中村隆太郎監督の作品をこれからも楽しんでいきたいという思いが詰まった「プレイバック中村隆太郎」レポート


serial experiments lain」や「キノの旅」などの作品で知られるアニメーション監督・中村隆太郎さんが亡くなったのは2013年6月のこと。それから3年が経過した2016年夏、改めて「中村隆太郎作品をずっと見続けてもらいたい」という思いを込めて、「プレイバック中村隆太郎」というイベントが開催されました。

イベントはまず「劇場版 キノの旅 病気の国 -For You-」の上映が行われました。司会をアニメ評論家の藤津亮太さんが務め、ゲストとして中村さんと縁の深い脚本家・小中千昭さん、アニメーション制作会社シャフトの代表取締役である久保田光俊さんが登壇しました。


以下、イベント内容を若干要約する形でお届けします。

乾杯する藤津さん、小中さん、久保田さん。


藤津亮太(以下、藤津):
まずは、お二人が中村監督と知り合ったときのお話を伺えればと思います。

小中千昭(以下、小中):
僕が知り合ったのは「serial experiments lain」のときです。本当は別の監督になるかもということで、僕とパイオニアLDCの上田耕行プロデューサーによる脚本作業が5話ぐらいまで進んでいました。そのときに、制作を担当したトライアングルスタッフから「中村隆太郎さんはどうですか?」と名前が挙がりました。第1話のコンテが上がってきたときには「これはすげえ!!」と上田プロデューサーとともに驚嘆しました。打ち合わせでは「うん。まあ……そうですね……」とか、すごく無口でしゃべらない人でした。トライアングルスタッフの忘年会の時だったか、「隆太郎さん、ちょっと話さない?」と、僕はお酒が飲めないので喫茶店に行って……すごく話をするようになったのは、そこからですね。

久保田光俊(以下、久保田):
最初に隆太郎さんに会ったのは20年近く前、「レジェンド・オブ・クリスタニア」というOVAを彼が制作していたときです。全3話のうち第2話をシャフトが担当したので、トライアングルスタッフの社長さんとともに隆太郎さんがコンテを持って来られたのですが、小中さんがおっしゃったように、とても言葉の少ない方でした。作品が完成してからは、よく話をするようになりました。そのあと、テレビアニメの「サクラ大戦」と「キノの旅」でお手伝いをして、「REC」では監督をやってもらいました。「劇場版キノの旅」制作の話があったのは「REC」を作っている時でしたね。テレビアニメの「キノの旅」のときに作画監督をやったのが、劇場版でキャラクターデザインをやっている伊藤良明くんです。

藤津:
小中さんは「劇場版キノの旅」で脚本を担当されています。

小中:
テレビシリーズを担当していた村井さだゆきさんのピンチヒッターのような形でした。隆太郎さんとまた仕事をしてみたいと思っていた中、なかなか機会がなかったところへ、声をかけていただきました。

藤津:
改めて見てみて、いかがですか?

小中:
隣で久保田さんがブツブツ言っているのを聞きながら「ふむふむ」と思っていました(笑)。私は大好きですよ。コールの正面を向いて座った姿からワンカットでクレーンアップしていくところ、キャラクターは手描きなんだと言っていたなと思い出します。

久保田:
当時の技術として、まだまだCGと手描きのアニメをマッチさせることにすごく苦労があって、何度もテイクを重ねました。たぶん、劇場が終わってからも手直しをしたと思います。技術的にも黎明期という感じで、今ならもうちょっと頑張れたかなという思いがあります。

藤津:
長さこそ30分ですが、最初から劇場前提の作品としてはシャフト初の作品ということで、気負いはありましたか?

久保田:
僕が制作を担当しまして「持てるものはすべて出そう」と挑みました。隆太郎さんのオーダーも高く、劇場作品ということで地味に見えても大変というカットもあって、スタッフも精一杯頑張ろうという意識でした。

藤津:
シーツをスクリーン代わりにして映像が映し出されるシーン、人間のキャラクターにも映り込んでいます。小中さんが中村監督が好きそうだということで入れたものだそうですね。

小中:
あれはデジタル撮影を夜なべして頑張ったんだなと思いましたよ。

久保田:
隆太郎さんは撮影の時にもべったり現場張り付きで、時間の許す限り作業されていました。編集の時も同様で、スタッフにやったものの手応えを感じさせる監督でしたね。


藤津:
小中さんが中村監督の好みやこだわりを感じるところはどのあたりでしたか?

