気候変動によって「人が最も多く死ぬ季節」が変遷しつつある
1年の中で最も多く人が死ぬ季節は「冬」であることが知られていますが、51年分の気候データと人口動態調査データを分析した結果から、「夏の死者の割合」が年々増加していると判明しました。
Increased ratio of summer to winter deaths due to climate warming in Australia, 1968–2018 - Hanigan - - Australian and New Zealand Journal of Public Health - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1753-6405.13107
More people die in winter than summer, but climate change may see this reverse
https://theconversation.com/more-people-die-in-winter-than-summer-but-climate-change-may-see-this-reverse-159135
シドニー大学で環境疫学専門のデータサイエンティストとして活躍するイワン・チャールズ・ハニガン氏らが行った調査は、オーストラリア健康福祉研究所やオーストラリア統計局などが提供する人口動態調査データから「55歳以上の人」のデータを抽出して気候データと照らし合わせるというもの。ハニガン氏らはオーストラリアに住む55歳以上の人々を対象に、各年における「夏の死者数」「冬の死者数」を算出し、当該年度における気温データと比較することで、気温と死者数の関係について調べました。
この調査の結果、1968年には夏の死者数と冬の死者数は「73対100」という比率でしたが、2018年には「83対100」と、夏の死者数の割合が相対的に増加したことが判明。さらにこの季節における死者数を気温データと照らし合わせたところ、特に温暖な年では夏と冬の死者数がほぼ「1対1」に等しくなることもわかりました。なお、年を経るごとに夏の死者数の割合が上昇するという傾向は、州・男女・死因(呼吸器疾患、心血管疾患、腎疾患)によらず一貫していたことも確認されています。
2017年の研究によると、「冬の死者数減少は夏の死者数増加を上回っており、正味の死者数は減っている」という結果が得られていました。しかし、この研究では「21世紀半ば頃に夏の死者数増加が優勢となり、正味の死者数は増加傾向に転じる」とされており、ハニガン氏らもこれに賛同しています。
暑さと寒さは健康と密接に関わっており、インフルエンザなどの感染症は冬に流行する傾向があるため「冬の死亡率は夏の死亡率を上回る」というのが通例ですが、暑さは高齢者の心臓病や腎臓病などの慢性的な病を悪化させることで知られています。ハニガン氏らは今回用いたオーストラリアの人口動態調査が50年以上という長期間にわたって詳細で質が高いデータを収集し続けていた点に触れて、「気候変動と健康の関係を示すためには少なくとも30~50年分のデータが必要だが、低・中所得国ではこれほど長期にわたる詳細なデータを入手するのは困難」と指摘。詳細なデータの継続的な収集が今回の研究に特に役立ったと述べました。
ハニガン氏らは今回の研究について、州という大きなくくりでは気候データが存在したものの市町村などの小さなくくりではデータが存在しなかったという点や、調査対象者の職業に関してはデータが存在しなかったという点、将来的に何らかの形で「人類が気温上昇に適応する」という可能性がある点を認めつつ、今回の研究結果が「気候変動は人類の健康に影響を与えるのか」という疑問の答えの1つになると主張。医療サービスやヘルスケア、住宅、エネルギー問題、休暇期間などの各種政策について、今回の結果が役に立つとコメントしました。
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