ロシアとウクライナでTikTokのおすすめ動画がどう違うのかを比較実験したらこうなる
中国発のTikTokは、若年層を中心に世界中で人気があるショートムービー共有サービスです。TikTokでは、ユーザーの年齢や性別、居住地などの個人情報に基づいて、おすすめのムービーが表示されます。ノルウェーの公共放送局であるノルウェー放送協会(NRK)が、ロシアとウクライナに住む架空のユーザーを使って、表示されるおすすめムービーにどんな違いが生まれるのかを実験しています。
TikTok doesn't show the war in Ukraine to Russian users – Oslo og Viken
https://www.nrk.no/osloogviken/xl/tiktok-doesn_t-show-the-war-in-ukraine-to-russian-users-1.15921522
ウクライナ北東部の街・ハルキウと、ロシア・ベルゴロド州の州都であるベルゴロドは、ウクライナとロシアの国境を挟んでわずか70kmほどしか離れていません。
ベルゴロドのあるロシアでは、海外産ソーシャルメディアであるFacebook・Instagram・Twitterへのアクセスが禁止されています。ただし、中国産のTikTokには記事作成時点でロシアからアクセスすることが可能です。
そこでNRKは、ハルキウとベルゴロドのIPアドレスを使い、ハルキウ在住の「ニコライ君」とベルゴロド在住の「アレクセイ君」という2つのアカウントを作成しました。いずれのアカウントも性別は男性、年齢は兵役に就くにはかなり若い19歳に設定されています。
さらに、NRKはAIで作り出した架空の顔写真をプロフィールに設定して、おすすめにどんなムービーが表示されるのかを比較しました。
ハルキウ在住のニコライ君のおすすめに表示されるのは、軍服を着た男性がウクライナへの愛国心や「戦いに参加するのは人間としての義務だ」といったメッセージを語るムービーばかり。
それに対して、ベルゴロド在住のアレクセイ君のアカウントには、かわいらしい動物のムービーや手作りの服を着るTikTokerのムービーなどがおすすめされました。
それぞれのアカウントで、おすすめ動画を25本スクロールしたところ、ニコライ君へのおすすめは25本中18本がウクライナ侵攻関連のムービーでした。
一方で、アレクセイ君におすすめされた25本の動画のうち、戦争に関するムービーはわずか4本。そのうち1本は、ウクライナのゼレンスキー大統領がコメディアン時代に披露した芸のものでした。
アレクセイ君におすすめされるムービーで戦争のものがほとんど存在しない理由の1つに、ロシア政府が虚偽だとする情報があるプラットフォームに罰金が科される「フェイクニュース法」があります。2022年3月にTikTokは、ロシアからの動画のアップロードやライブ配信を停止することを発表しています。
そのため、アレクセイ君におすすめされる戦争関連のムービーは、ウクライナ侵攻の前あるいは侵攻直後に撮影されたものとなっています。
NRKは数日かけて、2つのアカウントでおすすめされるムービーを600本以上視聴しました。以下に表示されているタグは、ニコライ君が見た動画につけられていたタグのもので、「ウクライナ」「戦争」「ゼレンスキー」「くそったれプーチン」などがあります。
これに対して、アレクセイ君の見たムービーのタグには、化粧品ブランドの名前や人気ラッパーの曲名などが並んでいます。ただし、1つだけ「нетвойне(戦争反対)」というタグもあったそうです。
ニコライ君のおすすめには戦争関連の動画を含めて新しいコンテンツがどんどん追加されますが、アレクセイ君のおすすめ動画にはほとんど変化がなかったとのこと。ウクライナ侵攻に関連する唯一のムービーは、ハルキウにある建物にミサイルが命中する瞬間を撮影したものでした。
ニコライ君のおすすめに出てた動画に、アレクセイ君のアカウントからアクセスしようとすると、「このムービーは現在視聴することができません」というメッセージが表示されました。
NRKが今回の実験結果についてTikTokにたずねたところ、TikTokは「ロシアの新しいフェイクニュース法に照らして、この法律の安全性への影響を検討している間、ロシアでのビデオサービスへのライブストリーミングと新しいコンテンツを一時停止するしかありません」という声明が返ってきたとのこと。
ヨーロッパの活動家グループであるTracking Exposedが発表したレポートによると、ロシアのTikTokユーザーはTikTokにアップロードされているコンテンツの95%にアクセスできなくなっているそうです。
ニコライ君とアレクセイ君の両方のアカウントで見ることができたムービーは、のべ4000本のうちたった19本だったとのこと。そのどれもが「歌ってみた」「踊ってみた」など、ウクライナ侵攻にはまったく関係のないものばかりだったそうです。
NRKは「地理的にはハルキウとベルゴロドはそれほど離れていません。しかし、それぞれの住民は、TikTokでは離れた世界に住んでいるのです」とコメントしました。
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