小中:
私は本来、実写のライターなので、野放しにしていると「黙って何かの作業を延々としている」というシーンが出てくるような「実写向けの脚本」を書いてしまうんです。でも、隆太郎さんが描いてきた第1話のコンテはこちらが逆に「これをフルカットやるんですか!?」というものでした。それもあって、アニメの脚本の時にはダイアログでもモノローグでも、うまくカットを割れるようにと意識して書くようにしていますが、隆太郎さんとやるときには「これをどう料理するだろう?」と任せてみるような部分がありました。

藤津:
あまりアニメだとは意識せず書いてみて、中村監督がどうするか見てみようという感じですね。

小中:
そうです。あと、シナリオにない要素をコンテで入れてくるだろうと想定して、それを入れられるような隙間を作ることは意識していました。

藤津:
「lain」をやってみて、中村監督がこういうのを好きなんだなと発見していった部分が多かったのでしょうか。

小中:
隆太郎さんが表現したいのは「心」なんだろうなと思いました。先鋭的な映像表現が印象として強いかもしれませんが、根幹の部分では人間の悲しみ、切なさを誰よりもシナリオから読み取って、それを一番いい表現でアウトプットする。「lain」の場合、アニメではゲームとは違って、少女のキャラクター性をちゃんと掘り下げて、最後にはハッピーエンドではないかもしれないけれど、なにか幸せが見えるような終わりを……というのが、私が受けたメッセージでした。


藤津:
中村監督は小中さんと出会う前に宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」や、復活上映が行われた「ちびねこトムの大冒険」を作られています。そのときの中村さんと「lain」などを作られたときの中村さんは、小中さんから見て同じですか?

小中:
中村隆太郎という作家のホームグラウンドはジュブナイルだったであろうと思います。そこからはみ出したのが僕らとやった作品群で、その中で「神霊狩/GHOST HOUND」は、僕が「中村隆太郎のホームグラウンド」に寄せていった作品でしたね。

藤津:
そこは、中村さんの中に世界が2つあったという感じでしょうか?

小中:
世界は1つだけれど、そこからはみ出すかどうか、という感じですね。隆太郎さんのこれまでのボキャブラリーの中にないものを僕が書くというのが面白かったです。

藤津:
久保田さんから見て、演出家としての中村監督はどういう方でしたか?シャフト制作の「REC」は、「COLORFUL」と並んで監督の中で異色作というイメージがあります。

久保田:
作品への向かい方は、どの作品でも変わらない向かい方で、自分がこだわりたいところ、撮影にしても編集にしても、とにかく時間をかけてスタッフと「セッション」するというスタイルでした。本人に聞いたわけではないですが、スタッフと一緒に映像を作っていく過程がすごく好きだったのではないでしょうか。熱く話をする彼の姿を思い出すと、気に入ったスタッフたちと作品を作り上げるという、そのことが楽しかったのではないかと思います。

小中:
隆太郎さんの武器はコンテや演出、ディレクションですが、徹底的に自分の好きなスタッフにとことんこだわり続けるというところでもあります。それは作品が変わっても、スタジオが変わっても続きました。ということで、多くの作品を手がけられた音響監督の鶴岡さん、どうぞ。

鶴岡陽太(以下、鶴岡):
よろしくお願いします。

小中:
鶴岡さんは隆太郎作品をほとんどやっているんじゃないですか。

鶴岡:
一応、「lain」以降は「COLORFUL」、「サクラ大戦」、「キノの旅」、「神霊狩」と、大体やっています。

小中:
僕はそれ以外の「THE ビッグオー」や「TEXHNOLYZE」でもさんざんお世話になりました。会うたびにセリフについて文句を言われてました。声優さんが来ると「ほら、説明して!」って言われたり。

鶴岡:
だって、書いてあることが難しいことが多いでしょう(笑) 小中さんと隆太郎さんとは「lain」をやって、あのとき「この仕事はやっちゃってもいいんだ」と感じたことを思い出します。アニメの仕事に携わってきて、自分の中で封印してきたもの、仕事で邪魔になると思っていたものを解き放ってくれました。隆太郎さんって、さっきも話に出てましたけど、ほぼほぼしゃべらないんですよ。

小中:
鶴岡さんにもしゃべらない?

