ホメオパシーの科学的根拠とされノーベル賞候補が主張した「水の記憶」とは何か?

by Krystian Tambur

本来であれば体に毒である物質を限りなく希釈したものを錠剤として飲むことで病気を治療するという「ホメオパシー」は、医学的な根拠がないにも関わらず広まりを見せているとしてアメリカを中心に近年問題視されています。しかし、ホメオパシー肯定派には「科学的根拠」が存在します。ホメオパシーの科学的根拠とされる「水の記憶」には、ある著名な研究者が大きく関わっていました。

What Is 'Water Memory'? Why This Homeopathy Claim Doesn't Hold Water
https://www.livescience.com/61273-homeopathy-chemistry-water-memory.html

「毒をもって毒を制す」の考え方で、その病気や症状を起こしうる物や薬を水で極度に希釈したものを投与することで病気の治療を行うという「ホメオパシー」はアメリカでは多くの人が利用しており、薬局では「ホメオパシー」とラベルが表示されている薬が販売され、ホメオパシー医師も存在します。このようなホメオパシーの薬は「喉の痛みにハーブティー」というレベルの内容ではなく、「ガンが治療できる」といったものも存在するため、かねてから問題視されていました。

アメリカ食品医薬品局(FDA)のホメオパシーについての規制が緩やかだったために、上記のような薬がはびこることになってしまっていたのですが、2017年12月18日(月)、FDAは危険あるいは不正な広告を行っているホメオパシー製品を厳しく取り締まっていく旨を発表しました。

by WerbeFabrik

ホメオパシーが有効とされる科学的根拠は、たとえ検知できないくらいに物質を希釈しても水素結合が変化するという「水の記憶」とされています。これは1979年に血小板活性化因子(PAF)の構造とヒスタミンとの関係についての著名な論文を発表した免疫学者のジャック・バンヴェニスト氏が、1988年になって「極度に抗体を希釈した後でも水溶液は抗原抗体反応を引き起こす能力を保持し続ける」、つまり「水は以前その水に溶けていたものを覚えている」といった内容の論文を発表したことから生まれた言葉。論文はNatureに掲載されたため大きな論争を巻き起こし、最終的には科学的反証のすえに否定されることになりました。そしてバンヴェニスト教授の論文は1991年に第一回のイグノーベル賞を受賞するに至っています。

イグノーベル賞は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるものですが、バンヴェニスト教授はジョークとして研究を発表したわけではありません。バンヴェニスト教授はパリ大学医学部を主席で卒業して研究者となり、生涯で2度ノーベル賞候補にノミネートされた人物であり、「水の記憶」についても大まじめでした。

「水の記憶事件」と呼ばれる一連の出来事についてバンヴェニスト教授は本を出版しており、和訳版もAmazonから購入できます。

真実の告白 水の記憶事件 -ホメオパシーの科学的根拠「水の記憶」に関する真実のすべて- (ホメオパシー科学選書) | ジャック・ベンベニスト, フランソワ・コート, 由井 寅子, 堀 一美, 小幡 すぎ子 |本 | 通販 | Amazon

1988年、世界で最も影響力のある英科学誌『ネイチャー』に掲載された論文により、ベンベニスト博士は科学界から理不尽な攻撃を受けた-。「水の記憶事件」の全容を明らかにし、フランスで波紋を呼んだ書の邦訳。


Amazonレビューは以下のような感じ。
内容には相当に疑問が残る

ホメオパシーの信者が、「この本を読めば科学的な疑問の余地はない」というので購入して読みました。
内容の半分が自分の結果を否定された恨みつらみです。それゆえ事実だけを抽出するのには、非常に読みづらいです。
簡単にいえば、薬物を10億倍に薄めると効果が出る、と主張しています。
これがどれくらいの薄まり方かというと、1ccの水は想像できますが、10億ccの水とは1000立方メートルです。一般的によく例えられるプールが 25メートルx17.5メートルx1.5メートル程度として660立方メートルですから、プール1.5杯分くらいに水1ccをいれた状態となります。
これくらいだとなにが起きても不思議じゃないと思います。
また実験前の水がなんの影響も持たないと、どう証明するのか、非常に気になります。
内容の途中には、電磁波の影響を受けるので、水が電磁波の影響を記憶しているのではないかなどともありますが、なんの実証も行っておらず、なんともすっきりしない本でした。
実験した条件がわかっただけに、かえって疑問が増えてしまいました。


