フェイクニュースが持つ「人々の注目を集め、偽の記憶を形成する」仕組みとは?
by Elijah O'Donnell
近年は画像・映像のテクノロジーが発達し、簡単に「本物と見間違うようなうそのニュース」が作れてしまうことから、フェイクニュースが民主主義を破壊しかねないと危険視されています。とはいっても、「フェイクニュースに自分の意志が左右されるはずがない」と考えている人も多いはずです。そこで、カナダのラヴァル大学で神経科学を研究するRachel Anne Barr氏が、いかにフェイクニュースが脳に大きな影響を及ぼすかを解説しています。
Fake news grabs our attention, produces false memories and appeals to our emotions
https://theconversation.com/fake-news-grabs-our-attention-produces-false-memories-and-appeals-to-our-emotions-124842
感覚神経科学の分野では、「予想しなかった情報は脳の処理の高次に達することができる」と示されています。これはつまり、感覚皮質は日常的な体験に適応するため大きな反応を示さず、予想できないことや驚きに大きく反応しがちだということ。同じ情報にさらされるにつれ、脳は「この刺激には報酬がない」ということを学ぶので、脳神経の反応は徐々に減っていきます。
「新規性」はそれ自体がモチベーションとなり得ます。新しいことを認識すると私たちの脳は「報酬の可能性」を予測するため、新規情報に触れると神経伝達物質であるドーパミンが増加するとのこと。2008年の研究では、海馬がニューロン間でシナプスの接続を作り出す能力は、「新しいこと」の影響で増加するとも示されました。
by Amanda Dalbjörn
また黒質/腹側被蓋野という部分は、学習と記憶において重要な役割を果たす海馬や扁桃体と深く関係しています。これらの部位における記憶の強化は、主に睡眠時に起こります。睡眠中の脳は限られた時間の中で情報を統合しようとするために、情報の優先順位付けを行いますが、この時、感情に強く訴えかけてくる刺激的な情報は私たちの記憶に余韻を残し長期記憶として刻まれやすいとのこと。このため、新規性があり、キャッチーなフェイクニュースは、記憶形成の中で強化されていきます。
上記の通り、フェイクニュースは私たちの目を引き、学習や記憶の神経回路をジャックする力を持ちます。しかし、フェイクニュースの持つ特長のうち、最も人々に与える力が大きいのは、「感情に訴える能力」です。2017年の研究ではコンテンツのテキストに「道徳的な感情」が含まれていると拡散しやすいことが示されています。
by AbsolutVision
意志決定の多くは、自覚しないほど深い部分の「感情」によって行われています。フェイクニュースの見出しを目にするだけで、後に情報に触れた時の印象が変わるため、感情的な言葉が使われた記事であふれるソーシャルメディアのフィードは、私たちの政治的な意志決定を変える力を持っているといえるとのことです。
フェイクニュースの新規性や感情的な言葉選びが人々に作用する方法は、人間の脳の分析能力を超えています。何らかの手段で現実かフェイクかを見極める手段がなければ、人は脳の機能をもって政治的信念やアイデンティティを左右される可能性があると、Barr氏はその危険性を指摘しています。
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