サイエンス

600年前の中国で「トリカブトの毒を麻酔として使った外科手術」が行われていた証拠が見つかる


中国東部の江蘇省江陰市にある明代の墓で発見された外科手術用具から、世界初となる局所麻酔薬の化学的証拠が発見されました。これは明代の中国にいた医師が、麻酔を使えるほどの高度な医療技術を持っていたことを示すものです。

Ancient anesthetic reveals Ming China's sophisticated medicine
https://phys.org/news/2026-05-ancient-anesthetic-reveals-ming-china.html

Chinese medical practitioners used extremely toxic plant as a topical anesthetic 600 years ago, study finds | Live Science
https://www.livescience.com/archaeology/ancient-china/toxic-plant-on-ming-dynasty-era-surgical-tools-may-be-worlds-oldest-chemical-evidence-of-topical-anesthetic

Ming Dynasty Surgeons Used Poison as an Anesthetic, Ancient Tools Reveal : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/ming-dynasty-surgeons-used-poison-as-an-anesthetic-ancient-tools-reveal

1974年、江陰市にある夏泉という明代の医師の墓から、副葬品として収められたさまざまな外科手術用具が発見されました。夏泉は1348~1411年頃に生きていたとされる高名な医師であり、墓から見つかった手術用具には当時の手術で付着したと思われる残留物がありましたが、発見当時の技術では残留物の化学組成を分析することができませんでした。


発掘から約50年が経過して、考古学者らは医師の墓から出土した鉄製のハサミとピンセットに付着した残留物を、誘導ラマン散乱顕微鏡イメージングという手法で分析しました。誘導ラマン散乱顕微鏡イメージングでは、レーザー光を試料に照射して試料中の光子を散乱させ、その散乱パターンを解析することで試料中に含まれる分子の構造的特徴を明らかにします。

研究チームのメンバーであり、中国・西北大学の考古学教授である趙叢蒼氏は、「誘導ラマン散乱顕微鏡イメージングは物質の組成を正確に特定し、成分分布をマッピングするために使用できる高度な光学技術であり、残留物研究における最小限のサンプル入手可能性と考古学的資料の保存の必要性という主要な課題を効果的に克服します」と述べています。

以下が今回の研究で分析されたハサミとピンセット。これらの手術用具には洗浄しにくい隙間があり、手術に関連する残留物が残存する可能性が高いとのこと。


実際にハサミやピンセットの表面には、さび色の残留物が付着しています。


分析の結果、これらの手術用具から採取された粒子が、トリカブトから抽出される有毒成分であるアコニチンの可能性が高いことが判明しました。アコニチンはアルカロイドの一種であり、嘔吐(おうと)や呼吸困難、心臓発作などを引き起こすことが知られていますが、アジアの伝統医学では古くから鎮痛剤としても用いられていました。

手術用具から見つかったアコニチンは、おそらく中国産のハナトリカブト(Aconitum carmichaelii)から抽出されたものだと考えられています。明代の医学文献には、アコニチンの毒性を軽減するために少年の尿を用いて処理したり、酢で煮沸したり、黒豆を煎じた液に浸したりする方法が記されているとのこと。これらの処理を行ったアコニチンを粉末状にしたものが、外科手術の際に患部をまひさせるために皮膚に塗られ、それが手術用具に付着したと考えられます。

by H. Zell

趙氏は、「明代の医学書に記された麻酔処方の記録と合わせて考えると、この研究はトリカブトが局所麻酔薬として、外科手術中に安全かつ正確に用いられていたことを裏付けています。明代の医師は鉄製の外科器具を使用し、局所塗布・複合処方・厳格な管理手順によってトリカブトの毒性を制御しており、薬効と患者の安全性を両立させる実践的な能力を示していました」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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