現実の殺人現場を恐ろしいほど克明に再現した「死のドールハウス」
by Lashaull
バスタブに放り込まれた遺体や、胸をナイフで刺された遺体、天井から首がつるされた遺体など、数々の殺害現場が再現された「ドールハウス」が存在します。本来であれば子どもが人形遊びで使うはずのドールハウスで再現されているのは、実際に起こった殺害事件。「ナットシェル研究」と呼ばれるものの一部であるドールハウスは、犯罪捜査の目を養うために使われています。
The dollhouses of death that changed forensic science - YouTube
やけにリアリティーが高いドールハウス。
一般的にドールハウスは子どもが人形遊びをする時に使うものですが、このドールハウス内をよく見てみると、人形の首が天井からつり下げられているのがわかります。明らかに子ども向けではない仕様。
また別のドールハウスでは……
開いた扉の向こうで男性が倒れています。
これらドールハウスでは「何か悪いことが起こった」ことだけが明らか。自殺したように見える女性や……
床に倒れる女性。
体にナイフが刺さった状態の女性など。しかし、なぜ人形がこのような状態であるかは明らかにされていません。
これらドールハウスは「原因不明の死のナットシェル研究」と呼ばれるものの一部。フランシス・グレスナー・リーという女性によって19個のドールハウスが作られました。
リー氏の作ったドールハウスはアメリカ・ワシントンにあるスミソニアン・アメリカ美術館のレンウィック・ギャラリーに展示されています。
ドールハウスは現実に起こった殺人現場を恐ろしいほど克明に再現したジオラマとなっており、棚に並ぶ缶詰めのラベル1つ1つに至るまで正確。
あるベッドルームでは……
バスタブと椅子の向こうに顔を黒く染めた人形が倒れています。
荒らされた部屋や……
焼け焦げた赤ちゃん用のベッド。
リー氏の作ったジオラマは、長年、分析能力を高める訓練の1つとして法執行機関で使われてきました。
「3部屋住居」と呼ばれるドールハウスは、部屋の間取りをまるごと再現させています。
庭には広いポーチがあり……
牛乳配達員が玄関の扉の前に牛乳の瓶を置いていっています。
アメリカンドリームを実現したといえる夢のような家の中で……
血だらけになった男性がベッドの下で倒れていました。
スミソニアン・アメリカ美術館の学芸員であるNora Atkinson氏はこのジオラマを初めて見たとき、何時間もジオラマを観察し、何枚も写真を撮影したとのこと。というのも、ジオラマではつじつまの合わない状況が繰り広げられていたためです。
赤ちゃんが寝ていた寝室には血だまりがありますが、この血だまりは一点だけに集中したもので、血痕がどこか別の場所に続いている様子はありません。つまり、何者かがこの場所に座った状態で殺害された状態であるかのように見えるわけです。
ベビーベッドがある壁には血痕が。よく見ると、床に薬きょうが落ちているのがわかります。
一方、赤ちゃん部屋の隣にある主寝室には血痕が続いており……
血痕の行きつく先では男性が血まみれで倒れています。男性はベッドカバーの上で倒れており、全身が血まみれ。そしてベッドに大量の血がついていますが、男性とベッドの間の血痕は途切れています。
ベッドに横たわる女性もまた血まみれで倒れています。このような血痕は赤いマニキュアでつけられたとのこと。
台所の泡立て器はブレスレットの飾りで作られており、身近なものを利用してジオラマが作られていったことがよくわかります。
ドールハウスは当時を再現した形でライティングされており、探索を行うには懐中電灯が必須。懐中電灯がなければ見つからない証拠も山のようにあるそうです。
アメリカの科学捜査班(CSI)の訓練に使われたというジオラマは、「訓練の道具」ということで答えが示されていないそうです。
「ナットシェル研究のポイントは事件を解くことではありません」と語るのは歴史・美術史を研究するエリン・ブッシュさん。ナットシェル研究は一見すると重要でないようなささいな、しかし実際には重要な証拠に気づく「目」を作ることにあります。
キッチンのジオラマは1944年の春にロビン・バーンズさんの身に起こった事件を再現しています。
ロビンさんの夫であるフレッドさんが帰宅して窓からキッチンをのぞくと、床に妻が倒れているのを発見しました。
扉や窓は内側から鍵がかけられており……
到着した警察がドアを蹴破って入ると、明らかにロビンさんは夕食の準備の途中でした。パイはオーブンから出されようとしており……
キッチンシンクにはじゃがいも。料理の途中に自殺を試みる人はいないはず、ということで観察者は「自殺の可能性はない」と考えるかもしれません。
しかし細部を見てみると、1940年代に作られたストーブはガスが開いていることがわかります。
キッチンなので、武器となるものは山ほどあります。こん棒や……
アイロン
椅子の上でたたまれた布にはナイフがのっています。そしてさらによく見ると、キッチンの扉の間に新聞紙が詰められていることがわかります。一度は「自殺の可能性がはないかも」と思った状況ですが、ガス栓が開いていること、ドアが密閉されていることから、再び自殺の可能性が浮上します。このような「捜査の目」を作る訓練は、それまでの直感に基づく犯罪捜査の方法と大きくことなるものでした。
リー氏は、農作業を行う機器を製造する会社を営む、裕福な家庭で生まれました。父親は家具の収集家であり家の家具を取り付け、家具についての本を書くほどだったとのこと。またリー氏はシャーロック・ホームズの愛好家だったことも知られています。このような家庭環境がのちのリー氏のキャリアを形作りました。
成長したリー氏はハーバード大学で法医学の道へ進み、アメリカで初めての女性警察署長となりました。美術の才能もあったリー氏はドールハウスを用いて、警察官が直感ではなく証拠で操作を進めるための道筋を作りました。
リー氏は裕福な家庭に産まれた慈善的な女性という側面と、警察署長という側面の2つを持っていました。この2つの側面が合わさることでナットシェル研究は生まれたといえます。
なお、ドールハウスでの犯罪調査は以下のウェブサイトから可能。
Death in Diorama: The Nutshell Studies of Unexplained Death | Explore the Dark Bathroom
http://www.deathindiorama.com/darkbathroom.html
このウェブサイトではドールハウス内部の写真が示されており……
写真にカーソルをのせると、事件を解決する手がかりとなるポイントが表示されます。
例えば「4」をクリックしてみると、「バスタブから女性の足がはみ出ているのは、死後に何者かが女性をバスタブに入れたことを示す。自分でバスタブに入ってから死んだのであれば足はもっと自然な形になっているはず」という説明が出現しました。
また、以下のウェブサイトから360度画像を使ってまるでドールハウスの中に入り込んだような体験もできます。
Inside the "Nutshell Studies of Unexplained Death" - 360 VR | Smithsonian American Art Museum
https://americanart.si.edu/exhibitions/nutshells/inside
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