真実を求める科学者の気概が伝わる本です

著者は慎重に実験の結果を述べており、ホメオパシー医学とは何の繋がりもなく、むしろとことん疑って検証しようという立場をとっています。
 そうして得られた結果に、「有効分子量が無いからありえない」などという頭の硬直した考えで否定され、進歩を阻む学会に反感を表わしています。 そもそも有効分子量というものはコロコロと変わっているもので、ホルモンが以前考えられていた有効分子量の何千分の1の濃度で生体に影響を及ぼす事が分かったりしています。
 また、水があらゆる生体反応の媒体として重要な役割を果たしている、と分かって来たのもつい最近の事です。科学的発展はこれからもずっと加速して続いて行くもので、古い知見を絶対のものとするのは素人考えです。
 水に電磁波を当てて結晶構造を操作する技術は中々面白く、細胞間コミュニケーションを司るシグナル伝達をスムーズにする作用が望めるかも知れません。 それにより代謝の正常化が確認できれば、ホメオパシー効果というのも証明できるかと思います。


現代の科学者の多くはバンヴェニスト教授の論文に否定的です。オレゴン州立大学の化学者であるメイ・ニーマン教授も水の記憶について「理にかなわない」とばっさり切り捨てています。「水の分子たちは互いに関わり合いながら絶えず回転しています。水素結合したり、結合を壊したりしながらです。言い換えると、水溶液の中には長期的な記憶を行えるような、半永久的な構造が存在しないのです」とニーマン教授はコメントしました。

また、極度に希釈された水溶液の中に物体が残っていたとしても、体に取り込まれた瞬間に消滅する、と研究者らは説明。人間の口の中は細菌・体液・ランチの残りもので溢れており、水に触れた瞬間にそれらが広がるので、水溶液に含まれるわずかなイオンの構造は圧倒されてしまうとのこと。また、胃の中には強い胃酸があり水素結合に大きなインパクトをもたらすことからも、仮に水の記憶が存在したとしても、体の仕組み上、一掃されてしまうと考えられるわけです。

by Krzysztof Puszczyński

イギリスホメオパシー協会(BHA)はホメオパシーの科学的根として水の記憶の他に「クランピング(群生)」を挙げています。これは、人間の目には見えないレベルで残っている物質の塊が体内でガスを発生させ服用者の体内でポジティブな効果を生み出すというもの。

水溶液の中で物質の分子は互いにくっつきやすく、ガス抜きをしなかった液体は確かに気圧が変化すると発泡します。しかし、群生や発泡といった現象はどんな水溶液においても起こりうることであり、ホメオパシーのレメディだけが持つ効果ではないとニーマン教授。

そして、化学者らがホメオパシー的な考え方において最も大きな欠陥であると考えるのは「極限まで精製された水」を用いるという前提にあることです。

わずかな物質が効果を生み出すためには、その物質が水溶液の中で支配的である必要があるため、極限までに精製された水が必要になります。そして極度に希釈された物質が支配的になる程度にまで水を精製することは、ほぼ不可能。水の中の不純物を取り除けば取り除くほど、水は周囲の環境からイオンを引き寄せ、水の容器でさえも水を汚染するとのと。

by ulleo

ただし、「少量であれば薬になるが、多く摂取すれば毒になる」というホメオパシーの考え方自体は現代医療に照らし合わせても間違いではありません。人を殺しうるボツリヌス菌を少量投与することで偏頭痛を治したり美容整形をおこなったりという行為は2017年時点でも行われています。ホメオパシーはこのような考え方を極端に捉えたものであり、科学的な根拠はないというのが研究者らの見方となっています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa