サイエンス

科学と疑似科学の線引きはどのような歴史をたどってきたのか?


現代人の便利で豊かな生活は科学によって支えられていますが、間違っていて役に立たないどころか有害なことさえある疑似科学も存在します。アメリカ・コーネル大学で科学史を研究しているスーマン・セス教授が、「科学と疑似科学の境界線に関する議論が、科学の発展と共にどんな変遷をたどってきたのか」について論じました。

Why “Trusting the Science” Is Complicated
https://lareviewofbooks.org/article/why-trusting-the-science-is-complicated/

1772年~1778年までイギリス王立協会会長を務めた医師のジョン・プリングルは、牛肉を他の物質と組み合わせてその腐敗を観察する実験により、酸だけでなくアルカリ性の物質も腐敗を遅らせることを発見し、それまでの科学界の常識を覆しました。こうした知見を元に、プリングルは自著の中で「腐敗を遅らせたり、腐敗の進行を逆行させたりするような物質を飲めば、腐敗が原因となる病気を治せる」と主張しました。

プリングルの説を強力に後押ししたのが、壊血病の治療にかんきつ類の果汁が効果的だったという点です。壊血病は、傷口や歯茎が壊死(えし)してひどい悪臭が生じるといった症状があったことから、当時は「体が腐る病」だと考えられていました。そのため、「保存性に優れた飲み物であるかんきつ類の果汁が肉体の腐敗を食い止めたのだ」というプリングルの主張は、当時としては非常に科学的な理論でした。


壊血病はビタミンCの欠乏によって起きることが分かっている現代では、プリングルの主張は誤りだと簡単に分かります。しかし、微量栄養素の存在が解明されるはるか前に、プリングルが壊血病治療の糸口をつかんだというも事実です。このことから、セス教授は「何が『いい科学』で、何が誤解に基づくお粗末な推論だったかというのは、結局時間の経過と後知恵でしか分からないものです」と指摘しました。

近年に入り、科学と疑似科学をどのように区別すべきかという議論が活発になると、オーストリアの哲学者であるカール・ポパーは「線引き問題」を提唱し、その中で「反証可能性のないもの、すなわちその理論が間違っているという証拠を示すことができないような理論は科学ではない」と説きました。

ポパーの線引き問題は、カール・マルクスの共産主義やジークムント・フロイト精神分析学など、当時科学か否かが活発な議論の対象となっていたテーマに鋭く切り込んだものでしたが、現代ではあまり支持されていません。というのも、「反証できなければ科学ではない」というのは、裏を返せば「反証できれば科学である」ということになりますが、これは明らかに誤りだからです。


反証可能性を基準とすることの欠点について、セス教授は「『私の体重が10ポンド(約4.5kg)も増えたのは、妖精が体重計に乗っかったからである』という理論は、残念ながら簡単に反証が可能ですが、明らかに科学ではありません。また、宇宙の起源を科学するビッグバン理論の検証はほぼ不可能です。つまり、反証可能なものがすべて科学的だということではないし、科学のすべてが反証可能だということでもないわけです」と述べました。

セス教授によると、アメリカの科学界では現在でも反証可能性の基準が根強い支持を受けているとのこと。これは、「神が宇宙や生命を創造したという創造論を学校の理科の授業で教えてもいいのか」という議論が社会問題になった名残だといわれています。1981年から翌年にかけて行われた創造論者対アーカンソー州教育委員会の裁判で、創造論に反対する証言を行ったイギリスの科学哲学者マイケル・ルース氏は、ポパーの主張の問題点を知りつつもそれを引用しました。そして、この裁判を担当したウィリアム・オヴァートン判事はルース氏の主張を認め、科学を定義する条件の中に「反証可能性」を含めました。

こうした歴史の新しい流れになるとセス教授が見ているのが、プリンストン大学の科学史研究者マイケル・ゴーディン氏が自著「On the Fringe」の中で取り上げた4つの分類です。ゴーディン氏は、「科学的ではないもの」は以下4つのカテゴリに分類されると考えました。

1.痕跡科学
かつては完全に合理的だと考えられていたが、後に否定されてしまったもので、占星術などが該当します。
2.超政治的科学
特定の政治体制と密接に結び付いたもので、優生学などを特徴とするナチス・ドイツ時代のドイツ物理学が該当します。
3.主流の科学に反対する立場
純粋に研究によって成り立つのではなく、雑誌やさまざまな組織、博士課程制度などさまざまなものに影響を受けた主流科学に反対する立場。神の代わりに「何らかの知性」が生命や宇宙を創造したとするインテリジェント・デザイン論や、気候変動の否定論などがこれに当たります。
4.その他の超能力など
ただの詐欺師から真面目に超能力を研究している大学教授まで、さまざまな人がこの分野に当てはまりますが、最も典型的なのは映画「ゴーストバスターズ」の主人公の1人であるピーター・ヴェンクマン博士とのことです。

セス教授は、科学と疑似科学を見分ける完璧な方法はおそらく存在しないと指摘しつつ、「それらを見分ける手がかりはあります。例えば、科学的なコンセンサスに異議を唱えている人には、自分が否定したいと思っている理論を十分に理解しているか尋ねるのがベターです。また、反ワクチン論のような立場には、真実をゆがめている大規模な陰謀を前提にせず、データの欠陥などに依拠した合理的な議論を要求してみるべきです。かくいう私たちの常識も、ひょっとすると2世紀もしたら疑似科学だと冷ややかに見られているかもしれません」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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