中国の科学者が「ゲノム編集でHIV耐性を持つ双子の女児が誕生」と発表、倫理面や内容には強い疑問の見方も
中国の科学者が、DNAのゲノム配列を自由に入れ替えることができる技術「CRISPR-Cas9」を使って遺伝子操作を行った双子の女児が誕生したことを発表しました。研究者は、遺伝子操作によりHIVに対する耐性を持つ赤ちゃん「露露(ルル)」と「娜娜(ナナ)」が誕生したと主張していますが、論文は査読が行われる学術誌には発表されていないためその内容に疑問の声が寄せられているほか、「倫理的な問題がある」という厳しい批判も寄せられています。
Chinese researcher claims first gene-edited babies
https://apnews.com/4997bb7aa36c45449b488e19ac83e86d
発表を行ったのは、南方科技大学の賀建奎(He Jiankui)副教授。以下のムービーでは賀氏が実験の経緯やその意味について語っています。
About Lulu and Nana: Twin Girls Born Healthy After Gene Surgery As Single-Cell Embryos - YouTube
実験には7組の夫婦が協力しており、母親の子宮から採取した卵子に夫親の精子を注入する人工受精が行われています。賀氏は人工授精を実施する際に遺伝子操作を行うことで、エイズウイルスが細胞に入り込む「ドア」を閉じるようにしたとのこと。受精が確認され、受精卵の成長の初期段階で異常が無いことを確認した賀氏は、その受精卵を母親の子宮に戻しました。
その後、1人の母親から双子の赤ちゃんが2018年11月初旬頃に誕生し、健康チェックでも問題がないことが確認されたとのこと。また、双子の遺伝子についても検査が行われ、HIV耐性に関する部分以外には何の異常も確認されなかったと賀氏は主張しています。
しかし、賀氏の行為については科学界からも批判の声が噴出。倫理上の問題を完全に無視して進められた実験には「人体実験だ」という厳しい批判も寄せられています。
エイズ免疫持たせた赤ちゃん誕生=遺伝子操作に非難噴出-中国 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
http://www.afpbb.com/articles/-/3199232
倫理上の問題を無視した試みに国内外の中国人科学者122人が連名で非難声明を発表。当局も調査に乗り出すなど大きな波紋を呼んでいる。
しかし、倫理的な手続きを経ておらず、所属する広東省深セン市の大学も一切の関与を否定。中国人科学者の非難声明は「狂っているとしか形容しようのない人体実験だ」「人類全体に対するリスクは計り知れない」などと糾弾している。
賀氏によると、双子の父親は「Mark」という名前で、HIV感染者であるとのこと。自身の病気のため、もう子どもを持つことはできないと考えていたMark氏でしたが、今回の実験により子どもを授かることができて非常に喜んでいると賀氏は主張しています。賀氏は「遺伝子組み換え技術を疾病予防の分野に用いた歴史的一歩」と強調していますが、現状の科学界の見解を完全に無視した賀氏の取り組みに厳しい見方が寄せられるのは当然の結果といえそう。
賀氏は、2018年11月27日〜29日に香港で開かれるゲノム編集の国際会議で、実験データなどの詳細を発表する予定とのことです。
中国で「HIV免疫持つ双子が誕生」と報道 ゲノム編集:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASLCV7VV3LCVUHBI03L.html
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