当たり約4050円の手数料を支払って引き取ってもらわなければならないことを意味しています。
原油の先物価格が史上初のマイナスで取引終了、産油国は協調減産するも需要が大幅減少中 - GIGAZINE
資源である原油の価格がマイナスになるという前代未聞の事態に、世界中の石油会社の経営者や投資家は頭をひねりましたが、そんな中イギリスのロンドンを拠点とする小さな投資会社「Vega Capital London」は、この日だけで5億ドル(約527億円)の利益を出したとのこと。Vega Capital Londonの公式サイトには連絡先しか掲載されていないため、その実態は不明ですが、企業情報調査を手がけるEndoleの調べでは、Vega Capital Londonは2016年に設立され、従業員数は10人に満たない小さな会社だということが分かっています。
匿名を条件にBloombergに情報を寄せた関係者によると、4月20日の14時半ごろに、10人程度のトレーダーが一斉に原油売りを仕掛けたことが分かっているとのこと。別の関係者は、「こうした取引はVega Capital Londonが使う常とう手段です」と話していますが、この日はいつもとは違い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で燃料需要が途絶えていた上に、WTI原油の買い手が現物の石油を受け取るのに使うオクラホマ州クッシング市の原油貯蔵庫のスペースがなくなってしまっていました。
こうした条件が重なった結果、原油が文字どおり「あふれて」しまい、投げ売り状態になったというのが、原油先物価格がマイナスになってしまった一部始終でした。原油の価格が大幅に下落したことで、4月20日の原油先物の清算値に連動した商品に投資していたアメリカや中国の投資家は大損しましたが、Vega Capital Londonはこの事態に乗じて大きな利益を出すことに成功したとされています。
シカゴ・マーカンタイル取引所のテレンス・ダフィーCEOは原油先物の価格がマイナスになったことについて、「先物価格は完全に機能しています」と述べて、暴落はあくまで自然な成り行きで発生したものであるとの見方を示しました。
しかし、金融取引の規制強化を訴える非営利団体Better Marketsで特別顧問を務めるJoe Cisewski氏は、「原油価格がマイナスになるような異常事態が、需要と供給のバランスの結果で発生したと考えるのは、ばかげた与太話です」と指摘。市場の混乱のあおりをうけて、深刻な財政難に陥った石油生産者らのために、詳細な調査が必要だと訴えました。
Vega Capital Londonが原油価格の下落を見抜いて取引を行っただけなら、不当な利益とはいえません。しかし、Bloombergの取材に応じたある石油投資家は、Vega Capital Londonと関係が深いトレーダーらはゴルフやスキー旅行などを通じて交流したり、市場に大きな影響力を与えるために同時に取引を行ったりしていると証言しています。
また、原油先物取引の特殊性も、事態に拍車をかけたと見られています。WTI原油先物が取引されているニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)が対応している取引方法の中には、TAS(Trading at Settlement)というものがあります。TASとは、取引終了が終了する14時30分ごろの価格に基づいた清算値であらかじめ売買の契約をしてしまうことです。
価格が決まっていないうちに取引をしてしまうのは不思議に思えますが、TAS取引における清算値は通常、需給のバランスに沿った価格の範囲におさまるので、石油先物取引では一般的な取引方法だとのこと。しかし、大口のトレーダーが引き上げてしまうなど、市場への参加者が少なくなった場合には、短期的に激しい値動きをしてしまうこともあるといわれています。
Vega Capital Londonは、トレーダーの間であらかじめ示し合わせて取引を行い、こうした原油先物取引の特殊性につけこむことで大きな利益を上げたのではないかというのが、Bloombergに情報を寄せた関係者の見立てです。
この件について、アメリカの商品先物取引委員会やNYMEXを中心とした規制当局は、「我々は目下、Vega Capital Londonが取引に関する規則に違反し、原油価格の急落を招いたかどうかを調査しています」と述べています。
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