鶴岡:
しゃべらないですね(笑) でも、うまくできているときには喜んでくれるんです。「これじゃないんだ」「これは喜んでくれている」というのが伝わってきて、通り一遍のことは嫌いだったなと思います。

小中:
隆太郎さんはアフレコは休んでもダビングに入っていましたね。あんなにも音にセンシティブな人はいないんじゃないだろうかと思います。

鶴岡:
「描いていないものをやってくれ」と、そう言われたわけではないけれど、求められていると感じました。音も、SEが落ちていない程度にはつけているけれど、「そこにあるもの」が重要なわけではないのかなと。先ほど見ていただいた「劇場版キノの旅」でも、何もないところで音が鳴っていたりしますよね。

藤津:
コールの姿のところで音が鳴っていますね。

鶴岡:
タイトルでも「ポーン」って不思議な音が鳴っていますが、あれは「lain」から「神霊狩」まで使っている「©中村隆太郎」サウンドで、やると喜んでくれるんです。

小中:
実相寺昭雄さんの「チーン」みたいなものだ。

(一同笑)

鶴岡:
生理的、感覚的にすごく好きなんだろうと思います。ダメだとがっかりした顔をしますから。


小中:
僕は鶴岡さんとの思い出の作品として「ラーゼフォン」がありますね。音楽が橋本一子さんで、鶴岡さんが自分の好みを音楽に入れてきたなと感じました。「神霊狩」では、隆太郎さんと鶴岡さんの間で音楽を作っていて、エレクトリック・マイルスをやるんだと。

鶴岡:
「lain」のときにはまだ掴めていなかったんですが、そのあと隆太郎さんとやっていて「この人とはリミッターなしでいいんだ」とわかったので、「神霊狩」のときには好き放題でしたね(笑)

小中:
普通のアニメではありえないようなこともやっていましたよね。隆太郎作品は、どのセクションでもそうですが、普段の仕事のルーティンとは違う、自分の好みを入れると面白くなって返ってくるところがありますね。

鶴岡:
何か、スタッフの持っているものを後押ししてくれるようなところ、支えてくれるようなところがあって、それがなければ無茶はできなかったんじゃないかなと思います。

小中:
一般的には「lain」なんだろうけれど、今になってみると僕は「神霊狩」の方が思い出深いという感覚があります。

鶴岡:
僕も「神霊狩」はやり切った思いがあります。

小中:
鶴岡さんの好みを引き出せて、僕にも達成感がありました。普通は「エレクトリック・マイルスって、何をやっているんだこの人たち!」ってなりますよね(笑) すごく狭いですよ、マイルス・デイヴィスの「パンゲア」とか「アガルタ」とか。

藤津:
ちょっと「キノ」まで戻って質問があるんですが、あれは引き算で音ができているんじゃないかと感じたんですが、音はどのように作られたのでしょうか。

鶴岡:
これが、引いてないんです。もともとつけていないんです。


(一同笑)

鶴岡:
普通は音を入れた上で、聞かせたい音を考えて間引いたりするんですが、「キノ」をやっているころには隆太郎さんのイメージがだいたい見えていたので、たとえば「風が吹いているのは見ればわかるから、風の音はいらない」という感じですね。

藤津:
でも、エルメスのエンジン音は型まで合わせているとか。

鶴岡:
あれはテレビシリーズの時に、モデルに合わせてつけました。やけにリアルですよね。

藤津:
なるほど。鶴岡さん、ありがとうございました。

(鶴岡さん抜ける)

藤津:
いろいろなお話が出ていますが、中村監督にはこんな一面もあったぞというエピソードはありますか?

久保田:
お酒が好きなので、仲良くなるとよくお酒を飲みに行くんです。すると、大体はスタッフを褒める話ばっかりで、それが夜10時ぐらいから始まって、朝とか明るくなるまで帰らせてくれないですね(笑)

小中:
同じ話を3巡ぐらいするんですよね。でも、それが隆太郎さんのコミュニケーションなんだなと思って、「神霊狩」のときは僕から誘ったりしました。でも、隆太郎さんがもっと身近に感じていたのはアニメーターではないかなということで、「魔法使いTai!」でキャラクターデザインを務めた伊藤郁子さんがいらっしゃっているので、ちょっとお話をうかがえればと……。

伊藤郁子(以下、伊藤):
そんなに立派な話はありませんよ……。

小中:
僕らもそんなに立派な話はしていないですから(笑)

伊藤:
私は「魔法使いTai!」からですが、お酒が飲めるので中村監督と仲良くなるのは早かったかもしれません。一緒に飲んで、隆太郎さんがつぶれるまで付き合ったりしました。

小中:
伊藤さんは絶対に潰れないですから。

伊藤:
「あの話数のあれ、良かったよ」ってすごく人を褒めますよね。テレビシリーズの「魔法使いTai!」で、隆太郎さんは第3話を演出されたんですが、「いや、2話がいいんだよ!」って。

(一同笑)

伊藤:
2話は、女の子たちが部屋に集まってケーキで一騒動という話だったんですが、「ああいうキャッキャするやつがやりたかったんだよ」って悔しがってましたね。

藤津:
中村監督の作家性というと言葉が大きいかもしれませんが、持ち味はどういうものだったと思いますか?

