抗HIV薬に対する抵抗性を持つウイルスが増加しているとWHOが警告

by freestocks.org

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は人の免疫細胞に感染して破壊し、最終的に後天性免疫不全症候群(エイズ)を発症させる危険なウイルスです。近年では抗HIV薬の発達によりHIVウイルスに感染した人の平均寿命は伸びつつありますが、世界保健機関(WHO)は「抗HIV薬に耐性を持つウイルスの増加が危険なレベルに達している」と警鐘を鳴らしています。

Alarming surge in drug-resistant HIV uncovered
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02316-x

HIVに感染した人はウイルスの増加を抑えてエイズの発症を食い止めるため、抗HIV薬による治療を受けます。単一の抗HIV薬を使用し続けると、ウイルスはすぐに耐性を獲得してしまうため、治療の現場では複数の抗HIV薬を組み合わせる方法(カクテル療法)が採用されていますが、このような方法にも関わらず、WHOは抗HIV薬に耐性を持つウイルスに感染している人々が増加していると指摘。

2014年から2018年にかけて、WHOは18カ国(ホンジュラス・キューバ・南アフリカ・ニカラグア・パプアニューギニア・ウガンダ・ナミビア・グアテマラ・アルゼンチン・ジンバブエ・エスワティニ・ネパール・メキシコ・カメルーン・ブラジル・コロンビア・ミャンマー・ベトナム)の無作為に選択された診療所において、薬物耐性を持つHIVウイルス感染者についての調査を実施。期間中に治療を開始したHIV感染者のうち、どれほどの人が抗HIV薬に耐性を持つウイルスを保持しているのかを調べました。

以下の画像が18カ国における調査結果を表したもので、横軸はネビラピン、あるいはエファビレンツという一般的な抗HIV薬に耐性を持つ感染者の割合を示すものです。そして赤い点が男性、緑色の点が女性を示しており、黒い点が全調査対象者の平均を示しています。調査対象国のうち実に12カ国において、新たに治療を開始した成人のうち10％以上が薬物耐性を持つウイルスを持っていることがわかります。全体としては調査対象となった女性の12％、男性の8％が抗HIV耐性を持つウイルスの感染者でした。

WHOによると、抗HIV薬耐性を持つウイルスの感染者が10％を超えると、同じ抗HIV薬を他の患者に処方することが危険とみなされるとのこと。パン・アメリカ保健機構の感染症専門家であるマッシモ・ジャルディネッリ氏は、「私は抗HIV薬耐性の感染率が危険なレベルに達していると考えています」とコメントしています。

また、アフリカのサハラ以南の国々においては、HIVに感染した乳児が高レベルの抗HIV薬耐性を持っているケースが増えているとのこと。2012年から2018年の間にこの地域でHIVに感染していると診断された乳児のうち、なんと半数がネビラピンまたはエファビレンツのうち片方、または両方の耐性を持つウイルスを持っていたそうです。

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WHOの感染症医であるシルビア・ベルタニョリオ氏は、ウイルスが薬物耐性を獲得する原因はわかりにくいと指摘。一方で、人々が抗HIV薬による治療を途中で中断してしまうことが、抗HIV薬に抵抗を持つウイルスの増加につながっているという可能性が示唆されているとベルタニョリオ氏は主張します。

たとえば妊娠中には赤ちゃんにHIVが感染してしまうのを防ぐために治療を行っていた女性が、出産後に抗HIV薬の服用を止めてしまうことがあるそうです。一旦治療を中断した期間を挟んだ女性においては、ネビラピンあるいはエファビレンツへの耐性を持つウイルスの保有率が21％もあり、継続して抗HIV薬を服用し続けた人の耐性ウイルス保有率(8％)を大幅に上回っています。

治療の途中で抗HIV薬の服用を止めてしまう理由として、「周囲の人に抗HIV薬を服用していることを知られたくない」という恥の意識が大きな要因かもしれないと、ベルタニョリオ氏は指摘しています。このほかにも、「診療所で薬剤が不足している」という物質的な原因が考えられるとのこと。

抗HIV薬耐性を持つウイルス感染者が増加している現状から、WHOは他の治療薬よりも効果的で薬物耐性を獲得されにくいドルテグラビルの使用を推奨しています。その場合も、途中で治療を止めることなく、継続的に服用を続ける必要があるとベルタニョリオ氏は主張しました。

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