軽症の新型コロナ患者の10%が回復後も長きにわたり「仕事や生活に支障を来す後遺症」に悩まされていることが判明、メンタル面での長期的影響も
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を長期的にモニタリングした研究により、軽症のCOVID-19患者の10人に1人が、生活の質を脅かす長期的な症状に悩まされていることが分かりました。さらに、別の研究によりCOVID-19患者の3分の1が、回復から半年以内に精神医学的または神経学的な症状についての診断を受けていることも判明しました。
Symptoms and Functional Impairment Assessed 8 Months After Mild COVID-19 Among Health Care Workers | Infectious Diseases | JAMA | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2778528
One in ten have long-term effects 8 months following mild COVID-19 -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/04/210407174321.htm
6-month neurological and psychiatric outcomes in 236 379 survivors of COVID-19: a retrospective cohort study using electronic health records - The Lancet Psychiatry
https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(21)00084-5/fulltext
6 Months After Surviving COVID, 1 in 3 Have Neurological or Psychiatric Problems
https://www.sciencealert.com/study-suggests-1-in-3-covid-19-survivors-suffer-mental-or-neurological-problems
スウェーデンのダンデリード病院とカロリンスカ研究所は、2020年4月にCOVID-19に感染後の免疫について調査する研究プロジェクト「COMMUNITY」を開始しており、その一環として4カ月に1度のスパンでダンデリード病院の医療関係者2149人を対象とした血液サンプルの採取や症状に関するアンケートを実施しています。
2021年1月に実施された第3回目の調査では、8カ月以上前に軽度のCOVID-19を発症した参加者323人と、COVID-19を発症したことがない参加者1072人のそれぞれに対して、COVID-19に関連した症状に関するアンケートが行われました。その結果、軽度のCOVID-19を発症したことがあるグループの26%は、少なくとも1つの「中等度から重度の症状」が2カ月以上続いており、11%は少なくとも1つの「仕事、社会生活、家庭生活に悪影響を及ぼす症状」が8カ月以上も続いていました。
これに対し、COVID-19を発症したことがないグループが「中等度から重度の症状」を報告した割合は9%で、「仕事などに悪影響を及ぼす症状」を報告した割合は2%でした。また、アンケートの回答の中で最も多かった長期的な症状は、嗅覚や味覚の喪失、けん怠感、呼吸器系の症状でした。
ダンデリード病院とカロリンスカ研究所の専門医で、COMMUNITYの主任研究員であるCharlotte Thålin氏は、研究結果について「年齢の中央値が43歳と比較的若くて健康な社会人グループを対象に、軽度のCOVID-19にかかった後の長期的な症状の有無を調べたところ、最も多く見られる症状は嗅覚と味覚の喪失だということが分かりました。また、程度はさまざまでしたが、疲労感や呼吸器系の問題も多くの参加者に見られました」と説明しました。
また、論文の共著者であるSebastian Havervall氏は「本研究の参加者は、軽度のCOVID-19だったにもかかわらず、比較的大きな割合で生活の質に影響を来す長期的な症状を報告しました。この結果を踏まえると、若くて健康な人はもちろん、そうでない人は特にこの感染症に十分な注意を払うべきだと言えます」と述べました。
COVID-19にかかった人が身体的な後遺症に悩まされていることが判明した一方で、別の研究により精神や脳への影響も大きいことが分かっています。オックスフォード大学精神医学科のポール・ハリソン教授らは、全米にある62の医療機関が提供している匿名化された電子医療記録を集約したネットワーク・TriNetX Analytics Networkから、COVID-19から回復した患者23万6379人の診察情報を取得して分析を行いました。
その結果、元COVID-19患者の34%が、回復から6カ月以内に精神医学的または神経学的な疾患があると診断されていたことが分かりました。こうした症状のうち、最も多かったのは不安障害(17%)と気分障害(14%)でした。COVID-19にかかった後に精神医学的疾患の診断を受けた人の13%は、それまで精神医学的疾患の診察を受けたことがない人だったとのことです。
また、神経学的疾患の発生率は脳卒中(2.1%)、認知症(0.7%)、脳出血(0.6%)と比較的低確率でしたが、COVID-19の症状が重かった人ほどこれらの神経学的疾患のリスクが高い傾向があったそうです。
ハリソン教授らが、インフルエンザや他のウイルス性呼吸器感染症で同様の精神医学的・神経学的疾患が発生した確率も調べてCOVID-19と比較したところ、COVID-19はインフルエンザより44%、その他の呼吸器感染症より16%発生率が高いという結果になりました。
この研究結果について、ハリソン教授は「個人単位で見れば、精神医学的ないし神経学的な診断のリスクは小さいといえるかもしれませんが、社会全体で見た場合の影響は相当なものです。しかも、これらの疾患は慢性的なものになるので、世界の医療システムは今後プライマリ・ケアとセカンダリ・ケアの両方で、医療ニーズの増大に対応できるだけのリソースを確保する必要性に迫られるでしょう」と述べました。
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