伊藤:
「ちびねこトム」もそうですが、子どもの目線になって作品に入り込む事が出来る方で、だからこそ子ども向け作品が得意な方だったんじゃないかなと思います。隆太郎さんとは一緒にパイロットフィルムを作った事があって、奇妙な生き物が飛び回る、日本語ではない不思議な言葉を使う世界のファンタジー作品で、すごく面白かったです。

藤津:
それはいつ頃の作品ですか?

伊藤:
隆太郎さんが「FF:U 〜ファイナルファンタジー:アンリミテッド〜」の仕事をしていたころだと思います。ちょうど、近くの席で今川泰宏監督が「七人のナナ」をやっていて、今川さんエリアは関西の方で固められていたせいか、とても賑やかだったので、隆太郎さんは「僕はちょっと疎外感を感じているんだ」と拗ねていました(笑)

藤津:
そのパイロットは気になりますね。

伊藤:
そうですね、あちらにいる鈴木誠二さんが詳しいと思いますので……。

小中:
はい、次に詳しく聞きたいと思います。

藤津:
伊藤さん、突然登壇していただきありがとうございました。

(伊藤さんが抜け、入れ替わりに鈴木誠二さんが登壇)

小中:
隆太郎さんには、久保田さん、Production I.Gの川口徹さん、鈴木誠二さんと、近くに世話をしてくれる人がたくさんいました。鈴木さんは「魔法使いTai!」からずっと関わってこられた人です。最初に隆太郎さんと会ったのはいつごろですか?

鈴木誠二(以下、鈴木):
最初はトライアングルスタッフの忘年会で会って、それから「魔法使いTai!」の宣伝に入りました。実は僕は「グスコーブドリの伝記」は公開時に見に行っていて、忘年会のとき隆太郎さんに「グスコー感動しました」と言ったら「正面切って言われたのは初めて」と。そこから気に入られたのかなと思います。先ほど「クリスタニア」の話が出ていましたが、僕は第2話がすごく好きだったのでそのことを言ったら「僕はトライアングルスタッフで1話と3話をやっているのに、鈴木くんはシャフトが担当したグロスの2話がいいんだ」って。

(一同笑)

鈴木:
「でも、隆太郎さんが監督じゃないですか」って言ったんですけれどね。話に出ているように、隆太郎さんは現場とセッションしたがるんです。でも、当時はグロス回でそんなに現場に入るようなことはなくてセッションできなかったから。

久保田:
確かに、「クリスタニア」のときはそういう感じではなかったです。終わってから深い付き合いになっていったので、自分の知らないところでできてしまったというのが悔しかったんでしょうね。

鈴木:
「REC」のときは、隆太郎さんも異色作だからこそ楽しんで作っていたんじゃないかと思います。当時、シャフトさんといえば仕上げも撮影も一貫してやられていて、僕が見た限りでは、隆太郎さんはすごく嬉しそうな様子でした。でも酒が入ってくると、褒めた後で「でも、鈴木くんは僕の作ったものよりシャフトの作った2話が好きなんだ……」って絡んでくるんです。

(一同笑)

鈴木:
そこだけが唯一困ったところでしたね。

藤津:
鈴木さんは「グスコーブドリの伝記」を見て感動したというお話でしたが、どのあたりが良かったですか?

鈴木:
僕は宮沢賢治はSFだと思っているんですが、みんなファンタジーや童話的なとらえ方をしていると思うんです。でも、それを隆太郎さんはうまく捉えて見せているなと思いました。火山のシーンは火山学者の方も評価していて、Togetterまとめで見かけたんですが、グスコーブドリでの火山噴火解説シーンが大学の授業で使われたことがあるそうです。「劇場版キノの旅」でも、普段の絵と監視カメラでの絵の違いにこだわるし、そこにどう処理を加えるかもこだわるし……。

小中:
思い出した!「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」をやったとき(第5話)、あれも監視カメラの映像を使った話だった……好きなんですかね?

