スマホがドーパミン中毒者を量産している、中毒から抜け出す方法はあるのか?
TwitterやInstagram、Netflixといったデジタルメディアはスマートフォンを介して私たちの日常に浸透しました。しかし、デジタルメディアのせいで多くの人がドーパミン中毒に陥っているとして、なぜ人がドーパミン中毒になるのかや、中毒からどうやって抜け出すのかを、スタンフォード大学の依存症治療センターであるStanford Addiction Medicine Dual Diagnosis Clinicのチーフであり精神科医であるAnna Lembke(アンナ・レンブケ)博士が解説しています。
Constant craving: how digital media turned us all into dopamine addicts | Life and style | The Guardian
https://www.theguardian.com/global/2021/aug/22/how-digital-media-turned-us-all-into-dopamine-addicts-and-what-we-can-do-to-break-the-cycle
脳で放出される神経伝達物質のドーパミンは、「快楽」にかかわる物質として知られていますが、実際には快楽や喜びそのものを与えるというより、「快楽が得られる行動を取るよう動機づける」物質です。ドーパミンは「空腹時にピザを探す」「性的に興奮した時に性行為を求める」といった行動の原因となるものであり、ゆえに科学者は「体験に対する依存度」を測る指標としてドーパミンを使用し、ドーパミンの放出量が多いほど中毒性が高いと判断します。
「将来的に発生することを見越して行動を起こす」時にドーパミンは放出されますが、「将来的に発生すること」が実際に起こった時、ドーパミン量は減少します。ドーパミン量が下落すると、さらなるドーパミン放出を求めて「もう1つチョコレートが食べたい」「もう1話だけドラマを見よう」という渇望が生まれますが、中毒症状が深刻でない場合は、このような渇望はすぐに過ぎ去ってしまうとのこと。
このような仕組みは生まれつき人の脳に組み込まれたもので、もともとは人の先祖がおいしい食べ物を探し続けるために機能しました。脳がドーパミン量を下げて恒常性を保つのも、「おいしい食べ物を探し続ける」ために必要なものだったからです。しかし、Instagram・TikTok・Netflixが存在するデジタル世界では、1つの渇望が満たされる度に次から次へと自動的に渇望を満たすものが示され、かつ渇望を満たすまでの障害が除去されているので、人類がかつて経験したことがないスケールで「快楽のスパイラル」が発生しているとのこと。
「手軽な快楽」に常に浸っているという状況は、言い換えると、将来的な計画や問題解決を行い人格の発達に重要な前頭前皮質ではなく、感情や情動にかかわる大脳辺縁系ばかりが使われていることを意味します。人が人生の課題にぶつかった時にデジタルメディアという「簡単に手に入る気晴らし」に逃避することで、「私たちの『ストレスを受け入れなければならない状況』の過ごし方が大きく変わりました。私たちは快楽を後回しにし、問題を解決し、さまざまな形の痛みや欲求不満に対処する能力を失っています」とレンブケ博士は述べています。
デジタルメディアに対する中毒を断ち切りたい場合、24時間から1カ月を目安に「デジタル断食」を行うことが推奨されています。デジタル断食の目的は「デジタルメディアを一切触らなくなること」ではなく、「適度な楽しみ方」を理解することであり、デジタル断食によって脳の回路をリセットし、自分がどれほどデジタルメディアに依存しているのかを把握することが重要とのこと。「過度の使用から節度の使用へ」という移行よりも、「禁欲から節度の使用へ」という移行の方が容易であるため、まずは一時的にデジタルメディアを絶ってから、「週末だけの利用」「寝室では利用しない」といった特定の使用方法を試みることが推奨されています。なお、デジタル断食の期間は長ければ長いほどよく、特に渇望が強くなる最初の12時間は「デジタルメディアにアクセスできない状態」を作り出すことをレンブケ博士はアドバイスしています。
なお、上記のような「デジタルデトックス」のアイデアは新しいものではありませんが、多くの人が言う「デジタルデトックスの先にある幸せ」を、レンブケ博士は保証していません。人が喜びを求めること自体は自然なことですが、レンブケ博士は「消費者文化が『人生はもっと楽しいはず!』という期待を作り出した」という点を指摘。「実際にはそうではありません。人生はつらいものであり、人がそのことを認め、葛藤の中にあっても孤独ではないと知ることで、逆説的に幸福が訪れます」とレンブケ博士は述べました。
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