新型コロナPCR検査の結果やワクチン接種の有無を証明する「デジタルパスポート」の導入が進む、研究者は不平等をもたらすと懸念
新型コロナウイルスのパンデミックに対応し、世界中でPCR検査の結果やワクチン接種の有無を証明する「デジタルパスポート」の導入が進められています。パンデミックへの対処におけるデジタルパスポートの重要性と、研究者が主張する課題についてニューヨーク・タイムズがまとめています。
Vaccinated? Show Us Your App - The New York Times
https://www.nytimes.com/2020/12/13/technology/coronavirus-vaccine-apps.html?linkId=107095009
感染症のワクチンを接種したことを示す「予防接種証明書」の歴史は古く、1880年代には一部の学校が生徒と教師に「天然痘の予防接種を受けたことを証明するカード」の提示を求めていたとのこと。また、1960年代には黄熱病の予防接種を受けた人に対し、イエローカードという予防接種証明書が発行されるようになりました。記事作成時点でも黄熱病が流行する特定の地域に住む人々は、出入国する際にイエローカードを提示する必要があります。
新型コロナウイルスが流行した2020年には、多くの国で渡航の際に「新型コロナウイルスの陰性証明書」を求めるようになりました。これにより、人々は渡航前に症状がなくてもPCR検査を受けて陰性証明書をもらう必要に迫られましたが、一部の人々は闇ルートを通じて「偽の新型コロナウイルス陰性証明書」を購入しているとも報じられています。
海外へ旅行するために闇ルートから「偽の新型コロナ陰性証明書」を買う人がいる - GIGAZINE
新型コロナウイルスのワクチン接種がイギリスやアメリカでスタートする中で注目されているのが、PCR検査結果やワクチン接種の有無を証明する「デジタルパスポート」です。スマートフォンアプリなどで簡単に自身のワクチン接種履歴や健康状態を証明できるようになれば、新型コロナウイルスの流行を制御し、経済を回復に向かわせる取り組みに大きく役立つとみられます。デジタルパスポートは長距離の旅行だけでなく、映画館やクルーズ船、スポーツ施設などでも導入が進む可能性があるとのこと。
アメリカでは新型コロナウイルスのワクチン接種を受けた人にカードを配布し、医療提供者やワクチンの製造業者、製造ロット、接種日などが確認できるようにする計画だそうです。その一方で、PCR検査結果やワクチン接種のデジタル証明書については保健機関が明確なガイダンスを発行していないため、企業や非営利団体がそれぞれ健康パスポートアプリの開発を進めています。パスポートアプリの開発者らは、イエローカードと同様の信頼性を持つ資格情報を提供することを目的としており、スマートフォンアプリによる証明は紙の文書より偽造がしにくいと主張しています。
コンピューター関連企業のIBMも健康パスポートの開発に乗り出している企業の一つであり、すでに「Digital Health Pass」と呼ばれるアプリのパイロットテストを完了しています。Digital Health Passは主要なスポーツ施設などで導入される計画だそうで、開発を監督したEric Piscini副社長は「経済を再開して特定の業界を救うには、このようなソリューションが必要だと思います」とコメント。自らの安全を証明するアプリがなければ人々が気軽に出歩けず、旅行や娯楽産業が悪影響を受けるとPiscini副社長は述べました。
また、空港などで人々の身元を確認する生体認証技術を開発するセキュリティ企業・Clearは、すでに「Health Pass」というアプリを導入しています。このアプリは一部のプロスポーツチームや保険業者などで使用されており、従業員のPCR検査結果をアプリで確認できるとのこと。将来的には、ワクチン接種の有無についてもアプリ上で確認できるようになる予定だそうです。
新型コロナウイルスのデジタルパスポートアプリとして最も広く知られているのが、スイスの非営利団体・Commons Project Foundationが開発した「CommonPass」です。Commons Project Foundationの最高医療責任者を務めるBrad Perkins博士は、「このアプリは新型コロナウイルスのパンデミックを制御し、封じ込めるために必要な、新しい一般的ニーズである可能性があります」とコメント。
パンデミック以前から人々が自身の医療データを取得し、使用できるソフトウェアの開発を行っていたCommons Project Foundationは、パンデミックが起きると東アフリカ諸国における健康パスポートアプリの構築を支援しました。このアプリは主にトラック運転手のPCR検査結果を証明するものであり、陰性の運転手が港で荷物を受け取り、内陸国に配達できるようにすることを目的としていました。
その後、Commons Project Foundationは世界経済フォーラムと協力して、よりグローバルなデジタルパスポートアプリの開発を行いました。CommonPassはPCR検査の陰性結果などのデータを証明し、人々が国際旅行のために国際線に搭乗するのをサポートします。すでにユナイテッド航空・ジェットブルー航空・ルフトハンザ航空などの各社が、今後数週間でCommonPassを導入する予定だとのこと。
CommonPassが導入された国際線を利用したい乗客は、PCR検査で陰性結果を入手した後にアプリが生成する確認コードを入手し、空港のチェックインカウンターや搭乗ゲートで確認コードを提示する必要があります。Perkins博士は、スマートフォンを持たないユーザーにも対応できるように、紙の搭乗券と同様に確認コードを印刷するオプションも用意したと述べています。
しかし、紙の予防接種証明書であってもスマートフォンのデジタルパスポートであっても、ワクチン接種の有無を示すテクノロジーにはさまざまなリスクがあると警告する専門家もいます。たとえば多くの場所で立ち入りにデジタルパスポートによる証明を求め始めた場合、デジタルパスポートを持っている人とそうでない人の間に格差が生じ、社会が分断される危険があるとのこと。
デジタルパスポートの一般化により、何らかの理由でワクチンやオンラインツールへのアクセスが制限されている人は、仕事や移動に困難が生じる可能性があります。カリフォルニア大学アーバイン校のMichele Goodwin法学教授は、「公衆衛生の保護は歴史的に差別の代用として使用されてきました」と述べ、デジタルパスポートが特定の人々を遠ざける口実として機能することを懸念していると主張しています。
また、デジタルパスポートによる医療データの管理にはプライバシーのリスクもあります。アプリ開発者らはプライバシーの保護も真剣に検討しており、航空会社や雇用主がアプリを通じてユーザーの詳細なデータにアクセスできないと主張しています。それでも一部のテクノロジー専門家は警戒を弱めておらず、身元保証企業のTruliooでCOOを務めるZac Cohen氏は、「テクノロジーが公正に動作する方法を理解するまでは、テクノロジーの導入には本当に慎重になるべきです」と述べました。
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