サイエンス

結局「新型コロナウイルス感染症とインフルエンザ」を比べるとどっちがどれだけ危険なのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発見されてから1年が経過しようとしている2020年12月15日に、COVID-19と季節性インフルエンザを完全に条件をそろえた均一なデータで比較した研究結果が、イギリスの医学誌British Medical Journalに掲載されました。この論文により、COVID-19とインフルエンザの死亡リスクや症状の違いが改めて浮き彫りとなっています。

Comparative evaluation of clinical manifestations and risk of death in patients admitted to hospital with covid-19 and seasonal influenza: cohort study | The BMJ
https://www.bmj.com/content/371/bmj.m4677

Study: COVID-19 patients have greater risk of health problems, mortality than those with flu
https://www.news-medical.net/news/20201215/Study-COVID-19-patients-have-greater-risk-of-health-problems-mortality-than-those-with-flu.aspx

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はインフルエンザほど感染力が高くない」と発言したり、トランプ大統領が「COVID-19はインフルエンザより致死率が低い」とFacebookに投稿したりするなど、COVID-19とインフルエンザはしばしば比較の対象とされてきました。

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by UN Geneva

こうしたCOVID-19とインフルエンザの比較について、ワシントン大学セントルイス校臨床疫学センターの所長であるZiyad Al-Aly氏らの研究チームは、「政府機関や公衆衛生当局、さらには一般人までもがさまざまな形でCOVID-19とインフルエンザを比較してきましたが、それらは異なる方法で得られたデータや統計を元にしており、同一の条件での比較はこれまで行われてきませんでした」と論文の中で指摘しています。

そこで研究チームは、アメリカ最大の統合医療提供システムであるアメリカ合衆国退役軍人省(VA)の電子医療データベースを用いた研究を実施しました。VAは、退役軍人に対する福利厚生の一環として医療給付を実施しており、そのデータベースには合計1255の医療機関がのべ900万人以上の退役軍人に提供している医療サービスの記録が保管されているとのことです。


このVAのデータベースから症例を抽出した結果、2017年1月1日~2019年12月31日の間にインフルエンザ検査で陽性と診断された患者5万4281人の記録と、2020年2月1日~6月17日にCOVID-19検査で陽性と診断された患者9125人の記録が見つかりました。ここからさらに、診断前後の入院期間などの条件をそろえるためにデータを絞り込んだ結果、最終的にインフルエンザ患者1万2676人とCOVID-19患者3641人のデータが残りました。なお、インフルエンザ患者の平均年齢は70.25歳で、COVID-19患者の平均年齢は69.03歳、全体の平均年齢は69.98歳でした。

そして、研究チームが両方の記録を突合した結果、「COVID-19はインフルエンザに比べて死亡する確率が5倍近く高い」ことが判明しました。具体的には、インフルエンザ患者1万2676人のうち死亡したのは674人(5.3%)だったのに対し、COVID-19患者3641人のうち死亡したのは676人(18.5%)でした。

以下は、インフルエンザ患者(青色)とCOVID-19患者(黄色)の100人当たりの死者数(縦軸)を入院してから日数(横軸)ごとに比べたグラフです。インフルエンザ患者の死亡率は入院20日目ごろを境にほぼ横ばいになっている一方で、COVID-19患者は入院初日から60日まで一貫して死亡率が急激に上昇していることが分かります。


また、以下は同様に人工呼吸器を使用した患者数(上)と集中治療を受けた患者数(下)を表したグラフです。COVID-19患者とインフルエンザ患者による医療資源の利用状況を比べた結果、「COVID-19患者は人工呼吸器を必要とする確率がインフルエンザ患者より4倍高く、集中治療室での治療が必要になる確率も2.5倍高い」ということが分かりました。また入院期間も、COVID-19患者の方がインフルエンザ患者より平均3日長かったとのことです。


この研究ではさらに、COVID-19患者は入院中に糖尿病になる可能性が、インフルエンザ患者に比べて患者100人当たり約9人分高いことも分かりました。これについてAl-Aly氏は「COVID-19にかかる前は糖尿病ではなかった人も突然血糖値が急上昇し、大量のインスリンが必要となりました。この糖尿病が一過性のものなのか、それとも長期的なものなのかは、まだ1年しかたっていないので分かりません」とコメントしました。

なお、2020年6月に発表された研究でも「COVID-19にかかると健康な人でも糖尿病になってしまう可能性がある」ことが分かっています。この研究では、ウイルスへの感染によりインスリンを分泌する細胞が破壊されることが、糖尿病を引き起こしているとの推論が示されています。

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糖尿病だけでなく、腎障害・肝障害・敗血性ショック・内臓障害が疑われる低血圧・肺塞栓症深部静脈血栓症脳卒中急性心筋炎・不整脈および心臓突然死など、さまざまな合併症についても、インフルエンザ患者よりCOVID-19患者の方がリスクが高いという結果でした。

こうした研究結果を踏まえて、Al-Aly氏は「私たちはCOVID-19を呼吸器系のウイルス感染症と呼ぶこともありますが、臨床結果を見れば、脳・肝臓・心臓・腎臓・血管など幅広い部位がダメージを受ける危険性が浮かび上がります。これは破壊的な結果です」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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