COVID-19の後遺症に苦しむ人の体内で「新型コロナウイルスとは別のウイルス」が再活性化しているとの研究結果
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した人の中には、「Long COVID(ロングCOVID)」と呼ばれる数カ月以上も持続する後遺症に苦しむ人がいることがわかっています。近年の研究では、ロングCOVIDの患者の体内では新型コロナウイルスとは別に、エプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)というウイルスが再活性化している割合が高いことが判明しており、ロングCOVIDの原因解明や治療に役立つ可能性が示唆されています。
Investigation of Long COVID Prevalence and Its Relationship to Epstein-Barr Virus Reactivation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8233978/
Long COVID and severe COVID-19 infections ass | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/612727
Long COVID Might Be The Manifestation of a Different Virus Reawakened in The Body
https://www.sciencealert.com/mounting-evidence-suggests-many-covid-19-long-haulers-are-co-infected-with-epstein-barr
COVID-19の後遺症であるロングCOVIDの症状は、慢性的な疲労や呼吸困難、関節痛、頭痛、息切れ、胃腸の不調など多岐にわたり、頭に霧がかかったような感覚がして認知能力や集中力が低下する「brain fog(ブレイン・フォグ)」に悩む人もいます。2021年1月の研究では、COVID-19で入院した患者の76%が「感染から6カ月後も症状が残っている」との研究結果が報告されています。
新型コロナ入院者の76%が「感染から6カ月後も症状が残っている」と報告している - GIGAZINE
イギリスでCOVID-19から回復した約7万6000人の元患者を対象に行われた調査では、対象者の37.7%が息切れや疲労感などの症状が12週間以上続いたと回答しています。World Organizationのジェフリー・ゴールド氏らが発表した研究は、「新型コロナウイルスとは別のウイルスが再活性化したことがロングCOVIDに関係している」という可能性を示唆しています。
この研究で研究チームが募集した185人のCOVID-19感染者のうち、56人(30.3%)が陽性判定から30日が経過した後もロングCOVIDの症状に悩まされていたとのこと。COVID-19が無症候性だった人は185人中13人でしたが、この13人のうち4人(30.8%)にも陽性判定から数週間後にロングCOVIDの症状が認められました。
次に、研究チームはロングCOVIDを経験した被験者とロングCOVIDではない被験者を含む合計68人を対象に、患者の体内で「EBウイルス」が再活性化しているかどうかを分析しました。EBウイルスはヘルペスウイルス科の一種であり、成人するまでに90%以上の人が唾液などを介して感染する非常に一般的なウイルスです。通常は非活性の状態で体内に潜伏しているものの、心理的・生理的ストレスが強まった時などに再活性化してインフルエンザのような症状を呈するほか、広範な自己免疫疾患の引き金となったり、慢性活動性EBウイルス感染症による重篤な症状を引き起こしたりすることもあります。
新型コロナウイルス陽性と診断されてから少なくとも90日以上が経過した被験者を調査したところ、ロングCOVIDを経験したグループでは73.3%でEBウイルスが再活性化していることが判明。一方、ロングCOVIDを経験していないグループでは、わずか10%しか再活性化していませんでした。また、より陽性診断からの日数が短いグループでも、同様の比率でロングCOVIDを経験した人の方がEBウイルスが再活性化している割合が高いことが確認されたとのこと。
論文の共著者でジョージア大学の分子微生物学者であるデヴィッド・ハーレー教授は、「数カ月にわたってロングCOVIDの症状がある人と、新型コロナウイルスの陽性反応が出てから数週間ロングCOVIDの症状がある人で、同じような割合でEBウイルスの再活性化が見られました。このことから、EBウイルスの再活性化はCOVID-19の感染と同時に、あるいは感染後すぐに起きる可能性が高いと考えられます」と述べました。
EBウイルスを活性化するのは新型コロナウイルスだけではなく、他の病気やストレスもEBウイルスを活性化させることがありますが、新型コロナウイルスによる炎症反応は他の要因よりも高い割合で再活性化を促している可能性が指摘されています。また、発症から2週間以内のCOVID-19患者を対象にEBウイルスの再活性化を調査した以前の研究では、EBウイルスの再活性化とCOVID-19の重症度に関連が見られたとのこと。
ロングCOVIDの症状とされる極度の倦怠感や皮膚の発疹、指や足への血流が減少するレイノー現象はEBウイルスの再活性化によって引き起こされる症状と似ているそうです。さらに、ロングCOVIDの症状は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(MF/CFS)と似ていると指摘されることもあり、実際にMF/CFSとEBウイルスの再活性化に関連があるとの研究結果も報告されています。
今後、EBウイルスの再活性化とロングCOVIDとの関係が確認された場合、医療従事者はEBウイルスの再活性化の兆候からロングCOVIDの対策を立てられる可能性があります。イギリス・ウォーリック大学のウイルス学者であるローレンス・ヤン教授は、「今後の研究でロングCOVIDに対するEBウイルスの再活性化の直接的な役割が裏付けられた場合、これはロングCOVIDの合理的な診断を向上させ、ガンシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬の治療的価値を検討する機会を提供します」と述べました。
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