ついに関節リウマチの犯人である「新種の細菌」が見つかる
関節リウマチは、世界中の何百万人もの人々を苦しめているとされている炎症性の自己免疫疾患です。本来は肉体を守ってくれるはずの免疫が、関節組織を異物として攻撃してしまうこの病気の最終的な原因は不明ですが、その発症や進行には、人間の腸内に住む細菌が関与している可能性があることが突き止められました。
Clonal IgA and IgG autoantibodies from individuals at risk for rheumatoid arthritis identify an arthritogenic strain of Subdoligranulum - PubMed
https://doi.org/10.1126/scitranslmed.abn5166
Newly Discovered Species of Gut Bacteria May Cause Some Cases of Rheumatoid Arthritis | NIH: National Institute of Allergy and Infectious Diseases
https://www.niaid.nih.gov/news-events/newly-discovered-gut-bacterium-may-cause-some-rheumatoid-arthritis
A Bacterial Culprit for Rheumatoid Arthritis | The Scientist Magazine®
https://www.the-scientist.com/news-opinion/a-bacterial-culprit-for-rheumatoid-arthritis-71088
関節リウマチの研究者の一部は、「腸内細菌が発症に影響を及ぼしているのではないか」と考えていましたが、これまでのところ細菌の特定には至っていませんでした。今回、 2022年10月に科学誌・Science Translational Medicineで発表された論文の中で、研究チームは関節リウマチの発症を促進する可能性がある菌の種類「Subdoligranulum」を特定することに成功したと発表しました。
この研究を始めたアメリカのコロラド大学、スタンフォード大学、ベナロヤ研究所の共同研究チームはまず、関節リウマチのリスクがある人や初期の関節リウマチ患者から提供された血液を分析し、発症に関連する自己抗体を洗い出しました。
そして、これらの自己抗体の中から人の腸内細菌を標的をするものがあるかどうかを調べました。調査には、関節リウマチ患者と健康な人の便から採取された細菌に抗体を加え、反応を比較する実験が用いられました。その結果、多くの細菌が関節リウマチに関連する抗体に反応しましたが、その多くはラクノスピラ科とルミノコッカス科という、近縁種の菌でした。
こうして見つかった細菌をより詳細に調べるため、研究チームは2つの科の細菌を多く保有する人のサンプルから採取された菌を培養しました。その結果、関節リウマチの進行に関与している可能性のある菌として、Subdoligranulum属の細菌2種が絞り込まれました。この2つのうち、「分離株7」と呼ばれるものは、もう一方の「分離株1」に比べて、関節リウマチ患者の血液中の免疫細胞であるT細胞をより強力に活性化させていたとのこと。
そこで、この「分離株7」が本当に関節リウマチの犯人かを確かめるため、研究チームがこの菌をマウスに食べさせたところ、たったそれだけでマウスが関節リウマチにかかってしまったとのこと。
この結果は研究チームにとって予想外で、論文の共同著者であるコロラド大学のリウマチ専門医のクリスティン・クーン氏は「私たちは当初、補助剤であるアジュバントか何かで免疫系を活性化させなければならないと思っていました。しかし私が出先にいたときに、マウスの管理をしていた研究チームのミーガン・クリスウェル氏から突然電話が入って『クリスティン、信じられないだろうけど、マウスが前足を腫らしてます』と言われたんです」と話しました。
マウスの腫れは、見た目以上に人間の関節リウマチとよく似ていました。関節リウマチと同様に、関節の組織に抗体が入り込んでいたのを確認したクーン氏らが、マウスの血清中の抗体をプロファイリングしたところ、その抗体の多くが関節リウマチで標的となっているのと同じタンパク質を標的にしていたとのこと。このことから、研究チームは関節リウマチの発症や進行に関与する細菌を特定し、「Subdoligranulum didolesgii」と命名しました。
「didolesgii」とは、ネイティブ・アメリカンのチェロキー族の人々が話す言葉で関節炎やリウマチを指す言葉とのことです。
今回の研究には直接携わっていませんが、腸内細菌と自己免疫疾患についての研究で有名なニューヨーク大学グロスマン医学部のRabi Upadhyay氏は、今回の研究結果は「Subdoligranulum didolesgii」だけが関節リウマチの犯人であることを証明したものではないと指摘します。
Upadhyay氏は科学雑誌・The Scientistの取材に対し、「この研究は、他の生物種の関与を除外するものではないので、今回見つかった新種がどのような役割を果たすのかはまだ分かりません。確かに主犯格かもしれないので、最初に発見されたのもそれが理由だと思いますが、一歩引いて見たらもっと多くのものが見つかる可能性もあります」と話しました。
事実、研究チームは「Subdoligranulum didolesgii」を関節リウマチのリスク高い人と早期の関節リウマチ患者の16.7%でしか見つけられておらず、これは他にも関節リウマチに関与している要因があることを示唆しています。
それでも、Upadhyay氏はこの研究に大きな期待を寄せています。「この研究が特にエキサイティングだと思う理由は、関節リウマチの真の原因に迫る可能性が高いものだからです。これが解明できれば、原因となる腸内細菌のコロニー形成を防ぐ治療薬を設計できます。そうなれば、リウマチ専門医が使える治療法もがらっと変わるでしょう」と話しました。
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in サイエンス, Posted by log1l_ks
You can read the machine translated English article Finally, a ``new type of bacterium'&….