サイエンス

ハエを操作して「胞子を散布するドローン」にしてしまう菌類が発見される


デンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームが、同国のハエから見つかった新種の真菌についての論文を発表しました。この研究により、生きたハエを体の内側からむさぼり食い、胞子をバラまくための道具にしてしまうという恐るべき生態を持った菌類2種の存在が明らかとなりました。

Strongwellsea tigrinae and Strongwellsea acerosa (Entomophthorales: Entomophthoraceae), two new species infecting dipteran hosts from the genus Coenosia (Muscidae) - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022201120301506

Two tough fungi discovered in Denmark: devour flies from within – University of Copenhagen
https://www.science.ku.dk/english/press/news/2020/two-tough-fungi-discovered-in-denmark-devour-flies-from-within/

Zombies | Two newly-discovered species of fungi turn flies into zombies | Trending & Viral News
https://www.timesnownews.com/the-buzz/article/two-newly-discovered-species-of-fungi-turn-flies-into-zombies/696188

新種の菌類についての研究結果を発表したのは、コペンハーゲン大学植物・環境科学部のヨルゲン・アイレンベルグ教授らの研究チームです。アイレンベルグ氏らは、デンマークに生息するイエバエの仲間である「Coenosiatigrina」と「Coenosiatestacea」の体内から、それぞれ「Strongwellsea tigrinae」と「Strongwellsea acerosa」という近縁種の菌類2種を発見しました。


自然界では、死んだ昆虫を菌類が分解して胞子を放出するという光景がよく見られますが、今回発表された新種の菌類は「宿主が生きているうちから胞子を作り始める」という点に特徴があります。アイレンベルグ氏らによると、新種の菌類に感染したハエはまず、菌類によって体が侵食されて腹部に1つか2つの穴が開くとのこと。

アイレンベルグ氏らが公開した「Strongwellsea tigrinae」に感染したハエの写真には、確かに腹部に穴が開いているのが見えます。

by University of Copenhagen

この菌類に感染したハエは、体内を侵食されながらも数日間は生き続け、その間腹部の穴から胞子が排出され続けます。特に、ハエが交尾のために他のハエと接触すると、それによって胞子が他の個体に感染していくとのこと。感染から数日後にハエはひっくり返って数時間けいれんし、その後死に至ります。そして、死後には崩壊した体内からさらに多くの胞子が放出されます。

自然界に放出された胞子は、オレンジ色や黄色をした分厚い殻に守られて冬を越し、春になると発芽して活動を開始します。こうした生態についてアイレンベルグ氏は、「この菌類のライフスタイルが、彼らが標的にしているハエの生活史にいかにうまく適応しているかを知るのは、魅力的です」とコメントしました。

by University of Copenhagen

アイレンベルグ氏は、ハエが体内から侵食されている最中も数日間にわたって活発に動き回ることから、菌類がなんらかの物質を使って宿主を「薬漬け」にしているのではないかと考えています。例えば、セミに感染する別の真菌の研究では、真菌がアンフェタミンに似た物質でセミを操っていることが判明しています。

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今回発見された真菌にはほかにも、腹部に開いた穴から細菌が感染するのを防ぐ働きもあると推測されています。新種の菌類が細菌感染を防ぐのに使っている抗菌物質が特定できれば、将来的には人間の感染症治療に応用可能な薬剤の開発につながると期待されていることから、アイレンベルグ氏らは今後も真菌の研究を継続していく予定です。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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