「スーツケースの中に隠された死体」を再現して死亡時期を推定する研究が進行中
殺人事件などの犯人は、被害者の遺体を「スーツケースや冷蔵庫の中」に隠して遺棄する場合があります。日本でもゴルフ場や駅構内で遺体入りのスーツケースが見つかった事件が報告されているほか、2022年8月にはニュージーランドで「オークションで落札したスーツケースの中に遺体が入っていた」という事件が発生しました。そんな中、遺体を調べることで犯罪事件の手がかりを探す法医学研究者らは、「スーツケースの中に入った遺体」を再現して死亡時期などを推定する実験を行っています。
When remains are found in a suitcase, forensics can learn a lot from the insects trapped within
https://theconversation.com/when-remains-are-found-in-a-suitcase-forensics-can-learn-a-lot-from-the-insects-trapped-within-189315
オーストラリア・マードック大学の法医学講師を務めるPaola Magni氏によると、殺人犠牲者の遺体がスーツケースやバッグ、車輪付きのゴミ箱、冷蔵庫、車のトランクといった場所に収められているケースは珍しくないとのこと。
特にスーツケースは、遺体を隠すのにちょうどいい大きさな上に入手が簡単で、車輪付きのものは遺体を入れたまま移動させやすく、しばらくは遺体から漏れ出す腐敗臭を隠せるといったメリットがあります。遺体の発見を遅らせることができれば、その間に犯罪者はアリバイを作ったり逃亡したりする時間を稼ぐことが可能です。
一般的な遺体では、死後の腐敗プロセスにおいて昆虫がたかります。特にクロバエ・ニクバエ・イエバエ・ノミバエなどは腐敗臭を察知する高度な嗅覚システムを持っており、温暖な環境に放置された遺体なら死後数時間以内に卵を産み付け、そこからふ化した幼虫が遺体を食べ始めるとのこと。
法医学者は遺体に集まった昆虫の種類や数から死亡時刻を推定したり、犯罪者の行動を見抜いたり、遺体を分解した昆虫の外骨格から毒物や薬物の痕跡を探したりすることが可能です。
ところが、スーツケースや冷蔵庫の中といった外部から隔てられた環境は、昆虫の到達を遅らせたり、あるいは完全に妨げたりすることがあります。法医学研究者にとってこれは大きな問題ですが、「スーツケースのような環境が遺体に対する昆虫の関与をどのように変えるのか」という点に着目した法医学的研究は、これまでほとんど注目されてこなかったとのこと。
そこでMagni氏らの研究チームは、西オーストラリア州の実験施設で「スーツケースや車輪付きゴミ箱の中に入った遺体」を再現する大規模な実験を行っています。研究チームは死産した子豚の死体を合計70個ものスーツケースや車輪付きゴミ箱の中に入れ、2022年初冬から夏(北半球の日本では初夏から冬に当たる期間)まで放置するとのことで、最初のデータは2023年2月の世界的な法医学会議で発表される予定となっています。以下がゴミ箱やスーツケースを置いた実験施設の写真です。
研究チームはスーツケースやゴミ箱の内外で温度・湿度・雨量を測定すると共に、子豚の死体を入れていないスーツケースやゴミ箱も対照群として配置し、死体に引き寄せられる昆虫などの分析を行っています。
記事作成時点の西オーストラリア州は寒くて雨が多い冬ですが、スーツケースを置いてから1カ月以内にジッパー周辺にクロバエの卵が産み付けられているのが確認されたとのこと。また、一部のスーツケース内からはクロバエの幼虫、ノミバエ、死体にたかる甲虫なども見つかっており、クロバエや甲虫は幼虫の段階でジッパーの隙間を通って内部に侵入していたとみられています。一方、ノミバエは非常に小さいため、成虫がジッパーを通って死体に直接卵を産むことが可能だとMagni氏は指摘しています。
スーツケースの中で成虫となった大きなハエや甲虫は、スーツケースの外に出ることができません。法医学者らは内部に蓄積された虫の種類などを分析することで、遺体に関する豊富な情報を知ることができるとのこと。
Magni氏は、「スーツケースに入った遺体の調査は、複雑な問題を抱えたパンドラの箱のようなものです。しかし、その中に閉じ込められたハエの助けを借りることで、私たちは犯罪解決に役立つ重大情報の宝庫を手に入れることができるのです」と述べました。
・関連記事
あなたが死んだあと、体に何が起きるのか? - GIGAZINE
現実の殺人現場を恐ろしいほど克明に再現した「死のドールハウス」 - GIGAZINE
殺人現場に残された「結び目」からロープの専門家が犯人を導くまで、結び目から犯人の何がわかるのか? - GIGAZINE
交通事故で「死亡した」と宣告された女性が霊安室の冷蔵庫の中で実は生きていたことが判明 - GIGAZINE
ゴミ屋敷から家主の遺体が発見された1年後に「消臭剤に囲まれた15年前の射殺体」が発見される - GIGAZINE
宇宙空間で死体はどのように変化するのか? - GIGAZINE
人間の死体は死後1年以上にわたって動き続けることが判明 - GIGAZINE
自然が動物や人類の体を数千年の時を超えて「保存」する方法とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