ネット上の議論が不快なレベルで白熱するのは「道徳のスタンドプレイ」が原因
by Clard
インターネット上ではさまざまな議論が繰り広げられていますが、激しく意見がぶつかり合った結果、思わず眉をひそめてしまうような勢いで議論が展開されることがよくあります。なぜソーシャルメディア上での議論が不快なレベルまで白熱してしまうのかについて、「道徳のスタンドプレイ」が理由だと主張する論文が発表されました。
Moral grandstanding in public discourse: Status-seeking motives as a potential explanatory mechanism in predicting conflict
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0223749
Psychological Study Of “Moral Grandstanding” Helps Explain Why Social Media Is So Toxic – Research Digest
https://digest.bps.org.uk/category/twitter/
ボーリング・グリーン州立大学の心理学者であるジョシュア・グラブス氏らは、「他人を感心させ、政治やモラルについて公然と意見を述べ、社会的地位を得ること」を「道徳のスタンドプレイ」と名付け、心理学の現象としても検討しうるものだと評価。「他人に感銘を与えようとする時は、道徳的な非難を押し付けたり、公共の場で恥をかかせたり、自分に同意しない人は明らかに間違っていると宣言したり、イデオロギーを表明する時に感情を誇張して表現したりすることがある」とグラブス氏らは指摘しています。
by Thomas Ricker
グラブス氏の率いる研究チームは、「道徳のスタンドプレイの動機付け」のサブスケールとして、いくつかのアンケートを作成しました。このアンケートは、「自分の道徳的・政治的信念は他人から感心されるものであるべき(名声欲)」「自分と反対の立場にある人を不快にさせる目的で、自分の道徳的・政治的信念を共有する(支配欲)」など10項目の質問に、肯定あるいは否定を7段階で答えるという内容になっているとのこと。
作成したアンケートをもとに、研究チームは学生や1000人以上のアメリカ人を対象に3回の調査を行いました。アンケートのほかに被験者の性格診断を行い、政治的所属についてや政治的・道徳的信念の対立を経験したことがあるかなどについても質問を行いました。その結果、名声欲の高低は自己愛的外向性との関連が見られたのに対して、支配欲の高低は、個人の利益のために他人を利用しようという自己愛性敵意や協調性、開放性と関連していたことがわかりました。一方で、政治イデオロギーの内容は、道徳のスタンドプレイの傾向には関係なかったとのこと。
研究チームは、支配欲に関連した動機付けが、政治的問題や道徳的問題について異なる見解を持つ人々との対立を生むと予測する一方で、名声を求める人々は同じ見解を持つ人とより親密になりやすいことが示されたと論じています。つまり、支配欲の強い人は対立意見を持つ相手を論破しようとし、名声欲の強い人は自分と同じ考えの人ばかりと仲良くしやすいというわけです。
by Twentyfour Students
また、アメリカ人1776人を対象にした調査を行ったところ、名声欲や支配欲を示す行動は、「相手をあげつらうために、同意できなかった部分を共有する」「自分をよく見せるために、同意した部分を共有する」など、ソーシャルメディアにおける個人の行動にも表れていたとのこと。研究チームは「調査結果をまとめると、これらの知見によって道徳のスタンドプレイを説明することが可能であり、道徳のスタンドプレイは、社会的地位を求めるための行動として概念化されます」と論じています。
ただし、研究チームは「議論の対立やソーシャルメディアの行動については被験者の自己報告に依存しているため、今回の研究には限界があります」と述べ、今後の課題として、ソーシャルメディアだけではなく現実でも道徳のスタンドプレイが見られることを解明することを挙げています。「哲学的な推論が正しいとすれば、道徳のスタンドプレイという心理学的現象は、対立するグループとは関係を断絶し、同じグループのメンバーとは親密になるというコミュニケーションの二極化に関連している可能性がある」と研究チームは論じました。
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