アリに寄生して「ゾンビ化」させるカビは宿主の筋肉だけを巧みに操る
by Katja Schulz
タイワンアリタケ(Ophiocordyceps unilateralis)と呼ばれる真菌(カビ)類に寄生されたアリは意味もなくうろつくようになり、最終的に頭部から胞子をばらまき、感染者を増やしながら死んでいくことで知られています。まるでアリをゾンビのようにしてしまうタイワンアリタケの寄生メカニズムについて、ペンシルバニア州立大学の研究チームが新しい論文を発表しました。
Zombie ant death grip due to hypercontracted mandibular muscles | Journal of Experimental Biology
https://jeb.biologists.org/content/222/14/jeb200683
Zombifying fungus bypasses the brain to make ants its puppets, study finds | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/07/study-zombie-ant-death-grip-comes-from-muscle-contractions-not-the-brain/
タイワンアリタケは、熱帯雨林に生息するアリの肉体を乗っ取ることで知られています。タイワンアリタケに寄生されたアリはゆっくりと頭を除いた体全体を菌糸体に絡め取られ、目的もなくうろつくようになり、最終的に小枝を顎でしっかりとかみしめて死んでしまいます。その後、タイワンアリタケの胞子嚢(のう)がアリの頭からニョキッと生えてきて、胞子を空中にばらまき、他のアリに感染します。感染から胞子の放出までのサイクルはおよそ4日から14日だとのこと。
by Penn State
タイワンアリタケに寄生されたアリは、生活行動とは関係なくウロウロと移動するようになります。寄生されたアリの振る舞いや死後に感染を広げるところから、タイワンアリタケに感染されたアリは「ゾンビアント」と呼ばれることも。タイワンアリタケに寄生されたアリがなぜゾンビ化するのかは不明だったものの、一説では「タイワンアリタケが宿主であるアリの脳をコントロールしているのでは?」と考えられていました。
2017年にペンシルベニア州立大学の昆虫学者であるデヴィッド・ヒューズ教授は、タイワンアリタケに感染したアリをスキャンして3Dモデルを構築し、どこまでがアリでどこまでがタイワンアリタケなのかを調査しました。すると、アリの体全体から高い割合でタイワンアリタケの細胞が発見されたものの、脳の中からは発見されなかったとのこと。
また、ヒューズ教授はアリの体に絡みつくタイワンアリタケの細胞が相互接続した3Dネットワークを形成し、それらが互いに信号をやりとりしながら栄養素を送受している事を発見しました。この状態だと脳は確かにアリのままですが、体全体はタイワンアリタケが乗っ取ってしまっているので、アリの意志とは関係なく体が動いてしまいます。つまり、タイワンアリタケに寄生されたアリは体を乗っ取られてしまうものの、脳は寄生されずに本来のままだったというわけです。
by Travis Nicholson
さらに、ヒューズ教授率いる研究チームは2019年7月に発表した論文で、タイワンアリタケに感染したアリの筋繊維を走査型電子顕微鏡で観察した結果を報告しています。
タイワンアリタケはブラジルのような高温多湿な環境で繁殖するため、研究チームは実験室で同様の環境を再現。感染したアリから集めた胞子を、実験室で飼育する健康なアリに感染させたそうです。そして、感染後に枝にかみついて死んだアリの顎の筋肉を観察したところ、タイワンアリタケの菌糸が筋肉組織を貫通していることは明らかだったものの、運動神経やその接合部は全く傷つけていなかったことがわかりました。
以下の画像をみると、感染していないアリの顎の筋繊維(左上)に対して、感染したアリの顎の筋繊維(右上)が寄生によって肥大していることがわかります。また、左下と右下に写っているブドウのような小さな粒の塊が、筋繊維の表面に発見されました。研究チームによると、これは細胞外小胞の1つだとのこと。アリの細胞由来なのか、それともタイワンアリタケの細胞由来なのかはわかりませんが、菌類がアリの顎を操作するための伝達物質を含んでいる可能性があると研究チームは述べています。
論文執筆者のコリーン・マンゴールド氏は「もし発見された小胞がアリの細胞由来であるならば、その役割は一種の免疫反応である可能性もあります。いずれにせよ、この小胞についてもっと研究を進めることで、寄生されたアリが枝をかんで死に至るメカニズム、そして宿主と寄生カビの相互作用が明らかになるかもしれません」と語りました。
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