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ついに従来のバッテリーより10倍速く充放電できる「ナトリウムイオンバッテリー」の量産が始まる


スマートフォンや電気自動車をはじめとする多くの現行製品に使用されているリチウムイオンバッテリーには、環境破壊や資源の枯渇といった問題が付きまといます。リチウムよりはるかに豊富に存在しているナトリウムを使用し、リチウムイオンバッテリーより高速で充電できる新機軸の電池「ナトリウムイオンバッテリー」の商業生産に着手したと、アメリカのスタートアップ・Natron Energyが発表しました。

Natron Energy Achieves First-Ever Commercial-Scale Production of Sodium-Ion Batteries in the U.S. | Business Wire
https://www.businesswire.com/news/home/20240428240613/en/Natron-Energy-Achieves-First-Ever-Commercial-Scale-Production-of-Sodium-Ion-Batteries-in-the-U.S./

Lithium-free sodium batteries exit the lab and enter US production
https://newatlas.com/energy/natron-sodium-ion-battery-production-startt/

2013年設立のナトリウムイオン技術ベンチャー・Natron Energyは2024年4月29日に、ミシガン州ホランドにある製造施設でナトリウムイオンバッテリーの生産を開始したことを発表しました。

Natron Energyがナトリウムイオンバッテリーの生産を発表したのは2022年のこと。2023年に予定されていた操業開始は後ろ倒しになりましたが、アメリカでナトリウムイオンバッテリーの商業規模の生産が始まったのはこれが史上初とされています。


ナトリウムイオンバッテリーの最大の強みのひとつは、材料が入手しやすい点にあります。Natron Energyによると、同社のナトリウムイオンバッテリーは、ナトリウムの他にアルミニウムや鉄、マンガンなど豊富に入手可能な素材だけで製造されているとのこと。

身近なミネラルであるナトリウムは、地球上にリチウムの500~1000倍も豊富に存在していると考えられており、環境を害するような方法で採掘する必要もありません。また、生産地が限られるリチウムやコバルト、ニッケルなどのバッテリー原料とは異なり、ナトリウムイオンバッテリーの素材は安定供給が可能で地政学的なリスクに対しても強いとされています。


Natron Energyの共同CEOのコリン・ウェッセルズ氏は「アメリカ初の商用ナトリウムイオンバッテリー製造施設の操業を発表できることを嬉しく思います。ナトリウムイオンバッテリーは、高出力、高速充電、長寿命、完全に安全で安定した化学的特性を備えた、リチウムイオンバッテリーに代わる唯一無二の電池です」と述べました。

発表によると、Natron Energyのバッテリーはリチウムイオンバッテリーの10倍の速度で充放電し、即時の充電も可能であるため、短いサイクルで充電と放電を繰り返すバックアップ用バッテリーに適しているとのこと。また、5万サイクルという推定寿命も、この用途に向いています。


その一方で、2022年の記事には「Natron Energyのバッテリーのエネルギー密度は70Wh/kg」と記載されており、モバイル用途にするにはこの2倍以上は必要とされているため、当面は据え置き型のみが生産される計画です。2021年に160Wh/kgのナトリウムイオンバッテリーを発表し、電気自動車向けに200Wh/kgのエネルギー密度の実現も目指している中国のバッテリーメーカー・CATLなど、競合他社も続々とこの分野に参入しています。

今回ミシガン州に開設された製造施設では、フル稼働で年間600メガワットのナトリウムイオンバッテリーが生産される計画で、AIの爆発的な発展を支えるエネルギー貯蔵ニーズに応える蓄電池として、2024年6月にデータセンター向けのナトリウムイオンバッテリーが出荷される見通しです。

Natron Energyは今後、他の産業用電力市場にも注力するとしており、EVの急速充電や電気通信事業を将来のターゲットに挙げています。

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in ハードウェア, Posted by log1l_ks

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