世界で2番目となる「エイズウイルスを治療を必要とせずに克服した例」が報告される
後天性免疫不全症候群(エイズ)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染をきっかけに、免疫機能が失われ、本来であれば感染しないようなウイルスに感染する「日和見感染症」を発症したり悪性腫瘍が引き起こされたりする病気です。エイズは発症しないように薬で抑えることはできますが、体内からHIVを完全に除去することは非常に難しいとされています。そんな中、マサチューセッツ総合病院が、世界で2番目となる「HIVに感染した後に造血幹細胞移植を行うことなく体内からHIVが完全に消え去った例」を報告しました。
Scientists identify second HIV patient whose | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/934789
In Extremely Rare Case, a Woman With HIV Has 'Cleared' The Virus Without Treatment
https://www.sciencealert.com/extremely-rare-case-suggests-woman-was-naturally-cured-of-the-hiv-virus
HIVに感染すると、細胞内にあるDNAにHIVのゲノムのコピーが侵入し、「ウイルスリザーバー」と呼ばれる状態になります。この状態だと、HIVは抗HIV薬や免疫反応から身を隠すことができます。このウイルスリザーバーの状態時に、複数種の抗レトロウイルス薬を併用する抗レトロウイルス療法(ART)を処置することで、エイズの発症を遅らせることが可能ですが、ウイルスを完全に除去することは不可能とされており、この「ウイルスリザーバーの状態で体内のウイルスをいかに除去するか?」がエイズ研究における最大の課題となっています。
この治療法として研究されているのが「造血幹細胞移植」です。これは、HIV耐性を持つ白血球を作り出す骨髄を移植することで、HIVに侵食されない白血球を得てHIVを排除するという方法です。この造血幹細胞移植を利用して体内からHIVがほぼ消滅した例は複数報告されています。
世界で2人目のエイズ完治例か、「HIV治療でウイルスがほぼ消滅」した患者が報告される - GIGAZINE
そして、まれに抗レトロウイルス薬を投与しなくてもHIVの増幅が抑制され、エイズが発症しない「エリート・コントローラー」と呼ばれる人が存在します。エリート・コントローラーは体内の免疫細胞のうち、キラーT細胞の一種がウイルスを抑制するということがわかっています。マサチューセッツ総合病院ラゴン研究所の研究員であるシュー・ユー氏は、HIVのエリート・コントローラーを研究しており、ウイルスリザーバーの状態からゲノム上にHIVウイルスの配列が残っていない患者を確認したと2020年に発表しました。この患者は「San Francisco Patient」と呼ばれ、体中の細胞の塩基配列から新しくHIVを作るための塩基配列が発見されなかったとのこと。San Francisco Patientは造血幹細胞移植を行わずにHIVを体内から排除できた世界初の例となりました。
そして、今回ユー氏の研究チームが発表したのは、世界で2例目となる「Esperanza Patient」です。この患者は2013年にHIVに感染したと診断されましたが、8年にわたる追跡調査と10回にわたるウイルス量検査の結果、11.9億を超える血球と5億の組織細胞からHIVのゲノムが消えていたとのこと。患者は造血幹細胞移植を受けていませんでした。
ユー氏は「今回、幹細胞移植を行わなくてもHIVが体内から消滅した2例目が確認されたことで、HIV除去治療の実行可能性が示唆されました。私たちはARTを受けている人に、ワクチン接種によって今回確認された例と同様の免疫を誘導できる可能性を検討しており、ARTなしでもウイルスを排除できるように、免疫系を学習させることを目標としています」とコメントしました。
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