HIVが感染する瞬間を映像で捉えることに成功
by NIAID
人間の免疫細胞に感染・破壊し、最終的に後天性免疫不全症候群(エイズ)を発症させるウイルスが「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」です。HIVに感染した人の体内では、HIVが血液・精液・膣分泌液・母乳などで多く分泌されます。しかしその一方で、唾液・涙・尿などの体液には他の人に感染させる量のウイルスが分泌されないため、主な感染経路は「性的感染」「血液感染」「母子感染」の3つになると言われています。この中の「性的感染」の瞬間を捉えたムービーが公開され話題となっています。
HIV sexual transmission recorded live as the virus crosses the genital mucus membrane
https://www.zmescience.com/science/hiv-sexual-transmission-live-432423/
長い間、科学者たちはHIVが生殖器粘膜を経由して人間に感染すると推定していましたが、実際にその瞬間を見て確認したというわけではありませんでした。しかし、フランスのコーチン研究所の研究者たちが初めて尿道粘膜のイン・ビトロモデルでHIVがどのように免疫系細胞に感染するのかを実際に観察することに成功しています。
コーチン研究所の分子生物学者であるモルガン・ボンセル氏が、HIVに感染したT細胞を尿道粘膜のイン・ビトロモデルに取り込ませ、HIVが粘膜上の他の細胞に感染する瞬間を観察するという実験を行いました。実験では細胞を蛍光緑色のタンパク質で色づけすることで、観察がしやすくなるようにしたそうです。ボンセル氏によると、ウイルスシナプスが形成された瞬間、細胞がどのように粘膜上の上皮細胞と接触するのかを記録することに成功したとのこと。
以下のムービーで蛍光緑色に光っている点の集まりがHIVに感染した細胞、つまりは感染源です。これがシナプスを経て粘膜上の上皮細胞に接触している瞬間が映されているとのこと。
Top View of HIV-Infected Cell in Contact with Epithelium - YouTube
上皮細胞の表面がトランスサイトーシスすることでHIVが運搬されると、HIVは白血球の1種であるマクロファージに囲まれます。
HIV-Infected Cell Forms and Sheds Virus to An Epithelial Cell - YouTube
ボンセル氏が「HIVに感染した細胞が1度上皮細胞と接触すると、弾丸のようにウイルスを流出し始めます。数時間に渡って粘膜に蛍光緑色に着色されたウイルスを流し込んだ後、感染した細胞は分離して去って行きます」と語るように、弾丸のようにウイルスを放出し、最後は感染した細胞を分離して離れていくHIVの姿は以下のムービーで確認できます。
HIV-Infected Cell Sheds Virus and Leaves - YouTube
ボンセル氏ら研究チームによるHIV感染の瞬間を捉えたムービーで最も驚くべき知見となったのは、ウイルスに感染したT細胞がマクロファージの真上にある上皮細胞をターゲットにしたことでした。これはマクロファージと上皮との間に相互作用が存在する可能性を示唆しているとのこと。
HIVに感染したマクロファージはウイルスを20日間にわたって生産し続け、その後、細胞は非ウイルス産生状態になります。役割を終えたかにみえますが、このウイルスはまだ生殖器組織のマイクロファージに貯蔵されています。これが「なぜHIVの治療が困難なのか?」の一種の答えで、HIV治療薬(抗レトロウイルス薬)ではHIVが貯蔵されたエリアにまで治療が行き届かず、薬の服用をやめると再び感染源になってしまうためです。
近年の研究では粘膜レベルで作用するワクチンを用いることで、感染初期に投与してHIV貯蔵エリアの形成を避けることができるワクチンを開発しているとのこと。また、研究チームは既にできあがっているHIV貯蔵エリアを分離するための方法を見つけるために研究を進めています。
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