新型コロナが治っても後遺症に悩まされる人の「4つの傾向」とは?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した人が、数週間から数カ月間以上にわたってさまざまな後遺症に悩まされる「ロングCOVID」になる可能性が高いかどうかを特定する要因を特定したとの論文が、学術雑誌のCellに掲載されました。
Multiple Early Factors Anticipate Post-Acute COVID-19 Sequelae: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(22)00072-1
Predicting Long COVID at initial point of COV | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/940806
New Research Hints at 4 Factors That May Increase Chances of Long Covid - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/01/25/health/long-covid-risk-factors.html?referringSource=articleShare
These 4 risk factors may increase your chance of long COVID, study hints | Live Science
https://www.livescience.com/long-covid-four-potential-risk-factors
COVID-19では、回復しても頭にもやがかかったような感覚や認知症に似た症状が残る「Brain Fog」や倦怠(けんたい)感、味覚や嗅覚の喪失、息切れなどさまざまな後遺症が続く「Post-acute sequelae of COVID-19(PASC:COVID-19の急性後遺症)」、通称「ロングCOVID」が報告されています。
COVID-19の症状が数週間以上も続く「Long covid」とは? - GIGAZINE
さまざまな症状を呈するロングCOVIDの要因を探るため、アメリカ・システム生物学研究所のYapeng Su氏らの研究チームは、COVID-19の患者209人を診断から約2~3カ月間モニターしました。そして診断時、急性疾患の発症時、発症から2~3カ月後の回復期の3回に分けて、血液検査と鼻腔スワブ検体によりサンプルを採取した後、ロングCOVIDの症状の有無をアンケートで調べました。
その結果、対象者のうち3つ以上のロングCOVIDの症状を訴えた人は37%、1~2つの症状を訴えた人は24%、症状がなかった人は39%でした。COVID-19から回復した人が訴えた後遺症は呼吸器系の症状が最も多く、神経系の症状や味覚などの喪失、消化器系の症状がこれに続きました。
さらに、ロングCOVIDの症状を呈した人が持つさまざまな要因を分析したところ、「感染初期の血液中に大量の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の遺伝物質があったこと」「COVID-19とは別の感染症のウイルスであるエプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)の存在」「リウマチなどの自己免疫疾患に関係する自己抗体の存在」「2型糖尿病の既往歴」の4つが、ロングCOVIDの危険因子だということが分かりました。
◆自己抗体
4つの因子のうち、特にロングCOVIDとの関係が深いとされているのが自分の肉体を標的とする「自己抗体」で、確認されたロングCOVIDのうち3分の2が自己抗体に関連していました。例えば、診断時に「抗インターフェロン・α2」と呼ばれる自己抗体を有していた人は、呼吸器系のロングCOVIDの症状が現れる確率が高かったとのこと。研究チームは、自己抗体が特定の免疫細胞の誤作動を引き起こして炎症を発生させ、これがロングCOVIDの原因になるのではないかと推測しています。
◆EBウイルス
一見するとCOVID-19とは無関係なEBウイルスの存在も、ロングCOVIDの予測因子でした。EBウイルスは、90~95%の人が成人するまでに感染すると言われているウイルスで、通常は感染しても風邪のような症状を呈した後に治癒します。しかし、感染後も生涯にわたって休眠状態のまま体内に残るため、何らかの原因で再活性してがんや難病を引き起こす場合もあります。日本では、2015年に亡くなった声優の松来未祐さんが慢性活動性EBウイルス感染症を患っていたことで広く知られるようになりました。
また、EBウイルスは2021年の研究でも「COVID-19の後遺症に苦しむ人の体内でEBウイルスが再活性化している」と報告されており、ロングCOVIDとの関連性が疑われるウイルスとして近年改めて注目を集めています。
COVID-19の後遺症に苦しむ人の体内で「新型コロナウイルスとは別のウイルス」が再活性化しているとの研究結果 - GIGAZINE
記事作成時点では、EBウイルスの再活性化とロングCOVIDの直接的な関係は不明ですが、EBウイルスが自己免疫疾患の引き金になることと何らかの関連性があるのではないかとの見方もなされています。EBウイルスについて、論文の筆頭著者であるYapeng Su氏は、「免疫システムがCOVID-19と戦い始めた隙を突いてEBウイルスが再活性化し、人体に永続的なダメージを与えるチャンスを得たのかもしれません」と話しました。
◆糖尿病とSARS-CoV-2のRNA
ロングCOVIDの患者の3分の1が2型糖尿病の患者で、この危険因子を持つ人は特に疲労やせきなどの症状を経験する傾向がありました。糖尿病は、心臓病や高血圧などとともにCOVID-19の重症リスクを高める要因となっているほか、逆にCOVID-19の患者が糖尿病を発症する危険性もあることが分かっています。
さらに、ロングCOVIDの患者の3分の1は血液中にSARS-CoV-2の遺伝物質であるRNAが高レベルで存在しており、そうした人は特に記憶に関する症状を呈しやすいことも分かっています。このことから、できるだけ迅速に患者の体内のウイルス量を減らすことで、ロングCOVIDを予防するか、または症状を抑制できる可能性があることが示されました。しかし、ロングCOVIDはCOVID-19の重症度にかかわらず発生するため、積極的な抗ウイルス治療があらゆる患者にも役立つかどうかは分かっていません。
COVID-19の後遺症の要因を詳細に突き止めた今回の研究結果について、論文の共著者でシステム生物学研究所の所長でもあるジム・ヒース氏は「PASC因子の特定は、ロングCOVIDの研究の進展や治療法の開発につながる可能性があるだけでなく、どのCOVID-19患者が慢性疾患の発症リスクが高いかを特定する上でも大きな前進です。この知見はまた、例えばライム症候群などロングCOVID以外の慢性疾患について理解を深めるのにも役立つでしょう」とコメントしました。
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