ジャッキー・チェンこそが世界三大喜劇王の正当な後継者である理由
チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドの3人は、サイレント映画全盛期に活躍し、世界三大喜劇王と数えられる名優です。映画に音響が加えられるようになった現代においても、3人のフォーマットに従って映画を作っている人物がいます。大のジャッキー・チェンファンであるBradley J. Dixon氏によれば、「正当な喜劇王後継者」であり「現代の喜劇王」と呼べる人物はジャッキー・チェンなのだそうです。
Jackie Chan: Master of Silent Comedy | Video Essay - YouTube
アクション映画の中にユーモアさやコミカルさが加えられるジャッキー・チェンの映画。Dixon氏はジャッキー映画を愛してやまないとのこと。
カンフー映画の第一人者であるブルース・リーと映画の中の自分を対局に位置づけていると語るジャッキー。自分がごく普通の人間であることを強調しているとのこと。
ブルース・リーがクールな攻撃を見せるのに対して、ジャッキーのカンフーは「笑い」がつきものです。
Dixon氏はチャップリン・キートン・ロイドの3人の喜劇王が作り上げた「コメディ」の要素をジャッキーは取り込んでいると指摘しています。
たとえば、道路に立つチャップリンが……
自動車に手をかけて、敵から逃れるシーン。
ジャッキーは「ポリスストーリー(香港警察)」で、バスに傘を引っかけるアクションで再現しています。
Dixon氏によると、これはサイレント映画の手法だとのこと。
ジャッキー映画をよく見ると、サイレントコメディの手法を随所に取り入れていることがわかります。
サイレントコメディに必要な5つのルール。
その1:「シンプルなストーリーライン」
無声映画時代には、複雑なストーリーを描画することは難しいものでした。
そのため、適宜、インタータイトル(説明文)が挿入されていました。
これに対してサイレントコメディではストーリーはまったく重要ではありません。ジョークに沿ったシンプルな枠組みが要求されるだけ。サイレントコメディではストーリーは、「せりふ」や「性格」を通してではなく「シチュエーション(状況)」を通して語られます。
他方でジャッキーは、「キャラクター」と「シチュエーション」の2本立てで初期の映画活動を始めています。これは、「スネーキーモンキー(蛇拳)」の中で、老人(実はカンフーの達人)が多人数から攻撃を受けるシーン。
これを見過ごせない青年。ジャッキーが演じるのは常に正義感を持つ「普通の人」
この青年は、たいていの場合、弱く、未熟な者。
ただし、カンフーを学んでいく上で大きく成長していく人です。このような「弱い者が成長していく」という基本的なストーリーで、わかりやすいようにジャッキー映画は構成されています。
このようなアプローチ法を、ジャッキーはチャップリン・キートン・ロイドの3人から学んだのかもしれないとDixon氏は指摘しています。
最後尾に並んだものの……
前の人はマネキンだった、というキートンの「The Goat」内のシーン。サイレントコメディはシンプルゆえに、言葉の壁を越えて世界中の誰にでも理解できるという特長があります。
その2:「目に見えるユーモア」
「コメディ(笑い)は予想外の驚きから起こる」という基本的な原則があります。キートンは自叙伝で、「『予想外』こそが私たちの主力商品だ」と述べています。
サイレントコメディの多くが、この原則にのっとっています。発車しようとする自動車にこっそりと乗り込むという「The Goat」のワンシーン。演者は観客にある「予想」を植え付ける行為をとります。
走り去る自動車と残されたタイヤの中の人。このような予想を裏切ることで、笑いが生まれます。
「Sherlock Jr.」の、主人公がビリヤードをするシーン。
主人公を驚かせるために、爆発する13番ボールをこっそり仕込みます。
主人公は、「13番ボール」にまったく触れない神業ショットを次々と決め続けます。
目の前の13番ボールもトリックショットで回避成功。
爆発はまだかと待ち望む傍観者たち。
