「孤独を治療する薬」が開発されている
by bialasiewicz
ハーバード大学が行った75年にわたる研究で、「人を幸せにするのは何か?」ということが調べられたところ、重要なのはお金よりも「社会的つながりの多さ」であることがわかりました。研究者は「孤独は人を殺す」とも述べています。孤独という社会問題を解決するための方法が模索されるなか、ある社会神経科学教授は「孤独を治療する薬」の開発にあたっています。
Can a Pill Fight Loneliness? | Innovation | Smithsonian
https://www.smithsonianmag.com/innovation/can-pill-fight-loneliness-180971435/
here's more proof that social media is hurting young people's mental health - i-D
https://i-d.vice.com/en_uk/article/a3xbjj/new-study-shows-social-media-is-severely-linked-to-depression
シカゴ大学で社会神経科学について研究を行うStephanie Cacioppo氏は、「孤独」の治療薬を開発している研究者の一人。Cacioppo氏は96名の「身体的には健康だが孤独を感じている」被験者に対してプレグネノロンというプロホルモン400mgを経口摂取してもらうという実験を行いました。副腎から生産されるプレグネノロンは記憶の増強やストレス増加に関係しているといわれています。
Cacioppo氏は研究の目的を「プレグネノロンレベルを標準化することの効果を測定すること」だと述べています。Cacioppo氏の仮説では、プレグネノロンレベルを標準化させることで、孤独な人々を引きこもらせる「恐怖感」を減らせるとされていました。
Cacioppo氏は、「孤独は喉の渇きのように自分の体が何を必要としているかを知らせるもの」と考えており、研究の目的は「孤独感を消すこと」ではありません。ただし、薬によって、他人との関わり合いに開眼させることは可能だと考えられています。
by jacoblund
「孤独な考えは常にあなたに付きまといます。すごく視界が悪い冬の日に運転していることを想像してください。薬が行うのは、やみくもに怖がるあなたの目の前にある窓から霜を取り払い、何が目の前にあるのかを分かるようにすることです。他人に耳を傾けることに対してあなたをオープンにします」とCacioppo氏はコメントしました。
近年は「孤独」が社会問題化しており、この原因は人口統計的、あるいは文化的、技術的な変化だと考えられています。2018年に発表されたアメリカ人2万人を対象とした調査では、調査対象のうちほぼ半分が「取り残されているような感覚」「1人だという感覚」を感じていると示されました。
孤独は循環器疾患や卒中のリスク要因となるだけでなく、免疫系を弱らせ、2型糖尿病になる確率を上げます。睡眠習慣にも悪影響を与えることに加え、孤独を感じていない人に比べて、孤独を感じている人は30%も早死のリスクが高いといわれています。
「孤独が早死のリスク要因となる」という点にはブリガムヤング大学の心理学者であるJulianne Holt-Lunstad氏も賛同しており、孤独感を悪化させる脳の問題を解消する薬の開発は非常に価値のあるものだとしつつも、開発された薬が医師や専門家の助言なしで販売され、過度に使われるようになる状況について懸念しています。また、他人との社会的つながりが「適切な食事」や「運動」といった健康的なライフスタイルの1つであるとみなされることが重要であるともHolt-Lunstad氏は述べました。
by Chalabala
Holt-Lunstad氏の意見にはCacioppo氏も同意するところであり、薬による治療は他者との関わりを持ちつつ日常的に行える運動療法と共に行うべきだとのこと。
Cacioppo氏は共に孤独について研究していた夫と2018年に死別しており、孤独がどのようなものかを個人レベルで理解していると述べています。「彼は私の最愛の人であり、双子のように、常に時間を分かちました。彼抜きで自分がやっていけるとは思いませんでしたが、私は生き抜きました。そのためには孤独な考えをシャットダウンするための長い道のりがありました。幸運なことに私は生理学の助けを借りることができました。長距離を走るとエンドルフィンが分泌されて大きな助けとなったのです」とCacioppo氏。
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「誰もが悲劇の後に毎日10km走れるわけではない」ということで、孤独から抜け出し人々が新しい人生のスタートを切り、新しい人間関係を築くべく、Cacioppo氏は新しい夫と研究をスタートしたそうです。「私は科学の生きる証拠です。私が孤独から抜け出せたのだから、誰でもできるのです」とCacioppo氏は語りました。
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