中国政府が「世界初の遺伝子編集ベビーの誕生」を主張する科学者チームに研究中止を命令

by thierry ehrmann

中国の科学者が世界で初めて遺伝子編集を行った赤ちゃんを生み出したと主張している問題で、中国政府幹部がテレビ局の取材に応じ、遺伝子編集実験を行った研究チームに対して研究の中断を命じたと報じられています。

China halts work by team on gene-edited babies
https://www.apnews.com/0be63430c5914f09a124b968c844d994

2018年11月25日、南方科技大学の賀建奎(He Jiankui)副教授がYouTubeを通じて、「遺伝子編集技術『CRISPR-Cas9』を使って、先天的にHIVに耐性を持つ双子を生み出すことに成功した」と発表しました。ヒトの胚に対して遺伝子編集技術を使ってデザイナーベビーを生み出す実験は、いまだ倫理的な問題について議論が多く重ねられており、賀氏の発表には世界中から驚きと批判の声が集中しました。

中国の科学者が「遺伝子編集でHIV耐性を持つ双子の女児が誕生」と発表、倫理面や内容には強い疑問の見方も - GIGAZINE

2018年11月29日、中国の科学技術副大臣を務める徐南平(Xu Nanping)氏は中国中央電視台(CCTV)のニュース内で「2018年11月初めに遺伝子編集された双子の女児が生まれたとの報道に強く反対している」と語りました。さらに、徐氏は「双子に対する遺伝子編集実験は、学界が順守した道徳と倫理の線を越えており、衝撃的で容認できないものだ」と語り、研究チームの行動は違法なものであり容認できないとして、研究中止を命じたことを明らかにしました。ただし、研究チームが具体的にどのような捜査を受けたのかには言及しなかったとのこと。

2018年11月27日～29日に香港で開かれた遺伝子編集に関する国際会議では、14人の医学者・生物科学者が共同声明を発表。声明では「今回の国際会議では、人間の胚が編集され移植されたことで双子が誕生したという、予期しないひどく騒々しい主張がありました。この主張を検証し、発表されたDNA改変が本当に起こっているかどうかを確認するため、独立した研究評価を推奨します」と、双子の遺伝子編集実験を検証する必要性を訴えています。

また、共同声明では「たとえ遺伝子編集によるDNA改変が認められたとしても、その手順は無責任であり、国際的規範に準拠していません。その欠陥には、不十分な医学的適応、不適切に設計された研究プロトコル、研究対象の福祉を守るための倫理基準を満たしていないこと、臨床手順の開発・レビュー・実施における透明性の欠如が含まれます」と、遺伝子編集実験を行った研究チームを強く批判しています。

by The National Academies

国際会議の主催者で、カリフォルニア工科大学教授のデビッド・ボルティモア氏は国際会議初日のあいさつでこの問題に触れ、「科学界が指針や規範に従うのは至極当然のことです」と述べています。

by The National Academies

また、一部の著名な科学者は、今回の件は警察には手に負いきれないものであり、厳しい原則や規制を設ける必要があると述べています。一方で、ウィスコンシン大学ウィスコンシン大学の生命倫理学者兼弁護士のアルタ・チャロ氏は「賀氏が主張している実験は、既に存在している規則に照らし合わせても十分阻止できるものです。今回の失敗は科学界のものではなく、実験を行った賀氏自身の問題だと思います」とコメントしています。

実験を行ったと主張する賀氏は、この国際会議で実験データなどの成果を発表すると述べていましたが、報道によると既に香港を離れ、広報代理人を通じて「私は故郷の中国にとどまって、自分の研究に関するすべての質問に完全に協力します。私の持っている実験データは第三者によるレビューのために利用可能になる予定です」という声明を発表しています。