そして最後に残った13番ボール。
見事にホールにたたき込みました。しかし、なんと13番ボールは爆発せず。
さっそうと去る主人公。実は13番ボールは「とっくにすり替え済み」という「サプライズ」でした。
「One Week」のワンシーン。自動車を崩れた家にぴたりとつけて……
シートに釘を打ち込んで、家と固定。
自動車を発進させるとシートだけが残るという「サプライズ」
「Hard Luck」の無一文の男性。世をはかなんでいる模様。
暗闇から走って来る自動車。
自殺を図って道路に飛び出す男性。
しかし、男性の脇を走り去ったのは2台のバイク、という「サプライズ」。サイレントコメディは、「ネタの振り」「予想」「サプライズ」という3つの要素で笑いを生み出します。
他方でジャッキー映画の「ラッシュアワー」。倒れ込む巨大な壺を間一髪で支えたジャッキー。
壺を守りながら敵と戦います。
とうとう壺を守り抜いたジャッキー。
戦いの場から立ち去ろうとした瞬間。あんなに苦労して守り抜いた壺は銃撃で粉々に。
見る者の予想を裏切るサプライズです。
「プロジェクトA」のジャッキー。
後ろから迫る追っ手。
ドアをとんとん。
するとドアの上部だけが開き、追っ手はドアに遮られて転倒しました。ジャッキー映画はサプライズによる笑いであふれています。
その3:「あえてやるスタント」
サイレントコメディアンは、体を張ったスタントマンと同義と言える存在です。
アクションスタントの最高峰と呼べるのが、プロジェクトAの時計台でのアクションシーン。
ジャッキー映画を代表するこの有名なシーンは、チャップリン・キートン・ロイドの3人の喜劇王の代表的なスタントすべてへのトリビュートだとのこと。
時計台内の歯車につるし上げられるシーンは……
チャップリンの「Modern Times」
時計の針にぶら下がるシーンは……
ロイドの「Safety Last!」
そして、時計台からの落下という最高のアクションは……
キートンの「Three Ages」
世界三大喜劇王の代表的なアクションを、たった3分の間に一気に再現するという神がかり的なアクションシーンだとDixon氏は述べています。
その4:「日常的な光景の利用」
サプライズを作るための他の手法に、「ありふれた物をあり得ない方法で使う」というものがあります。
「スネーキーモンキー(蛇拳)」の茶碗を使った修行シーン。ありふれた茶碗がトレーニングツールになっています。
「レッド・ブロンクス」のショッピングカートを武器にするシーン。ジャッキーは身の回りの物を映画のツールに変える名手です。
このようなありふれた物をあり得ない方法で使うというのは、サイレントコメディでも常套手段だったもの。説明不要で誰もが状況を理解できるように、身の回りのありふれた物を使うのは効果的だというわけです。
その5:「本当にやる」
サイレント映画が撮影されたころ、CGはありませんでした。
そのため、ほとんどのアクションシーンは実際に実演された「本物」
機関車を橋から落としたり……
4つの部屋全体を走り回るシーンのために、専用のセットを作ったりしています。
これらの実演には全体をカメラに収めるための構図が重要なキーとなります。
バスターは「笑いを偽るな」という名言を残しています。
同じくジャッキーも「スタントマンでは笑いはとれない」という名言を残しています。
ジャッキーの映画は距離を置いたところにカメラを構える「引き」の構図が多め。
これはアクション全体を見せることで、観客にスタントなしのジャッキー本人によるアクションであることを見せるという工夫です。
そして起こっていることはすべて現実であることを見せるための工夫です。
とてつもないアクションは、ジャッキーが鍛錬を重ねた末のたまものであると同時に、ジャッキーも生身の人間であることを思い起こさせます。
その人間ジャッキーを観衆は愛します。それは、チャップリン・キートン・ロイドが、その人間性を愛されたことにも通じます。
それゆえ、ジャッキーはキートン、ロイド、チャップリンに続く喜劇王である、というわけです。
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