ロシアに対する経済制裁はインドや中国との関係悪化を招く可能性がある
ロシアのウクライナ侵攻を非難する経済制裁として、AppleやGoogleなどの多くのアメリカ企業がロシアへのサービス供給停止などを行っています。そのような民間企業の制裁措置が、ロシアだけではなくインドや中国との関係においてどのような意味を持つのか、AppleやMicrosoftで務めた経験のあるライターのベン・トンプソン氏が解説しています。
Tech and War – Stratechery by Ben Thompson
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ロシアのウクライナ侵攻を受け、西側諸国はロシアに対してさまざまな制裁を行いました。主要な制裁は金融面であり、ロシアの銀行を国際決済システム「SWIFT」から切り離したり、ロシア中央銀行と欧米諸国の外貨準備高との関係を断ったりといった経済制裁措置によって、ロシアの通貨であるルーブルの暴落やロシア株式市場の閉鎖を招いています。
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また、政府などによる公的な制裁だけではなく、民間企業による制裁もいくつか行われています。Appleがロシアでの製品販売を停止したり、Microsoftがロシアでのサービス提供を停止したり、ロシアのスマホ市場で30%以上のシェアを持つSamsungがロシアへの全製品の出荷を停止したり、その他さまざまなゲームや映画コンテンツなどがロシアへの供給を停止しています。トンプソン氏は「重要なことは、このような行動はほとんどが法律で定められたものではなく、各企業が決定したものであるということです」と指摘しています。
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トンプソン氏は「現代のインターネットは経済力を集中させる仕組みになっており、勝者がもっとも多くを手にすることになります」と述べており、サービスが中央集権的になることで代替品の可能性をほとんどつぶしてしまっていると主張しています。その一方で、仮に安価で高機能なプラットフォームがあっても、ユーザーはそのプラットフォームが「敵」と協調して行動していると考えて、使用を避けて代替品を探す可能性が高くなります。
例えばインドは、多くのハイテク企業にとって最も重要な長期的成長市場であると考えられていますが、インドはロシアとの関係がかなり長く、特に軍事面では中立状態を維持しています。そのため、民間制裁とインドの立場が影響して、インドに成長を期待するハイテク企業の長期的な展望を曇らせている可能性が高いとトンプソン氏は考えています。
また、中国は非常に特殊な立場にあります。中国にはグレート・ファイアウォールと呼ばれるネット検閲システムがあるため、他国のサービスが停止措置などを行ったとしても独自の代替手段があり、ほとんど制裁として機能しない可能性があります。そのため中国に欧米が行える制裁措置としては「半導体」という基本的な技術にあるとのこと。
中国の半導体産業は大きく拡大している一方で、最先端企業はサーバー用のチップを海外で購入しているため、2021年1月にはトランプ政権がHuawei関連の輸出の規制を行いました。中国がロシアのウクライナ侵攻を支持する姿勢を見せている場合に、欧米からこのような制裁措置を受けるリスクがあるとトンプソン氏は指摘しています。
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IntelとAMD、Samsungがロシアへの半導体出荷を停止しているほか、台湾に本拠地を置く世界最大の半導体企業のTSMCもロシアへの制裁に参加することを表明しています。これに加えて、ロシアにとって最大の電子機器供給国である中国に対しても、半導体出荷停止の措置を行うようアメリカから期待されているとトンプソン氏は考えています。しかし一方で、中国はロシアが経済機能を北京に依存するという見通しと、欧米に依存しない経済・技術システムの構築という長期的なプロジェクトを夢想している可能性もあり、それによって欧米の制裁を無視するとも考えられるそうです。
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by 李 季霖
加えてトンプソン氏は、「米中が実際に戦争をすることになれば、それはおそらく台湾が原因だと思います」と発言するほど、台湾の重要性を説いています。中国が台湾に対して何らかの行動を起こさない理由のひとつがTSMCの産業にあり、中国がTSMCに依存しない独自の半導体技術を開発した場合には、その抑止力が機能しなくなってしまうとのこと。
アメリカがとる戦略として、トンプソン氏は短期・中期・長期での効果とリスクを示しています。「中国に対ロシア制裁を求める代わりに、半導体での対中制裁を緩和する」とした場合、短期的にはウクライナへの進行を早期に終結させることができるかもしれません。しかし一方で、中期的なリスクとして、そこから中国がより高度な製品開発を行い、それが自国の軍隊に使われる可能性があります。さらに中国への規制を緩めることで、中国が制裁の影響を受けない独立した技術体制を構築するという長期的なリスクも懸念されています。
「政府が行う制裁以上に、経済的な豊かさを破壊できる民間企業による制裁をよく考えるべきです」とトンプソン氏は主張します。技術産業が行使する能力は驚くべきものであり、それが明らかに善良な意図のために使用されている場合は支持することも簡単ですが、その能力が長期的にどれほどの恐怖を生むかも、改めて考えることが重要です。
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