サイエンス

自分の家の中でも迷子になってしまう「発達性地誌的見当識障害」とは?


スマートフォンの地図アプリが使えなくなった時に慌てることはありますが、一部の人は自宅の中のような慣れた場所でも方向が分からなくなることがあります。オランダのライデン大学で神経心理学を研究するイザベル・カイコ氏らが、頭の中に場所のつながりを示す地図を作れない状態と、発達性地誌的見当識障害(Developmental topographical disorientation:DTD)の関係について解説しています。

The condition that causes people to get lost in their own home
https://theconversation.com/the-condition-that-causes-people-to-get-lost-in-their-own-home-284617


DTDは、子どものころから道順や場所の位置関係を把握するのが難しく、慣れた場所でも迷ってしまうことを特徴とする障害です。推定によっては最大で30人に1人が該当する可能性があり、DTDの人々は子どものころから少なくとも週に数回は道に迷ってきたと報告しています。脳のけがや神経の病気、精神疾患によって後から起こるものではなく、その人の中で道や場所を把握する仕組みがもともとそのように働いているものだとカイコ氏らは説明しています。

DTDの困難の程度には幅があり、軽い場合は単なる「方向音痴」として見過ごされることもあります。そのため、カイコ氏らはDTDに含まれる困難を細かく見分ける必要があると指摘しています。


多くの人は、駅・店・家・曲がり角といった目印がどのような位置関係にあるのかを頭の中でまとめています。こうした頭の中の地図は「認知地図」と呼ばれ、知らない道を使って近道をしたり、いつもと違うルートで目的地へ向かったりする時に役立ちます。

カイコ氏らはDTDのうち認知地図を作れないタイプを「アトピア(atopia)」と呼ぶことを提案しています。アトピアの人々はランドマークを認識したり目立つ特徴を覚えたりする能力が低いわけではありませんが、「それぞれの場所が互いにどの位置にあるのか」を頭の中でまとめるのが難しいとのこと。

例えばアトピアの人は「自宅は駅の近くにある」「店は自宅の近くにある」といった情報を知っているかもしれません。しかし、それぞれの情報は個別の知識にとどまり、自宅・駅・店がどのように並んでいるのかを頭の中で思い描くことができません。そのため、道路が閉鎖されたり曲がる場所を間違えたり建物へいつもと違う方向から近づいたりすると、目の前の目印を見てもそこからどちらへ進めばいいのか分からなくなってしまいます。


研究の一環としてカイコ氏らがインタビューした研究参加者の1人は、周囲の道や建物の位置関係を頭の中で思い浮かべることができず、「頭の中ではいつも1つの場所にいる」と表現していました。

道に迷うことへの心配が大きくなると、アトピアの人は決まった道だけを使うようになったり外出そのものを避けたり、GPSに頼りきりになったりすることがあります。こうした行動は周囲から「不注意」「心配しすぎ」「理解力が低い」と誤解されることもありますが、カイコ氏らはそのような見方には根拠がなく当事者をさらに追い詰める可能性があると主張しています。

また、アトピアやDTDの人は適切な支援がなければ1人で移動することが難しくなる場合もあります。実際に研究参加者の1人は、自宅から少し離れた場所へ行く時にも夫の助けが必要で、少し離れた場所には1人で行かなかったとのことです。

ただし、アトピアやDTDは進行して悪化するものではなく、道を見つける力は訓練で改善する可能性があります。カイコ氏らは、ナビゲーション能力は筋肉のように、使わなければ弱まり、使えば鍛えられる面があると説明しています。Scientific Reportsに掲載された研究では、自分で道を見つける機会が少なくGPSに強く頼っていた人ほど、後にGPSなしで道を探す課題を行った時の空間記憶の成績が低かったことが示されています。さらに同じ人々を3年間追跡したところ、GPS使用が多い人ほど空間記憶の低下が大きいという結果が出ています。


Frontiers in Human Neuroscienceに掲載された研究では、仮想空間を使ったトレーニングが空間定位能力の改善に役立つ可能性が示されています。カイコ氏らは、アトピアの人々のナビゲーションに関する困りごとを減らし、自分で移動しやすくなることを目指す6週間の仮想プログラムを開発し、テストを進めています。

カイコ氏らは、道案内のためにスマートフォンを手に取る前に「自分だけで道を見つけられるか少し考えてみる価値がある」と述べています。自分で道を見つけて移動する力は多くの人にとって当たり前のものですが、普段から意識して使うことで保ちやすくなる可能性があるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1b_ok

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