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故人の声をディープフェイクで再現したドキュメンタリー映画に「非倫理的」と非難殺到

by dackelprincess

アメリカのシェフで番組司会者のアンソニー・ボーディンが、2018年に亡くなるまでの半生を描いたドキュメンタリー映画「Roadrunner: A Film About Anthony Bourdain」が、2021年7月16日にアメリカで公開されました。この映画には、故人が手紙の中で残した言葉がディープフェイク技術により本人の音声として再現されており、これに対してネット上では「本人が言ってないことをAIで合成して言わせるのは非倫理的」との指摘が相次いでいます。

“Roadrunner” Review: The Haunting Afterlife of Anthony Bourdain in a New Documentary | The New Yorker
https://www.newyorker.com/culture/annals-of-gastronomy/the-haunting-afterlife-of-anthony-bourdain

Anthony Bourdain Documentary ‘Roadrunner’ Features AI Model of Late Chef’s Voice – The Hollywood Reporter
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/anthony-bourdain-documentary-roadrunner-features-a-i-model-of-late-chefs-voice-1234982850/

The Anthony Bourdain documentary and the ethics of audio deepfakes — Quartz
https://qz.com/2034784/the-anthony-bourdain-documentary-and-the-ethics-of-audio-deepfakes/

New Anthony Bourdain documentary deepfakes his voice - The Verge
https://www.theverge.com/2021/7/15/22578707/anthony-bourdain-documentary-deepfake-voice

「Roadrunner: A Film About Anthony Bourdain」は、著名なシェフであり、作家や番組司会者としての活躍も有名だったアンソニー・ボーディンの生涯とキャリアを描いたドキュメンタリー映画です。制作陣を指揮したのは、モーガン・ネヴィル監督。

by Samsung Newsroom

ニュースメディアのThe New Yorkerによると、本作の劇中にはボーディンの友人である画家のデビッド・チョー氏が、ボーディンから送られてきたメールを音読するシーンがあるとのこと。ボーディンの苦悩をつづる文面を読み上げるこの場面には、途中からチョー氏の声がボーディンの声になるという演出がなされているそうです。

このシーンの作成方法についてインタビューしたThe New Yorkerに対し、ネヴィル監督は「映画の中ではテレビ、ラジオ、ポッドキャスト、オーディオブックなどから抽出したボーディンの声をつなぎあわせて使っています。しかし、彼の声が必要な3つの場面には、録音された音声素材がありませんでした。そこで、あるソフトウェア会社に依頼し、12時間分の録音データを提供して、彼の声のAIモデルを作りました」と述べて、AIが合成した音声を使用したことを明かしました。


以下の動画を再生すると、AIが合成したボーディンの声が含まれている「Roadrunner: A Film About Anthony Bourdain」のトレーラームービーを見ることができます。IT系ニュースサイトのThe Vergeによると、再生開始から1分30秒後のシーンにある「and I am successful.(そして私は成功を収めている)」というくだりが、特に合成音声だということが分かりやすい部分とのこと。

ROADRUNNER: A Film About Anthony Bourdain - Official Trailer [HD] - In Theaters July 16 - YouTube


ネヴィル監督はまた、男性向け雑誌・GQのインタビューに対し「念のため、ボーディンの未亡人や遺著管理者に確認したところ、『トニー(ボーディンのこと)ならきっと受け入れるだろう』と言ってくれました」と話しました。しかし、映画関連のニュースを扱うThe Hollywood Reporterは、ボーディンが残した言葉を合成音声で再現したというネヴィル監督の発言が、SNS上で激しい議論の的になっていると報じています。

また、ボーディンの元妻であるオッタヴィア・ブシア・ボーディン氏はTwitterで「『トニーがそれを受け入れる』と言ったのは私ではありません」と証言しました。

I certainly was NOT the one who said Tony would have been cool with that. https://t.co/CypDvc1sBP

— Ottavia (@OttaviaBourdain)


このツイートには、「ボーディンが実際に話した音声が何時間も使われているのだから、彼の声をAI化する必要はないでしょう。それよりも、彼が最も愛した人々に彼の言葉を読み上げてもらったほうが、より真に迫るのではありませんか?」といったリプライや……

Which so many hours of clips available of things he actually said there seems no reason to create an AI version of his voice. Wouldn’t it be more poetic to have the people who loved him the most read his words instead?

— David Owen (@MisplacedMan)


「本人が言ってもいないことをAIで本人が言ったようにするのは、倫理にもとることです」といったリプライが寄せられています。

Seems unethical they used AI, it's deceptive. Unethical they claim you said something you didn't say. They could have found a way to include statements if they really tried without the deception. He seemed like an authentic person, I don't think he would have been cool with it.

— Suze (@MsSuzieQ3)


ニューヨーク大学のジャーナリズム学教授であるメレディス・ブルサード氏は、「ディープフェイク技術のような新しい技術がジャーナリズムに使われると、大きな倫理的ジレンマをもたらします。この種のテクノロジーがフィクションで使われたならもっと寛容に受け止められるでしょうが、ドキュメンタリーは本物だと考えられているので、だまされたと感じやすいのです」と述べました。

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in 動画,   映画, Posted by log1l_ks

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