サイエンス

世界で2人目のエイズ完治例か、「HIV治療でウイルスがほぼ消滅」した患者が報告される


ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は人間の免疫細胞に感染して破壊し、後天性免疫不全症候群(AIDS/エイズ)を引き起こします。エイズの完治は困難とされていますが、2019年3月に「2人目の完治例」とされる男性の存在が明らかとなっており、2020年3月には男性が身元を明かしてインタビューに応じ、抗HIV薬による治療を止めても体内からウイルスが検出されず、症状も現れない「寛解状態」が30カ月にわたって継続していることが明らかとなりました。

Evidence for HIV-1 cure after CCR5Δ32/Δ32 allogeneic haemopoietic stem-cell transplantation 30 months post analytical treatment interruption: a case report - The Lancet HIV
https://www.thelancet.com/journals/lanhiv/article/PIIS2352-3018(20)30069-2/fulltext

The ‘London Patient,’ Cured of H.I.V., Reveals His Identity - The New York Times
https://www.nytimes.com/2020/03/09/health/hiv-aids-london-patient-castillejo.html

Second person cleared of HIV remains free of virus one year on | Society | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2020/mar/10/second-person-to-be-cleared-of-hiv-still-free-of-virus


AIDSは非常に完治が困難な病気であることが知られており、多くの患者は抗HIV薬を用いた治療を生涯にわたって継続する必要があります。ところが、1995年にHIV陽性と診断されたティモシー・ブラウン氏は、2007年から2008年にかけてドイツのベルリンで特殊な手術を受けた結果、体内からHIVウイルスが検出されなくなった「HIV感染が治癒した世界初の人物」として世界的に有名となりました。

ブラウン氏が受けた手術は「HIV耐性を持つドナーからの造血幹細胞移植」というもの。HIVの感染には白血球の表面に存在するCCR5というタンパク質が密接に関わっていますが、中にはCCR5の一部が欠損しているため「本来であればHIVに感染するはずなのにHIVに感染しない」人々がいることが判明しています。AIDSの治療中に白血病と診断されたブラウン氏は、こうしたCCR5の一部が欠損しているドナーから造血幹細胞移植を行った結果、体内からHIVが検出されなくなりました。

結果的にブラウン氏はエイズが完治した人物として有名になりましたが、ブラウン氏が受けた2度の手術は非常に大きな危険を伴うものだったそうです。ブラウン氏以降にも同様の手術を受けた患者はいたそうですが、いずれもエイズの完治が確認される前にがんで亡くなってしまったとのこと。


ところが2019年3月、「造血幹細胞移植を受けたところHIVが体内から検出されなくなり、寛解状態が続いている世界で2例目の患者が確認された」とのニュースが世界中で話題となりました。ロンドンで手術を受けたことから「ロンドンの患者」と呼ばれたこの患者は、2019年の時点で体内のHIV量が検出不可能なレベルに低下しており、抗HIB薬による治療をストップする分析的治療中断(ATI)が18カ月間継続されていたとのこと。

HIVが寛解した世界で2例目の症例が報告されてから1年後の2020年3月、「ATIの継続期間が30カ月まで延びても、患者の体内からHIVは検出されていない」とする新たな論文が発表されました。この論文の発表と共に、「ロンドンの患者」が初めて身元を明かしてインタビューに応じています。

「ロンドンの患者」として知られていた患者はアダム・カスティリェホ氏といい、2020年の時点で40歳だとのこと。2003年にHIV陽性であると診断されたカスティリェホ氏は、2012年に白血病と診断されて化学療法を続けていました。そんな中、2016年にカスティリェホ氏は、ブラウン氏と同様にHIV耐性を持つドナーから造血幹細胞移植を受けました。

by Andrew Testa/New York Times

造血幹細胞移植を受けて以降、カスティリェホ氏の体内でHIV量は減少し続けたとのことで、手術から16カ月後にはATIが開始されました。そしてATIの開始から18カ月が経過してもHIVが検出されなかったため、2019年にはカスティリェホ氏が「ロンドンの患者」として医学界に報告されました。さらに、ATIの継続期間が30カ月まで延びてもHIVは検出されず、寛解状態が続いています。

研究チームは今回の論文で、前回の論文を発表した後に他の科学者から寄せられた疑問に答えるべく、血液中だけでなく脳脊髄液、腸内、精液、リンパ節といった部位でもHIVを捜索しましたが、HIVは検出されませんでした。なお、白血球を含む一部の細胞ではHIVのDNAの痕跡がいくつか発見されたそうですが、単なるDNAの痕跡からHIVそのものが発生することはないとのこと。「私たちが検出しているのは、どうにもならないウイルスの化石です」と、研究チームのラヴィンドラ・グプタ氏はコメントしました。

当初は匿名の人物として発表されたカスティリェホ氏は自身の症例が世界中で報じられたことについて、「私はTVを見ていても、『OK、彼らは私について話している』と思うだけでした」「私は非常に奇妙な場所に存在していました」と語っています。やがてカスティリェホ氏は、自分の症例がエイズ患者の考えを楽観的にできるかもしれないと考え、身元を明らかにすることを決断したとのこと。「私は希望の大使になりたいのです」と、カスティリェホ氏は述べています。

グプタ氏はカスティリェホ氏のケースについて、「これはエイズが完治した2例目のケースです。最初のブラウン氏のケースが異常でも偶然でもなかったことが示されました」と述べつつも、両者が受けた治療は非常に難しく危険の大きなものであったことを指摘。ほとんどのHIV陽性患者においては、HIV耐性を持つドナーから造血幹細胞移植を受けるという治療法は適していないと付け加えました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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