サイエンス

「ドラッグ中毒」から抜け出せない依存症患者の治療に一筋の光

By Imagens Evangélicas

ドラッグの一種であるコカインは繰り返して摂取した場合に中毒を引き起こす可能性が非常に高く、一度でも中毒になってしまうと、使用をやめるのは非常に困難です。これまでの調査では、コカインを一度やめたのにも関わらず使用を再び始めてしまった患者の10人に4人が「コカインへの強い渇望」を感じたことが判明しています。そんな重度のコカイン中毒患者に対する治療のブレイクスルーとなる研究結果が、イギリスのケンブリッジ大学により発表されました。

Cocaine addiction: Scientists discover ‘back door’ into the brain | University of Cambridge
http://www.cam.ac.uk/research/news/cocaine-addiction-scientists-discover-back-door-into-the-brain

コカイン中毒の治療法に関する発表を行った、ケンブリッジ大学薬理学部のデビッド・ベリン教授は「コカイン使用者は、コカインの快楽性を求めて使用を開始することがほとんどです。しかしながら、頻繁に使用するうちに、快楽を欲するのではなく使用しないと耐えられない状態に陥ってしまい、強制されているかのようにコカインを摂取するようになります。我々は、なぜこのようなことが起こってしまうのか理解したかったのです」と話しています。

By Lee Morley

薬物の使用は人間を興奮状態にする神経伝達物質のドーパミンを分泌させる作用があり、1回目の使用こそドーパミン分泌による快楽を求めて摂取しますが、使用期間が長期にわたるに連れて自制心がきかなくなり、「一時的な摂取」から「習慣的な摂取」に変わっていくというわけです。

ベリン教授と共に研究を率いたケンブリッジ大学心理学部のバリー・イブリット教授は、マウスがコカインを自由に摂取できる環境で実験を行ったことがあります。実験では短期にわたってコカインを摂取したマウスの目標指向行動をつかさどる脳の側坐核(そくざかく)という部分に、ドーパミンの分泌を示す反応が確認されました。しかしながら、コカインを長期にわたって摂取したマウスの場合、ドーパミンの分泌が意思決定や習慣的な行動に関わる線条体でも確認されました。線条体でドーパミンの分泌が確認されたマウスは、すでに自制心を失ってコカイン摂取が習慣のようになっていたそうです。

3カ月以上の長期にわたって薬物を摂取すると、刺激と感情をリンクさせる脳の扁桃体の基底外側核という部分に、コカインによる快楽の記憶が保存されます。しかし、脳の前頭前皮質という部分が扁桃体の基底外側核に保存されたコカインの記憶を操作し、コカインをこれ以上摂取するべきかどうかを判断します。このため、薬物やコカイン中毒者の治療では前頭前皮質の機能の回復や改善に焦点を当てた認知行動療法を用いられるのですが、ベリン教授とイブリット教授は、コカインの長期使用でドーパミンが分密される「線条体」と、快楽の記憶が保存される「扁桃体の基底外側核」の間に、前頭前皮質が関与できない未知の経路を発見。この発見が意味するのは、中毒者がコカイン摂取への欲求に気づかないうちに、コカインを服用してしまっているということです。

By Allan Ajifo

線条体と扁桃体の基底外側核に未知の経路があることを踏まえ、両氏はアセトアミノフェン過剰摂取の治療に使用されることがある「N-アセチルシステイン」をマウスに投与する実験を行い、同物質にコカインを摂取する意欲を減退させる効果があることが判明。両氏が率いた研究チームが、マウスを使って強制的にコカインを摂取させる実験を行ったところ、N-アセチルシステインが投与されたマウスは、プラセボが投与されたマウスよりも早い段階でコカイン摂取に対する欲望を失ったとのことです。

実験チームの一員であるミカエル・プアド氏は「薬物中毒の特徴は、健康を害したり、家族や友達を失ったり、仕事を辞めたりといった実害を被ってもやめられないことです。我々の研究はN-アセチルシステインが薬物を本当にやめたがっている人の手助けとなる可能性があります」と話しており、薬物中毒治療に新しい治療法が取り入れられるかもしれません。実験はマウスを使って行われたため、人間にでも同様の効果があるかどうかは判明していませんが、研究チームは人間でも同様の効果を得られる確信があるとのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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