1日30分の簡単な習慣で高齢者の認知機能低下を遅らせられるかもしれない

加齢に伴って記憶力・注意力・言語能力などが低下するのはよくあることですが、典型的な加齢の範囲を超えて軽度認知障害に移行すると、将来的にアルツハイマー病やその他認知症のリスクが高まります。そんな高齢者の記憶力低下を防ぐために、音読・手書き・計算を組み合わせた「1日30分の簡単な習慣」が役立つ可能性があるとの研究結果が報告されました。
Full article: Can brain exercises mitigate cognitive decline? A quasi-experimental evaluation of the StrongerMemory program
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/03601277.2025.2528677
A simple 30-minute daily routine may help slow cognitive decline
https://www.psypost.org/a-simple-30-minute-daily-routine-may-help-slow-cognitive-decline/
脳を認知症から守る要因のひとつとして、「cognitive reserve(認知予備能、認知予備力)」という考え方が提唱されています。認知予備能とは、加齢や病気による認知機能の低下を抑える能力のことであり、刺激的な課題に取り組んで脳を精神的に活発に保つことで、認知予備能を鍛えられるとされています。
認知機能を改善するとうたっている多くの「脳トレゲーム」は、単語リストの暗記や図形のマッチングといった特定のタスクに焦点を当てていますが、近年の研究では複数の異なるタスクを組み合わせた方がより大きな効果を得られることが示唆されています。心理学系メディアのPsyPostは、「マルチモーダルなルーティンは、脳内の複数のネットワークを同時に活性化させることで、日常生活における自然な要求を模倣するのです」と述べました。
今回、アメリカのジョージ・メイソン大学の社会福祉学者であるエミリー・イハラ氏が率いる研究チームは、「StrongerMemoryプログラム」というマルチモーダルな介入プログラムの効果を調べました。StrongerMemoryプログラムは音読・手書き・計算を組み合わせたプログラムで、記憶の想起や注意力の維持、問題解決に関わる前頭前野を刺激するように設計されています。
研究チームは、高齢者が自宅で自立した生活を送れるよう支援する地域ネットワークの在宅介護村や、住居と介護をひとつの場所で提供する継続介護型高齢者コミュニティなどから、59歳以上の被験者102人を募集しました。被験者はいずれも記憶力に不安を抱えていましたが、正式な認知症の診断は受けていませんでした。

被験者らは1日のうち30分を、StrongerMemoryプログラムが提供する3つの活動に費やすように指示されました。その活動は「10分間文章を音読する」「10分間手書きで文章を書く」「10分間簡単な算数の問題を解く」というもので、被験者は音読する文章や書きたい文章のテーマを自分で選択可能でした。
音読は視覚と聴覚という2種類の感覚入力を必要とするため、単に黙読するよりも高い集中力が必要となります。また、文章の手書きは細かい運動スキルの練習になり、記憶力の維持にも役立ちます。算数の問題は集中力と論理的思考力を必要とするものの、被験者に不安を引き起こさない程度には簡単に設計されていたそうです。
被験者は各自の都合に合わせてこのプログラムに取り組み、毎週の進捗確認ミーティングに参加してサポートを受けました。研究チームは脳の健康状態を測定するため、12週間のプログラム実施前と実施後に被験者の記憶想起・言語流暢性・空間認識能力を測定するミニモントリオール認知評価を行いました。さらに被験者は、1年前と比べて自身の記憶力がどのように変化したかを尋ねるアンケートにも回答しました。
12週間のプログラム終了後、被験者は客観的認知テストでより高いスコアを記録し、平均スコアは15点満点中12.73点から13.26点に上昇しました。この改善はほとんどが記憶想起能力によってもたらされており、被験者は主観的なアンケートでも1年前より記憶力が良くなった気がすると回答したとのことです。
研究チームが被験者の生活環境を「1人暮らし」「地域社会での共同生活」「介護住宅に入居」の3つのカテゴリーに分けて調べたところ、1人暮らしまたは地域社会での共同生活を営む人は、プログラム実施後により高いスコアを記録しました。この結果については、自立した生活環境ではより多くの日常的な意思決定が求められるため、脳トレの効果が高まった可能性があると考えられています。

今回の研究ではStrongerMemoryプログラムを実践しない対照群が設けられていなかったため、記憶力の改善が被験者のプラセボ効果によるものだった可能性を排除することはできません。また、プログラムの内容自体ではなく、毎週の進捗確認ミーティングや研究者への反応によって結果が左右された可能性もあります。加えて、認知機能テストのスコア改善幅も比較的小さいものであり、これが日常生活に目立った改善をもたらすとは限らないとのこと。
これらの制約はあるものの、音読・手書き・計算を組み合わせた1日30分のルーティンは、認知機能を改善したい高齢者にとって簡単に取り組める改善策といえます。研究チームは今後、エクササイズの難易度を変えることで、脳の適応力をさらに高めることができるかどうかを検証したいと考えています。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
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