鈴木:
そこはおそらく、客観演出とか視点を変えたところから来る違和感とかを求めたのかなと思います。「lain」でも影の処理に凄くこだわっていて、「日常の中の非日常」とか、そういうものをすごくやりたかったんだなと。でも「仕上げでやるので、最後はタッチできませんよ」というのはすごくいやがる。久保田さんが言っていましたけれど、ぴたっと現場に密着して、本当に微妙なところを「これ、もうちょっと、こう……」って(笑)。小中さんのシナリオみたいな、普通のアニメのものじゃないのを喜びましたし、そのあたり、すごく面白い人でしたね。

小中:
こういうのを聞くと、もう1本、もっと「これでもか」という作品をやってみたかったねえ……。

藤津:
みなさんのいろいろな視点から話を聞いていて、だんだんと像が浮かび上がってきた感じがします。

小中:
ちょっと関係ないんですけれど、最近ちょうど来客があって、フランスで映画のオープニングタイトルシークエンスを作っているという人が来たんです。その人が言うには、若手のフランス人監督に「lain」のファンがいると。それを聞いて、「lain」は「あのときよかったね」という単なる懐かしアニメではなく、そうやってクリエイターを生んだんだなと。

藤津:
国内だけではなく影響を与えたということですね。このあたりでいい時間になってきたので、お客さんからの質問に答えていきたいと思います。ぜひ、質問があれば。

質問1:
監督によっては、脚本はたたき台だと考えている人もいるそうなのですが、中村監督はどうだったのでしょうか。また、小中さんは「ですぺら」という企画をやっておられましたが、中村さんは「ですぺら」にどのような思いがあったのでしょうか。

小中:
まずシナリオですが、アニメの現場ではシナリオは確かにたたき台で、セリフを変えられることが多いです。でも、私は我が強いからでしょうか(笑)、わりとそのままになることが多いです。隆太郎さんの場合、「lain」では2稿ぐらいで決定稿になっていたと思います。あまりシナリオについてどうこうしてくれというのはまったく言わない人でした。

「ですぺら」については、隆太郎さんがこういうのをやりたいと言ったものではなく、以前から、僕と隆太郎さんと安倍吉俊さんと、「lain」の3人で何かやろうよと10何年前から話をしていて、僕が関心を持っていた大正時代を舞台にしたものです。連載をしていたころ、隆太郎さんは体調を崩されていたので、意見らしい意見はなかったです。本気でやりたかったですけれどね。

質問2:
あまりしゃべらない監督だったということですが、「この人とならやれるな」と最初に思ったポイントがどこだったのか教えてください。

久保田:
「クリスタニア」の制作時にはほとんど話さなかったんですが、作り終わった後、スタッフをものすごく褒めてくれるんです。それに、コンテが「スタッフをやる気にさせてくれる」コンテなんですよ。すごく精緻であり、絵も上手いですし、「隆太郎さんのコンテだったらやってもいいよ」って言ってくれる人もいるぐらいです。僕も隆太郎さんとやっていきたいと思いましたし、現場を成長させてくれる監督だったなと思います。

鈴木:
僕には隆太郎さんに「あまりしゃべらない」という印象はないんです。それは、僕が現場の人間ではなかったからいろいろ話しやすかったからなのかもしれませんが、こうして「無口だった」という話を聞いてもあまりピンとこないんですよ。

久保田:
補足すると、納得しないことや気に入らないことがあると、まったくしゃべってくれないですね。それで「これは違うんだ」って(笑)

小中:
僕は、先ほども話したとおり「lain」の第1話のコンテを見た時点で上田プロデューサーとともに「はいっ!ありがとうございますっ!」。演出の部分でさらに僕らを納得させてくれましたから。

藤津:
「仕事で返事が来た」という感じですね。

質問3:
「キノの旅」で鳥が印象的でしたが、「lain」のオープニングでカラスが最後にバサッと飛ぶところを思い出しました。あれは監督の好みなのか、小中さんの用いたモチーフなのか、たまたまなのかお伺いできれば。

小中:
直接その話をしたことはないんですが、印象的ですよね。「神霊狩」でも鳥が印象的に出てくるので、ひょっとすると、隆太郎さんにとってはジョン・ウーの鳩のようなものだったのかもしれません。

質問4:
玲音は髪型がアシンメトリーでヘアピンがクロスになっていたり、「神霊狩」の鳳先生はめちゃくちゃ巨乳で顔よりでかかったり、キャラクターを一度見れば見間違わないというぐらい特徴的な造形です。あれは、脚本に特徴として書かれていたものなのでしょうか。

