人間関係や家庭環境の悪化に長く苦しむ人はドーパミンが脳内で分泌されにくくなることが判明
by Aarón Blanco Tejedor
人間関係や仕事上の問題、家庭環境の悪化といった心理社会的なストレスに長くさらされている人は、急なストレスに対処するために必要なドーパミンの産生能力に支障がでるという研究結果が報告されています。研究チームは、この研究結果が「心理社会的なストレスによって精神疾患や中毒のリスクが高まる理由」に関連する可能性を示唆しています。
The effects of psychosocial stress on dopaminergic function and the acute stress response | eLife
https://elifesciences.org/articles/46797
Chronic adversity dampens dopamine production | For the press | eLife
https://elifesciences.org/for-the-press/49f3ac1d/chronic-adversity-dampens-dopamine-production
論文の筆頭著者であり、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで精神医学を研究するマイケル・ブルームフィールド博士は「日常的に心理社会的なストレスにさらされていると、統合失調症やうつ病などの精神疾患を患うリスクが高まることが、これまでの研究でわかっていました。私たちは今回の研究で、ストレスによって精神疾患のリスクが増すメカニズムを解明しようと考えました」と述べています。
ブルームフィールド博士の率いる研究チームは、暗算によってストレスを与えるモントリオール・イメージング・ストレス・タスクを34人の被験者に実行。そして、ポジトロン断層法という技術を使って、タスクを終えてから2時間後に被験者のドーパミン産生を確認しました。なお、被験者の半数は心理社会的なストレスに日常的にさらされており、残り半数の被験者は心理社会的なストレスをあまり受けていなかったとのこと。
研究チームが注目したドーパミンは「楽しみ」や「報酬」といった要素をコントロールする神経伝達物質で、ドーパミンが脳内で分泌されると人はモチベーションが上がり、精神的にポジティブになります。また、ドーパミンの合成や産生をつかさどるドーパミン神経系は、突然のストレスに対処するためのシステムとしても機能します。
実験の結果、心理社会的ストレスをあまり受けていなかった被験者群の脳内ではドーパミンがストレスのレベルに応じて産生されていたのに対して、日常的に心理社会的ストレスを受けている被験者群は強いストレスを訴えながらもドーパミンの産生がほとんど行われていなかったことが判明しました。脳内でドーパミンが十分に産生されないということは、脳が急なストレスに対処できなくなるということを意味します。また、研究者によると、日常的に心理社会的ストレスを受けていた群はドーパミン産生以外にも、血圧の上昇やストレスホルモンの産生といったストレスに対する生理反応がほとんど見られなかったとのこと。
by Ángel López
ブルームフィールド博士は「今回の研究から、慢性的な心理社会的ストレスがドーパミン神経系を変化させてしまうことが、統合失調症やうつ病など、精神疾患のリスクを高める原因である可能性が示唆されました」と論じています。
また、論文著者の1人でキングス・カレッジ・ロンドンの分子精神医学者であるオリバー・ハウズ教授は「ストレスによるドーパミン神経系の変化が精神疾患のリスクに具体的にどう関わるのかを解明するには、さらなる研究が求められます」と述べました。
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