小中:
「lain」の場合はキャラクターイラストが先にあったので、そこからですね。クマの着ぐるみをパジャマにしたのは、キャラクターデザインをやった岸田隆宏さんがラフに描いていたものを採用しています。アニメーターが「こういうのどうでしょう」と描いてきたものを、意表を突かれたら採用するという人でしたね。鳳先生は……僕のイメージとは全然違っていましたね(笑) きっと、岡真里子さんの描いた鳳先生をすごく気に入ったんだと思います。自分がこうしたいというビジョンは持っているけれど、自分にないアイデアを積極的に取り入れることで作品に厚みを持たせるという監督だったと思います。それは、優れた監督の資質だと思います。

藤津:
中村監督はシャフトでは守岡英行さん、伊藤良明さんと仕事をされています。それぞれ原作はありますが、描き手の人はどうやってくるだろうかというところを大事にする方でしたか?

久保田:
新たなシリーズ・作品を作っていく中で、それに合わせたキャラクターデザインを大事にされていたのではないかと思います。先ほど見ていただいた「劇場版キノの旅」であれば劇場版なりのデザインをということで、テレビシリーズとは違ってリアルめにしていると思いましたし、何テイクもトライしていた記憶があります。その点では、厳しいといえば厳しいです。

質問5:
中村監督は絵を描ける方ですが、描けるがゆえに、制作現場で自分が描くということはなかったのでしょうか。

久保田:
僕らが関わった中では、まったくなかったですね。「アニメーター」と「監督・演出」をはっきりと分けていたのだと思います。自分で直すことは絶対にしていなかったと思います。レイアウトを自分で切り直すのも見かけなかったですし、「こうして」という指示があったときに「珍しいな」と思った記憶がありますので、専門のセクションに任せていたのだと思います。

鈴木:
隆太郎さんはものすごくうまいアニメーターで、出﨑統さんのスタジオで「杉野さんの右腕」に近い存在だったと聞いたことがあるんですが、それを言うと不機嫌になるんです。本人があまり言わなかったので「おそらく」ですが、久保田さんの言うように「自分はアニメーターではない」と本人の中では明確に分けて考えていたんだと思います。小中さんの言っていたようにスタッフにはこだわる人で、気に入ったアニメーターさん、岡真里子さんや岸田隆宏さんにはずっとラブコールを送っていました。

藤津:
どこかでアニメーターではなく演出家なんだと決めたということなんでしょうね。

鈴木:
ちなみに、自分の趣味に合わない絵だと、僕に「えー、鈴木くんはそういう絵が好きなんだ。ああいう人の絵がいいんだ」って言ったりもしていましたけれど(笑)

藤津:
それでは最後にお三方からメッセージをいただければと思います。

鈴木:
隆太郎さんの作品を見に来る方がこんなにいらっしゃって、とても嬉しいことです。先ほど伊藤郁子さんがおっしゃっていた、隆太郎さんと一緒に作っていたパイロットフィルムも、「ですぺら」も、いつかなんとかしたいと思っています。引き続き、隆太郎さんのことを忘れないでいてください。

久保田:
隆太郎さんとこんな仕事をしたということが少しでも伝われば幸いです。本当に若いスタッフのところに入ってもらって、現場で一緒に制作をして、いろんな財産を残していただきました。今、そのスタッフが中心になってやっているので、いいものをもらったと思います。隆太郎さんの遺志や関わった作品を少しでも伝えていければと思いますので、みなさん応援してください。そしてこの後も、隆太郎さんの作品をいっぱい見ていただければと思います。

小中:
私の中で「隆太郎さんロス」がどれだけ大きいのかは、それ以降アニメをやれなくなってしまったということに出ています。そうはいえども、隆太郎さんの残したものを受け取るというか、次の世代に継承できればと思っていますので、生暖かく見守ってください。


今回のイベントの企画者で、中村隆太郎初監督作品である「ちびねこトムの大冒険」のクラウドファンディングプロジェクトの発起人でもある明石光弘さんは、締めの挨拶で来年もイベントを行いたいと語りました。

広く知られる代表作である「serial experiments lain」だけではなく、小中さんが思い出深いと語った「神霊狩/GHOST HOUND」、鈴木誠二さんを感動させた「グスコーブドリの伝記」、シャフトと繋がりの生まれたOVA「レジェンド・オブ・クリスタニア」など、もっともっと深く知りたい作品が多々あるので、ぜひ続いて欲しいと願います。

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